『ミッション:インポッシブル』歴代テーマ曲全解説! 最新作『デッドレコニング』から元祖『スパイ大作戦』まで逸話&トリビア満載

筆者私物

1990年代に映画プロデューサー業に進出したトム・クルーズの初プロデュース作品『ミッション:インポッシブル』(1996年)。テレビシリーズ『スパイ大作戦』(1966年~1973年)をベースにした同作は、その後独自の進化を遂げ、今や業界屈指の大ヒットシリーズとなった。

主人公イーサン・ハントを演じるクルーズの超絶アクションが毎回話題になっているが、特徴的なテーマ曲が響き渡る音楽もこのシリーズの魅力のひとつである。最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の公開に合わせて、『M:I』シリーズの音楽を振り返っていきたいと思う。

半世紀以上にわたって愛される不滅のテーマ曲

映画/テレビドラマ史に残る不滅のテーマ曲「スパイ大作戦のテーマ」を作曲したのは、『ダーティハリー』(1971年)や『燃えよドラゴン』(1973年)の音楽で知られる巨匠ラロ・シフリン。「シフリンは3分ほどで作曲した」「ブルース・リーがトレーニング中に好んで聴いていた」など様々な伝説を持つテーマ曲だが、中でも「5/4拍子のリズムが“Mission: Impossible”の頭文字の「M(--)」と「I(・・)」のモールス符号に対応している」という分析が大変興味深い。スパイドラマのテーマ曲らしい逸話と言えるだろう。

シリーズ音楽の礎を築いた『ミッション:インポッシブル』

シリーズ第1作の音楽を担当したのは、ティム・バートン監督作品の音楽で知られるダニー・エルフマン。アラン・シルヴェストリの音楽が不採用になり、彼の後任として雇われ、短期間でのレコーディングを余儀なくされた仕事であった。

そんな中、エルフマンは「シフリンの作曲した『スパイ大作戦』のテーマと「The Plot」を使いつつ、自身のオリジナルのモチーフを聴かせる」というシリーズ音楽の基本形を作り上げた。

ヒッチコック主義を追随するブライアン・デ・パルマ監督と、バーナード・ハーマン(『めまい』[1958年]や『サイコ』[1960年]で知られる作曲家)を敬愛するエルフマンの音楽は相性が良かったと思われる。

なお本作には、U2のアダム・クレイトンとラリー・マレン・ジュニアが「スパイ大作戦のテーマ」のEDMカヴァーを提供しており、エンドクレジットで使用された。

ギターロック路線にシフトした『M:I-2』

2000年製作の第2作では、『ブロークン・アロー』(1996年)と『フェイス/オフ』(1997年)でヒットを飛ばしたジョン・ウーを監督に招聘。これらの作品でタッグを組んだハンス・ジマー(後者はジョン・パウエルのスコアプロデューサーとして参加)が音楽を担当することになった。

ジマーは仲間のミュージシャンと<The Mission: Impossible II Band>を結成し、エレクトリックギターのサウンドを前面に出したロック系の劇伴を作曲。リンプ・ビズキットとメタリカが楽曲提供したこともあり、シリーズの中では異色の音楽となっている。

とはいえエイトール・ペレイラの情熱的なスパニッシュギターや、リサ・ジェラルドのドラマティックな歌唱のような音楽演出はさすがジマーといったところである。

フルオーケストラ音楽に回帰した『M:i:III』

テレビシリーズ『エイリアス』(2001年~2006年)や『LOST』(2004年~2010年)をヒットさせたJ.J.エイブラムスが監督を務める2006年の第3作では、両作品の音楽を担当したマイケル・ジアッキーノを抜擢。

筆者は当時サウンドトラックアルバムの仕事で彼にインタビューすることが出来たが、ジアッキーノは本作の音楽について以下のように語っていた。

僕は『M:i:III』の音楽は100%オーケストラでやりたいと思った。スコアのノリをよくするためにドラムループや電子音を使いすぎると、映画から人間味が薄れてしまって、登場人物と観客との一体感が失われることがあるからね。スコアを作曲する時、僕はいつも人物描写と物語に気を配るようにしているんだ。

