<北朝鮮内部調査>農村を軍が「包囲防衛」 農民500人の村に兵士100人派遣も 作物の盗難・流出を厳戒 軍民関係は好転

(参考写真)市場を徘徊する人民軍の兵士。住民たちにたかったり盗みはたらくなどして問題を起こすケースが絶えなかった。2008年9月に平安南道安州市で撮影アジアプレス。

「農村はまるで軍隊に包囲されているようだった」
7月中旬、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の協同農場を調査で訪れた取材協力者はこう述べた。春先から各地の農場に軍部隊が援農作業に動員されていたが、その任務は農作物の流出防止に変化しているようである。(カン・ジウォン

◆農場員500人の村に兵士100人駐屯か

咸鏡北道のA市に住む取材協力者が訪れたB協同農場は、農場員数約500人。主にトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模な農場だ。

7月以降、金正恩政権は農村に動員していた軍部隊の任務を、警備と取り締まりに重点を移した。農民との関係改善にも神経を使っているようであった。以下は、取材協力者とのインタビューである。

――B農場に駐屯している軍部隊の規模は?

「1個中隊です。そのうち2個小隊は、農作業も手伝っていますが、大雨による被害を未然に防ぐため、村の水路の管理や川の堤防の補強などに集中させていました。1個小隊は警備と取り締まりの仕事をしていました」

※朝鮮人民軍の1個中隊は普通3個小隊で構成、1個小隊の人員は35人程度だとされるので中隊の人員は100人程度。

――農場の規模に比べて兵士の数が多いですね。

「まるで軍隊が農村を包囲しているようで、入っていくのも難しいんですよ。検問に歩哨が立ち、生産物の移動統制はすべて兵士が担当しています。農作業より取り締まりと統制警備の役割の方がずっと大きい。

とにかく生産物に対する管理統制が厳しい。農民が個人の畑(庭など)で作ったジャガイモまで軍隊の統制を受けます。とても面倒くさい。私も知り合いの農民からジャガイモを買って村を出ようとしたところ、盗んだのかと疑われて、どこの家から持って来たのかを確認してやっと出られました」

※収穫が近くになると、畑に農場員や警察を動員して徹夜で盗難防止の警備をすることが常態化していた。

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――都市部では兵士によるたかり行為や強盗が問題になっています。

「軍民関係の改善にとても神経を使っている様子でした。兵士が農場で問題を起こしたら、指揮官を撤職(解職)すると通知があったそうで、部隊の中では「盗みを働くなら他所の農場でやれ。駐屯している村では絶対にするな」と指示があったそうです。

B農場では、5月に鶏を一羽盗んで食べた兵士が降格され、所属していた小隊が、農村から元の部隊に復帰させられたそうです。兵士たちも元の部隊に戻るとまともに食べられないのが分かっているで、規律が緩い農場で野菜でも食べている方がましだと考えて、今は盗みもほとんどないとのことでした」

――兵士たちは配置された農場で十分に食べられていますか?

「いえ、軍隊も食糧の供給が足りていませんよ。B農場の部隊は小麦と大麦を食べていましたが、兵士たちは腹がへるので川で魚を捕まえたり山菜を採ったりしていました。農場でも副食物(おかず)を支援してあげていました」

――農民にすれば腹を空かせた兵士は恐ろしい。

「軍部隊の方でも気を使っていました。薪など焚き物の用意や個人の畑の草取りなんかを兵士に手伝わせていて、農民たちとの関係はますまず良いようでした。軍隊が外から来る人間を統制して、食糧の持ち出しを警備してくれるので、『兵隊たちさえ盗みをしなければ、今年は泥棒の心配をしなくてもよさそうだ』と農場員が言っていました」

当局が軍部隊を農村に配置しているのは、協同農場から食糧が流出するのを防ぐのが目的だ。8月後半からトウモロコシの収穫が始まるが、あらかじめ、国家保有食糧の目減りを防ぐ準備体制をとっているということだろう。

アジアプレスでは、農村への軍部隊の駐留について、咸鏡北道の他、両江道(リャンガンド)、平安北道(ビョンアンプクド)のいくつかの農場で確認したが、全国的な措置なのかはわからない。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 制作アジアプレス

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