爆速配信中『ザ・フラッシュ』感涙トリビア! 31年ぶり復活マイケル・キートンのバットマンやスーパーガール“だけじゃない”【ネタバレ御免】

『ザ・フラッシュ』©︎2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved ©︎& TM DC

『ザ・フラッシュ』のマルチバースで邂逅するヒーロー

この6月、予想を上回る大ヒットを記録した『ザ・フラッシュ』を見ただろうか? 大ヒットの背景として、普段DCコミック系やマーベル・コミック系の映画を見ている若い観客だけでなく、30~40年前に若い観客層だった大人たちが劇場に足を運んだことが指摘されている。(※『ザ・フラッシュ』はU-NEXTやPrime Video他にてプレミア配信中)

筆者もその一人で、昨今のVFX多用のアメコミものには食指は動かないのだが、これはちょっと見ておかなくてはと思ったのだ。それは、もちろんマイケル・キートンが31年ぶりにバットマンとして登場するという話題ゆえのことだが、見終わって、何とも贅沢な時間を味わえたことに満足した。……それは、本作の中で、いわゆるマルチバースとして提示されるさまざまなパターンの過去のヒーローたちの映像ゆえだ。

すっかりおなじみになった昨今の“マルチバース”もの

タイムスリップものというジャンルは昔からあるが、近年、たとえば映画の主人公が過去の別の時代にタイムトリップして、そこで出会った人々との些細な出来事が、結果として未来を大きく変えてしまう、つまり主人公が元の世界に戻った時にそれは厳密には元と同じ世界ではなくなってしまっている、という“バタフライ・エフェクト”理論に基づいた作品が増えてきた。

元々、“バタフライ・エフェクト”とは気象学者が「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こりうる」という理論を1972年に発表したのが由来だが、映画などのポップ・カルチャーではそれが“過去のちょっとしたことが大きく未来を変える”という形で描かれるようになった。日本では、日曜劇場『JIN -仁-』(2009年/2011年)で、幕末にタイムスリップしてしまった大沢たかお扮する主人公が、その医術の知識で様々な人を救うたびに、平成の世で写して懐に入れていた写真の絵柄が少しずつ変わってしまう、という形で描かれていた。

2023年のアカデミー賞作品賞に輝いた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』では、ミシェル・ヨー扮するコインランドリー屋経営の冴えない中年女性が、些細な選択の違いから複数存在することになる別の人生の可能性、つまりマルチバースを行き来できるようになるのだが、その別の世界ではカンフーの実力で女優として成功していたり、宇宙を救うヒーローだったりする様が示される。

CGアニメで描かれた近年のスパイダーマン作品『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)や『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)が、複数の次元から来たスパイダーマンたちの対立や共闘を描いているのもこの流れだ。

『ザ・フラッシュ』で描かれる、ほんのちょっと違う過去

『ザ・フラッシュ』で、エズラ・ミラー演じる主人公フラッシュことバリー・アレンが過去へ行く決意をするのは、母が何者かに殺され、父がその犯人と間違えられて冤罪で投獄されたあの日に戻って、二人の悲しい運命を変えようとしたのがきっかけなのだが、そこでなんと18歳の時の自分と出会ってしまう。バリーが自分の行動が時空を歪めてしまったと気づくきっかけになるのは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985年ほか)の話題になった時だ。

※以降、作品のネタバレを含みます。ご注意ください。

『BTTF』は、それ自体が時空を行き来するタイムスリップものであり、マイケル・J・フォックスを一躍スターにしたシリーズだということは誰もが知っている。そして、ディープな映画ファンであれば、『BTTF』が当初はエリック・ストルツ主演で撮影されたものの、途中でフォックスに代わったことで彼の陽性のキャラクターが支持されて大ヒットに繋がった――ということも知っているだろう。もしも『BTTF』をまだ見たことのない人がいたら、ぜひとも三部作を通しで見て、1980年代最大のヒット作のテイストを味わってほしい。

さて、バリー・アレンが戻った世界では、この事実が変わってしまっていて、18歳の時の自分も、その友人たちにとっても『BTTF』の主役を演じた俳優はエリック・ストルツだ、という別の事実が常識になっているという仕掛けだ。

別に『ザ・フラッシュ』の中に、映像として『BTTF』が出てくるわけではないのだが、ある時代を象徴するような映画でも、ほんのちょっとした偶然がなければ別の未来になってしまうということをうまく物語に取り入れて、マルチバースを表現していた。

マイケル・キートンが31年ぶりに『バットマン』を演じるという奇跡

さて、マイケル・キートンが31年ぶりに演じたブルース・ウェイン=バットマンだが、映画の中では、かつては皆に頼りにされゴッサムシティの守護神のような立場だったものの、今ではその存在すら忘れ去られ、世捨て人のように自身の広大な屋敷に籠って暮らしている。その姿は、髪の毛もひげも伸ばし放題、衣服も粗末なもので、訪ねてきた二人のバリー・アレンも最初のうちは、それがブルース・ウェインだと気が付かない。