ちなみに112人編成のオーケストラには、俳優のダーモット・マローニー(『ゾディアック』『アバウト・シュミット』ほか)もチェロ奏者として参加している。そしてレコーディングを見学に来たクルーズは、「スパイ大作戦のテーマ」のオーケストラ指揮に挑戦したという。ジアッキーノいわく「ダーモットの演奏は素晴らしかった。トムの指揮は遊びみたいなものだったから、その演奏はサウンドトラックアルバムには使われていないけど、なかなかキマってたよ」とのこと。

音楽の躍動感が増した『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

2011年の第4作では、アニメーション映画『Mr.インクレディブル』(2004年)や『レミーのおいしいレストラン』(2007年)のブラッド・バードが長編実写映画を初監督。バードはこれらの作品でジアッキーノと仕事をしていたので、本作の音楽も引き続きジアッキーノが担当した。

「生楽器主体のフルオケスコア」という方向性は前作と同じだが、バードの活劇タッチの演出に合わせてドラムスとベースのグルーヴ感が増し、モスクワ、ドバイ、ムンバイなど物語の舞台となる都市のムードが音楽にも反映されるようになった。その結果、前作よりも躍動感に満ちた劇伴に仕上がっている。

音楽の芸術性を高めた『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

クリストファー・マッカリーが監督を務めた2015年の第5作では、彼の監督作『誘拐犯』(2000年)と『アウトロー』(2012年)でタッグを組んだ作曲家のジョー・クレイマーを起用。「テレビシリーズ放送当時でも演奏可能な音楽」というコンセプトを掲げ、シンセサイザーを使わない“レトロ・シンフォニック”な劇伴を作り上げた。

そしてクレイマーはプッチーニの歌劇「トゥーランドット」のアリア「誰も寝てはならぬ」の旋律を一部の劇伴の中に組み込み、イルサ(レベッカ・ファーガソン)のキャラクターを示唆するという芸術性の高い手法を用いており、彼の音楽をシリーズのベストに挙げるファンも多い。

ちなみにドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』(2016年)の中で、本作のレコーディングの様子を観ることが出来る。

ダークでパーカッシブなサウンドが印象的『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』

2018年の第6作ではマッカリーが再び監督に就任したものの、諸般の事情によりクレイマーは不参加。新たに『ゴースト・イン・ザ・シェル』や『レゴバットマン ザ・ムービー』(共に2017年)のローン・バルフェが音楽担当に指名された。

バルフェは12人のパーカッショニストにボンゴを演奏させ、オーケストラと合唱団を動員したモダンでパーカッシブな劇伴を作曲。『ローグ・ネイション』から音楽の印象がかなり変わったが、それは「前作とは全く違う映像スタイルで撮る」というマッカリーのプランに沿ったものでもあった。

ヨーロッパ各地でレコーディングを敢行『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

バルフェいわく、彼は3年ほど前から『デッドレコニング PART ONE』の曲を書き始め、途中『トップガン マーヴェリック』の音楽制作の仕事を挟みつつ、ローマ、ウィーン、スイス、ロンドンなどヨーロッパ各地でレコーディングを行ったという。セッションに参加したミュージシャンは555人にも及ぶとのことだが、バルフェは「重要なのはオーケストラの規模ではなく、それをどう使うかだ」と米メディアに語っている。

サウンド的には前作の雰囲気を踏襲した劇伴となっており、より強力になったパーカッションのリズムと、スイスのドラムコー(マーチングアンサンブル)<Top Secret Drum Corps>のキレのある演奏も印象的だ。重厚かつリズミカルな音楽が映像と一体になった時、物語にどのようなスリルと興奮をもたらすのか注目したい。

文:森本康治

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は2023年7月21日(金)より全国公開中

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