「あなたの方が悪い」パワハラを半年間“見て見ぬふり”し続けた上司に待ち受けていた“代償”

パワハラ防止法を軽く見ていたのだろうか…(mits / PIXTA)

Xさん
「先輩から暴言や暴行があるんです」

上司
「あなたの方が悪いのではないか」

ーーー 裁判所さん、いかがですか?

裁判所
「パワハラを放置してるね」
「会社もXさんに167万円を払え」

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▼ 本日のポイント
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・上司がパワハラを見て見ぬふりしたら
会社も賠償責任を負う
・社員さんへ
こう使おう! パワハラ防止法の使い方

以下、分かりやすくお届けします。(東海交通機械事件:名古屋地裁 R4.12.23)(弁護士・林 孝匡)

※ 裁判を一部抜粋し簡略化、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

事件の当事者

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▼ 会社
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・東海交通機械株式会社

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▼ Xさん
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・42歳(パワハラを受けた当時)

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▼ 先輩Y
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・中学校の同級生

どんな事件か

後ほど述べますが、6か月ほどさまざまなパワハラがあった挙げ句、傷害事件発生です。

先輩YがXさんの顔面を平手打ちして全治約3週間のケガを負わせました。これは刑事事件となり、裁判所は先輩Yに対して罰金30万円の略式命令を出しました。

Xさんは「先輩Yからパワハラされた」「上司はそれを放置したから会社にも責任があるはずだ」と主張して、民事訴訟も提起しました。

ジャッジ

弁護士JP編集部

裁判所
「先輩Yと会社は、Xさんに対して167万円を払え」

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▼ 先輩Yの責任
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先輩YはXさんに対して以下のようなパワハラをしました。

■ さらし者に
先輩Yは「Xさんの作成する書類に間違いが多い」との理由でXさんにお仕置きをしました。改善すべきことを紙に書かせて、他の従業員の前で【毎朝】朗読させるというもの。

■ 退職してもらうからね
先輩Yは「期限を守れなかった場合には退職する」と紙に書かせて、その後、期限を守らなかったことを理由に退職を迫った。

■ 頭を殴ってメガネを壊す
それから3か月ほど、いつ退職するのかと迫って頭をたたく。

裁判所
「社会通念上許容される業務上の指導を逸脱したパワハラだ」

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ここでマメ知識を。退職を強要されれば慰謝料を請求できます。ユー退職しない? レベルの退職勧奨との線引きは難しいところですが。良ければ下記の記事もご覧ください。

「じゃあ書けよ、書けよ!退職願を」「雑魚はいらねえんだよ」と迫った行為が退職強要と認定されたケース(慰謝料60万円)
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他は、以下のような嫌がらせを。

・名札を取り上げる
・Xさんの使用しているモニターをわざと壊し、モニターが壊れたことを会社に報告させる
・謝罪のために土下座を求める

裁判所
「これらの行為を正当化する理由はない。パワハラだ」

ーーー Xさん、不服そうですが...

Xさん
「ほかにもあるんです。先輩Yは私の後ろに座っていたのですが、椅子の背を私の椅子にぶつけてくる嫌がらせをしてきたんです」

裁判所
「ん〜...証拠がないです」

というわけで、録音しましょう! 証拠がなければ裁判所は冷徹です。今回のケースで言えば、仮に常時録音していて「ちょっと〜椅子ぶつけないでくださいよ〜」「いてっ!」という発言が何度も録音されていれば、パワハラ認定してくれた可能性があります。パワハラ上司と接するときは常時録音をオススメします。

mits / PIXTA

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▼ 会社の責任
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裁判所は、2名の上司がパワハラを放置したことは違法と判断。詳しくは以下のとおりです。

■ A所長
XさんはA所長に助けを求めていたんです。「先輩からの暴言や暴行があるんです」という相談を持ちかけたんです。しかしA所長は「あなたの方が悪い」と言って何の対応もとりませんでした。

■ B所長
B所長はXさんの隣の席に座っていました。自分の隣の席で先輩YがXさんの頭をたたくなどの暴行を何回もしていたのですが、スル〜。

裁判所
「A所長とB所長は、先輩YがXさんに対して暴力を振るっていることを認識できたので、Xさんが安全に業務にあたれるように先輩Yの暴力を止めさせる対応を講じる必要があった。それにもかかわらず何の対応もとらなかった。よって会社には安全配慮義務違反があったと認定する」

というわけで、先輩Yだけでなく、会社に対しても167万円払えと命じました(167+167ということではなく、連帯責任なのでどちらかが167万円払えばOKということです)。

パワハラ防止法の使い方

2022年4月からパワハラ防止法が全企業に適用されています。パワハラ防止法および厚生労働省指針は、以下の10個の義務を会社に求めています。

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「パワハラを許しません!」と周知せよ
「パワハラしたやつを厳正に対処します」と周知せよ
「相談窓口はココですよ」と周知せよ
「相談者のプライバシーを守ります!」と周知せよ
「相談しても何の不利益もありませんよ」と周知せよ
相談窓口をキチンと機能させよ
相談があればソッコーで事実関係を確認せよ
パワハラが確認できたら、被害者をレスキューせよ
パワハラが確認できたら、加害者にしかるべき措置をとれ
再発防止策をとりたまえ
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今回の事件で裁判所が「会社ダメじゃん」と判断したのは、上記の太字部分だと思います。Xさんからヘルプがあったのに、事実関係を確認せず、レスキューもせず、Y先輩にしかるべき措置もとっておらず、再発防止策もとっていないので。

■ ポイント
パワハラで悩んでいる方は、今回のXさんのように上司に相談して、その対応を記録しましょう(メールや録音などを駆使)。おざなりな対応をされた場合、会社に対しても損害賠償請求できる可能性が高まります。

パワハラ防止法の使い方は以下の記事に書いているので良ければご覧ください(会社内上司の悪質な“いじめ”が止まない… 「パワハラ防止法」は対抗手段の“武器”になる?)。

今回は以上です。これからも働く人に向けて知恵をお届けします。またお会いしましょう!

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