一気に14名が“解雇”。アウディのワークス活動終了に戸惑うファクトリードライバーたち

 アウディスポーツのファクトリードライバーたちは、ドイツのメーカーがスポーツカーレースへのワークス参戦を2023年いっぱいで終了すると発表したことを受け、戸惑いのなかで次のステップを考え始めている。

 アウディスポーツは契約ドライバー14人全員を解雇することを決定し、彼らは7月11日に行われたグループビデオ通話でこの事態を知らされた。

 カスタマーチームは来年もアウディR8 LMS GT3 Evo IIで各レースに参戦することができ、アウディスポーツはサーキットにおけるサポートは継続することを確認しているが、ファクトリーサポートによるレース参戦はなくなり、新車の生産は段階的に終了する。

 先週、ニュルブルクリンクで開催されたGTワールドチャレンジ・ヨーロッパ/エンデュランス・カップに参戦した数名のドライバーは、今回の事態への対応について次のように語っている。

 ニュルブルクリンク24時間レースで2度優勝しているフレデリック・バービシュは、「基本的に仕事を失うことになるのだから、良いことではないよね。僕は6年間、そこにいたんだ」と語った。

「同じファミリーとして、一緒にいた時間はかなり長い。そして、僕よりも長く働いている従業員もいる」

「僕らだけでなく、このブランドに投資してきたチームにも影響がある。投資対効果がまったく変わってしまうんだ」

 バービシュは新しいメーカーに移籍することでファクトリードライバーであり続けたいと考えているが、多くのドライバーが同じ立場であることを考えると、それは難しいことだと認めている。

「14人のドライバーが一度に余剰人員となり、市場に放出されるんだ」と彼は言う。

「(スポーツカーレースには)新しいブランドが入ってきたり、出ていくブランドもある。僕には、マニュファクチャラーに対して提供できるものがたくさんあると思う。経験もあるし、スピードもある。それはアドバンテージにはなるだろう。でも、他の何人かはより若いから(キャリアを)長く続けられる」

「チャンスはあると思う。新しいル・マンのルールとLMDh(メーカー)の増加によって、(GT3には)いくつかのスペースがある。でも、LMDhのドライバーの中にはGT3にも参戦している者もいる」

 アウディスポーツの若手メンバーのひとりであるマティア・ドルーディは、来年は別の場所でファクトリードライバーの地位を確保するという目標に対して、楽観的な見方を示している。

 この25歳のドライバーは、アウディの発表のタイミングが将来の交渉のための充分なウインドウを与えたことを認めた複数のドライバーのひとりでもある。

「まだ12月というわけではないし、みんなと交渉するのに遅いというわけではない」とドルーディ。

「僕の場合、誰かとは話をしている。まだ早いから、8月には可能性を検討するためのミーティングをしたい。アウディと一緒にいることはもうないだろうから、変化のときが来たんだ」

「ひとりやふたりのドライバーがワークスドライバーというポジションを探しているときでもすでに難しいことだけど、いまや10人以上が探しているんだ。それに、常に新しいドライバーもやってくる」

「だから、僕らにとっては簡単なことではないが、悲観はしていないよ」

 2020年にアウディスポーツのファクトリードライバーとなったパトリック・ニーダーハウザーは、他メーカー移籍の可能性について「現在進行中」であることを認めた。

 アウディの取締役会の決定については 「みんながっかりしていると思う」とニーダーハウザー。

「GT3レースやモータースポーツ全体にとって、総合的に良くないことだ。僕らのほとんどにとっては理解できないことだけど、これは取締役会の決定であり、僕らはそれを受け止めなければならない」

「このタイミングでは、来年以降は基本的にフリーエージェントとなることを人々に知ってもらうことが重要だ。どうなるか見てみよう」

「理想的なのは、別のメーカーに移籍することだ。僕の個人的な目標は、最も競争力のあるマシンで可能な限り高い順位でレースをすること。これは、たいていの場合マニュファクチャラーとともに取り組むことだ」

「でも、GT3レース全般が少し変わってきているかもしれない。プライベーターとして走るいい選択肢もあるかもしれない。それは悪いことではないよ」

■アメリカに活路を見出すドライバーも

 アウディスポーツ内で変化が進行しているとの印象を受け、何人かのドライバーは今回のリストラを見越して移籍先を見つけていた。

 レネ・ラスト、ケルビン・ファン・デル・リンデ、ロビン・フラインス、ドリス・ファントールなど、数名のドライバーは2023シーズン開始に先立って離脱を決めた。

 一方、ニュルブルクリンク24時間とバサースト12時間で2度の優勝経験を持つクリストファー・ミースは、来年のIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップへの参戦をほのめかしている。

「今年の初めには、すでにプランがあった」とミース。

「だから、アウディの決断が僕に大きな影響を与えることはない。まだ何もサインしていないから、今は多くを語ることはできないけどね」

「でも、僕はアメリカのレースとIMSAの大ファンだし、僕の目標は来年IMSAのグリッドにGTカーで並ぶことなんだ」

 今年初めにIMSAのデイトナ24時間レースを訪れたミースは、リストラの影響はドライバーの顔ぶれだけにとどまらないと付け加えた。

「悲しくなるのは、ガレージ裏のエンジニアたち、チームのデータサポート・エンジニア、メカニックたちだ」

「彼らはここ数年、スパとニュルブルクリンクでのファクトリー参戦を除けば、あまりレースに参戦していない」

「彼らにとっては冷めた時代だっただろうし、まともなファクトリーレースに参加できなくなり、おそらくは会社を辞めることになるのは、本当に悲しいことだ。 彼らには申し訳ない気持ちだよ」

2024年の第1四半期をもって生産終了となるアウディR8 LMS GT3

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