アスベスト切断・破砕時の「湿潤」見直しへ 集じん機付き電動工具で不要に 専門家から「実質的な規制緩和」と批判も

アスベスト(石綿)を含有する一部の成形板などを切断・破砕する際に義務づけられている湿潤の措置について、除じん性能を有する電動工具を使用する場合は除外する方針を厚生労働省は公表した。早ければ今秋にも政令改正の見通しという。(井部正之)

厚生労働省が5月16日に開催した「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会」のようす。切断・破砕時の規制変更に反対する委員はいなかった

厚生労働省が5月16日に開催した「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会」のようす。切断・破砕時の規制変更に反対する委員はいなかった

施行3年足らずで見直し

石綿を含む成形板を割ると破断面から石綿が飛散し、作業者や周辺の人びとを危険にさらす。その飛散を防ぐために水などを散布する工程を「湿潤」と呼ぶ。効果は限定的ながら簡易的な手法で石綿の飛散をある程度は減らすことができるため、湿潤は石綿を含む材料の除去に必須の作業である。

もともと労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)では、湿潤すればいくら石綿が含まれていても成形板などを破砕撤去してもよいとの規制だった。これが2005年7月の石綿則施行当時から批判され続け、15年経ってようやく見直されたのが2020年の石綿規制改正である。

労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)の2020年改正で、石綿を含む成形板など「石綿含有成形品」の除去は切断・破砕などせずに割らないように手作業でネジを外すなどしておこなう、原則「手ばらし」が義務づけられた(切断や破砕だけでなく、せん孔、研磨も含む)。例外は「技術上困難なとき」だけだ。

この例外規定に関連して、石綿を含む成形板など、しばしば飛散リスクがもっとも低いとされる「レベル3」に分類される建材(法令上の「石綿含有成形品」)のうち、「特に石綿等の粉じんが発散しやすいもの」として国は天井板や軒天によく使われる「けい酸カルシウム板第1種」や、公共施設などの内外壁などに多用される「石綿含有仕上塗材」を指定。これら2つの建材を切断・破砕などする場合、作業場をプラスチックシートで「隔離」養生することに加えて、切断面などに常時霧吹きのようなもので散水する「常時湿潤」することで、石綿粉じんの飛散やばく露を低減することも義務づけられた(同10月施行)。これは電動工具だけでなく、バール(かなてこ)のような手工具による切断・破砕などの作業も含む。

こうした作業時の「常時湿潤」規定について、5月16日に開催された「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策等検討会(座長:鷹屋光俊・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所所長)」で同省は見直しを提案した。

なぜ施行から3年も経過していない規定を変更するのか。

じつは2020年改正に向けた有識者会議で、除じん性能を持つ電動工具の使用を湿潤化の代替措置とすることを検討したが、除じん性能について十分な調査・研究が実施されていなかったことから同省は困難と判断。石綿則第13条の成形板の切断など際に湿潤が著しく困難な場合、除じん性能を有する電動工具の使用などを「努力義務」とした経緯がある。

その後同省は建材の切断などの際の石綿飛散について文献調査と実証実験を実施。その結果、同省は「除じん性能を有する電動工具には、十分な石綿等の粉じん発散防止効果があることは明らか」と結論に達したという。これをふまえて今回改めて検討会を開催して提案した。

委員からは反対なし

除じん機能を有する電動工具とは、電動工具と石綿を除去できる掃除機を組み合わせたもの。切断や研磨などをする電動工具の先端に防じんフードを付けた掃除機のノズルを装着しており、防じんフードを作業面にぴったりつけることで石綿の飛散を抑制しつつ石綿粉じんを除去する。

同省が改正方針を示したのは、石綿含有成形品の切断・破砕など(石綿則第6条の2)、石綿含有仕上げ塗材の電動工具による除去(石綿則第6条の3)、石綿等の切断・破砕など(石綿則第13条)の3つの規定だ。

石綿則第6条の2と第6条の3では、作業場所の隔離に加えてけい酸カルシウム板第1種や仕上げ塗材の常時湿潤化などの措置を講じることを事業者に義務づけている。この際、「常時湿潤化」以外の粉じん発散防止措置を認めていない。

電動工具の使用について定めた第6条の3に関連しては、現在「常時湿潤化」が必須で「切断面への散水などの措置を講じながら作業を行う」必要があるが、散水しながら電動工具を使用することは感電のおそれがあると指摘されていた。また、湿潤化の代替措置として認められているはく離剤については「有害性による健康障害の指摘もある」という。

切断・破砕などの作業時には適切な防じんマスクを使用することが義務づけられていることから、同省は「電動工具を使用する作業においては、除じん性能を有する電動工具を使用することにより、労働者の石綿等のばく露を低減しつつ、感電の危険性やはく離剤による有害性を避けることができ、作業場の安全衛生状況が全体として向上することが期待できる」との見解だ。

具体的にはけい酸カルシウム板第1種(第6条の2)と石綿含有仕上げ塗材(第6条の3)の切断などをともなう作業では現在の「隔離+常時湿潤」だけでなく、「隔離+除じん機能付き電動工具」との選択も可能にする。

またそのほかの石綿含有成形品(第13条)の切断・破砕などでは努力義務とされていた「除じん性能を有する電動工具の使用」「その他の石綿等の粉じんの発散を防止する措置」を「湿潤化」と同等の義務規定として、そのいずれかの措置で施工可能とする。

これらの同省の提案について、5月16日の検討会で鷹屋座長が念を押して確認したが、委員から反対はなかった。

次回6月15日の会合で同省は報告書案を示す。順調なら6月会合後すぐにパブリックコメントを開始し、7月末の労働政策審議会(安全衛生分科会)で議論することになる。今後の審議しだいではあるが、同省は早ければ今秋、遅くとも年内には石綿則を改正する方針だ。

しかし、委員の1人は結局反対までしなかったものの、「切断作業はかなり(石綿が)飛んでいる。グラインダーで切断するのは適切ではないな」と指摘している。

今回の改正方針について、石綿除去の現場に詳しい専門家からは「いくら集じん機が付いているといっても実際には高濃度の石綿が飛散している。湿潤なしは考えられない。実質的な規制緩和ではないか」と批判の声が上がっている。

【関連資料】厚労省のアスベスト規制見直し含めた切断・破砕などの作業方法の整理や改正方針の詳細

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