金正恩の「淫蕩な行為」禁止令を鼻で笑う北朝鮮の若者たち

北朝鮮は2021年9月、「青年教養保障法」を制定した。思想の乱れが著しい若者に対する思想教育とともに、風紀取り締まりを強化するためのものだ。

韓国統一省のデータベースによると、この法律は5章45条からなり、若者がすべきこと、してはいけないことが事細かく決められている。

第41条(若者がしてはならない事項)
若者は次のようなことをしてはならない。
1. 殺人、強盗、強姦をはじめとした強力犯罪行為
2. 性不良行為、淫蕩な行為、売淫行為、賭博行為
3. 宗教と迷信行為
4. 不純出版物を流入、制作、複写、保管、流布、視聴する行為
5. 麻薬を製造、密売、保管、使用する行為
6. 窃盗、強盗、詐欺、横領行為をはじめとする国家および個人財産を略取する行為
7. 殴打、暴行、集団暴行をはじめとする社会共同生活秩序を紊乱させる行為
8. 自分たち同士でかたまったり、グループを作ったりする行為
9. 家庭の事情と病気を言い訳に軍事服務を拒否したり、軍事服務を行わない目的で早婚、身体検査と生活評定を不当に受けたり、自分の体を傷つけたり、逃げたりすることや、誠実に参加しない行為
10. 無職、チンピラになったり、組織生活から離脱して勝手に行動する行為
11. わが国の歌を歪曲して歌ったり、われわれ式でない踊りを踊ったりする行為
12. われわれ式でない異様な言葉で対話したり文章を書いたりする行為
13. 離婚、早婚、事実婚生活をする行為
14. われわれ式でない異様な服装、身なりをしたり、結婚式を挙げて社会の健全な雰囲気を乱す行為
15. 常識外れの行為を続けて、社会の安定と秩序確立を阻害する行為
16. それ以外に共和国法に抵触する行為

殺人や強盗、強姦が許されないのは言うまでもないが、韓流コンテンツや書籍、ファッション、ダンス、言葉の禁止、はては異性との同棲や替え歌の禁止まで多岐にわたる。やはり最近制定された「反動思想排撃法」と「平壌文化語保護法」という、特に若者をターゲットにして締め付ける法律と重複する部分も多い。

これらの法律に基づいて思想教育が行われているが、若者は耳を傾けず、無関心な態度を示しており、当局の狙った効果は上げられていないと、デイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮で若者と言えば、概ね40歳未満を指す。当局は彼らを「愛国、革命を受け継いでいく主役」と規定し、思想教育を強化している。しかし全く効果がなく、若者たちには馬耳東風。聞き流して鼻で笑っているのだ。それはなぜか。

「新世代は、まず自分のことが大切だと考えるため、国家観や人生観が親の世代とは完全に異なる。祖国、国家が後回しなのは当然のことながら、親、親戚、祖父母よりも自分が良い暮らしをすることを優先する」(情報筋)

北朝鮮は、プライベートを優先することを「個人主義」と言って批判の対象とする。しかし、若い世代にとってはその個人主義こそが大切なのだ。

「普通の若い世代は、自分たちが革命の継承者であるという教育には首を縦に振らないばかりか、理解のための努力すらしないことが多い。そうした考えに従うのは、革命学院(エリート学校)に通う若者くらいだろう」(情報筋)

若者は、取り締まりを恐れて表面上は国に忠誠を尽くしているフリをするが、内心では全く別のことを考えていると、当局ですら考えている。だからこそ、総力を上げて思想教育や取り締まりに取り組んでいるのだが、やればやるほど逆効果となる。

国が望む「健全な若者」が見つかればメディアで大々的に取り上げるが、そんな人がロールモデルになることはなく、鼻で笑われるだけだ。それほど、考え方に差があるということだ。

では、若者の望んでいるものとは何か。まずは自由にビジネスができる環境だ。そして兵役や勤労動員、思想教育など上からの押し付けのない環境、ファッションやヘアスタイルなどで自分を自由に表現できる環境など、当局が最も忌み嫌うものばかりだ。

北朝鮮は今後もしばらく、世界最悪の統制国家であり続けるだろうが、その実、国民に対する内面の支配は崩壊が始まっていると言えるかもしれない。

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