キートンは、『バットマン』(1989年)、『バットマン・リターンズ』(1991年)のウェインがそのままその世界で30年間過ごしていたらどうなっているだろうか、と監督のアンディ・ムスキエティとディスカッションを重ね、世捨て人としてのウェインに辿り着いたのだという。だが、バリーたちの説明を聞いたウェインは重い腰を上げ、身だしなみを整えて31年ぶりにバットスーツを身に纏う。――映画の中でも、その瞬間というのは最も感動的で、興奮させられるシーンだ。

ちなみに『ザ・フラッシュ』では、前半は最近のDCコミックス映画の世界における<ジャスティス・リーグ>が描かれていて、その中ではベン・アフレック演じるウェイン=バットマンが、いつものように登場する。つまりは、一本の映画の中で、新旧バットマン役者の競演が見られる(といっても違う時空なので二人が一緒に画面に出ることはない)わけだが、実はさらに! ……いや、これはやはり未見の人の楽しみのために言わぬが花だろう。

マルチバースで映し出される過去の『スーパーマン』『スーパーガール』たち

二人のバリー・アレンとバットマンは、時空が歪んだことで蘇ったゾッド将軍を倒すため、ソ連に拉致されていたカーラ=スーパーガールを救出して、ともに死闘を繰り広げるのだが、思い描いた通りの結果を得られず、そのたびにバリーは時空を超えて元の時間に戻ることを繰り返す。それはあたかもテレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の第10話で、暁美ほむらが実は鹿目まどかが殺されずに済む結末を得るために何度も何度も同じ時間を繰り返していた時間遡行者であった事実が示された伝説のエピソードをほうふつとさせる。

さらに言えば、DCコミックものの映画化作品の原点ともいえる『スーパーマン』(1978年)で、クリストファー・リーヴ演じるクラーク・ケント=スーパーマンが、想いを寄せる同僚のロイス・レーン(マーゴット・キダー)の運命を変えるために時間遡行を試みたことを踏まえての展開であることは間違いないだろう。クリストファー・リーヴ版の『スーパーマン』は意外とセンチメンタルだったのだ。

さて、何度も時空を遡る過程で、バリーはさまざまなマルチバースでこれまでに闘ってきたヒーローたちの存在した世界を垣間見る。――クリストファー・リーヴ版の『スーパーマン』シリーズを見ていた世代のファンが、今回のスーパーガールは黒髪でクールだけど、以前の『スーパーガール』(1984年)のヘレン・スレイターも金髪で可愛かったなあ……などと思いながら見ていると、なんとそのヘレン・スレイターと今は亡きクリストファー・リーヴが、二人並んでスーパーガール&スーパーマンとして競演するという史上初めて映像が、バリーの垣間見るマルチバースの一つとして出てくるではないか!

なるほど、アーカイブス映像をこんな風にしてコンピュータ合成すれば、夢の競演も出来るのだなあ、と改めて映画の可能性に感じ入った。

幻に終わったニコラス・ケイジ版『スーパーマン』が遂に映像化されたことの意味

ところが、それだけでは終わらないのが『ザ・フラッシュ』のとんでもないところ。さらに別のマルチバースの中では、なんとニコラス・ケイジ扮するスーパーマンが巨大蜘蛛と戦っているではないか!

これは知る人ぞ知る、1998年にティム・バートン監督が製作しようとして頓挫した幻の映画のシーンなのだ。結果的にニコラス・ケイジ版『スーパーマン』(原題「Superman Lives」)は製作されることなく終わったのだったが、まさかこんな形でその映像をバーチャルに見ることができるとはファンは思ってもいなかったはずで、しかも、その時のケビン・スミスの脚本通りに巨大蜘蛛と戦うシーンなのだから、なおさらだ。

ケイジは本作のために実際にスーツを着て撮影したそうだが、例えばダニエル・クレイグ降板後の『007』シリーズの新作で、アーカイブス映像をコンピュータ合成して若いころのショーン・コネリーにジェームズ・ボンドを演じてもらう、なんてことも可能だろう。映画ファンとしては、わくわくすると同時に、なんだか空恐ろしいような、不思議な感覚を味わうことになるが、映画はこれからどういう方向に進んでいくのか、その未来をちょっと垣間見たような気持になること請け合いだ。

文:谷川建司

『ザ・フラッシュ』はU-NEXTほか超爆速プレミア配信中

『スーパーマン』『スーパーマンII 冒険編』『スーパーマンIII 電子の要塞』『スーパーマンIV 最強の敵』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年8月放送

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