AIを使うと動物の鳴き声から言葉が分かるのか?進む解読、発声には意味がある 動物行動学者に聞く

動物の鳴き声は意志を持った「言語」なのだろうか。近年、AIを使って、動物たちの声に含まれているかもしれない言葉を読み解く研究が進んでいるという。ジャーナリストの深月ユリア氏が専門家に話を聞いた。

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米学術誌「Science」(2023年7月13日付)に発表された論文によると、英セント・アンドリューズ大学のクリスチャン・ルッツ教授が率いる研究チームは、AIを使って、動物たちの言葉の解読に挑んでいるという。

AIが音声や映像として記録された動物のシグナルを分析する、というものだが、同研究に参加するハーバード大学の言語科学者ダミアン・ブラシ博士(ハーバード大学)は、その量は「チャールズ・ダーウィンの『種の起源』と同じ長さの本200万冊以上にも相当する」という。

東北大学名誉教授で「アニマルウェルフェア」などの著者である動物行動学者の佐藤衆介氏によると、「かねて動物の言語を解析するという研究はあった」という。

「鳥類が繁殖期に特徴的に発声し、縄張りの主張やメスの誘因に関わっていることが1930年代に確認され、40年代からは音声を視覚化できる装置オーディオスペクトロメーターの出現により、鳥類のみならず様々な動物の音声が収集されてきています」(佐藤氏)

そして、研究の結果、動物たちには一定の言語パターンがあることが判明しているという。

「動物たちの音声は、単に縄張りや性誘因のみならず、様々な場面で様々な音圧、周波数、長さ、トーンで発せられることが明らかになり、さらに、鳥類のみならず、魚類・海洋性動物や森林性の動物等でも音声がコミュニケーションツールとして多用されていることも分かってきました。近年、京都大学の鈴木俊貴氏(※編集部注 京都大学白眉センター特定助教を経て、今年4月から東京大学先端科学技術研究センター准教授に就任)はシジュウカラの発声を研究し、単に情動を伝えるのみならず、発声の指示性や発声の組合せによる複雑な情報の伝達にも使用されていることを明らかにし、世界的にも注目を浴びています。古くから、畜産動物であるニワトリではヒナで12種類、成鳥で19種類、豚で15種類、牛で6種類が識別され、発声場面での調査と合わせて、各発声の意義が類推されています」(佐藤氏)

そして、AIを使っての研究も同プロジェクトに限ったものではないという。

「近年ではAIを使い、豚における多様な発声を『喜び』や『不快』情動と関連する発声に分類し、それらの多寡から生活の質(QOL)を評価しようとする試みも行われてきています」(佐藤氏)

なお、同研究には絶滅の危機に瀕したカラス等の鳴き声を解析するというプロジェクトも含まれ、「失われた種の声を取り戻す」という意義があるという。

「Science」によると、研究チームのメンバーである英セント・アンドリューズ大学のキャサリン・ザカリアン氏は 「動物の言葉を解読するだけでなく、それによって人類全体の文化をもっと優しいものにする」「最終的には、同じ地球で一緒に暮らしている様々な生き物を、もっと尊重するような文化へと変えていきたい」とコメントしている。

AIのテクノロジー発展も目覚ましいが、近未来、動物たちと人間同士のようなコミュニケーションが可能になる日が訪れるのかもしれない。

(ジャーナリスト・深月ユリア)

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