<北朝鮮内部>荒れる若者たち 義兄弟結び組織化 敵対グループ襲撃 職場離脱して金稼ぎ 当局は即決処罰で対応

(参考写真) 英語のTシャツを着てロッカー風のいで立ちの頑丈そうな青年。2013年10月に撮影されたが、現在なら「非社会主義的」と批判の対象になるだろう。両江道の恵山駅にて撮影アジアプレス

新型コロナウイルスパンデミックが発生した2020年1月以降、北朝鮮経済は悪化の一途を辿り、住民の困窮は深刻化している。その影響で若者たちが暴力沙汰を起こしたり、定められた職場を離脱して集団で金稼ぎをしたりするなど逸脱行為が増加している。当局は即決で処罰を科すなど厳格な対処に乗り出している。実態を北部地域の取材協力者が4月後半に伝えてきた。(カン・ジウォン

◆組織抗争で頭割れ腕が折れ…

「生活がどんどん苦しくなるにつれ、いろいろ問題を起こす若者が増えている。グレて徒党を組んで喧嘩をしたり、職場で暴力事件を起こしたり。また、職場を離脱して組織的に勝手に金稼ぎする傾向も増えている。当局は『非社会主義的現象』とみなして厳しい処罰に乗り出している」

北部の両江道(リャンガンド)に住む複数の取材協力者はこのように伝える。

「荒れる若者」について報告のあった具体的な事件をいくつか記してみよう。

3月中旬、恵山(ヘサン)市の製紙工場で除隊軍人の若い労働者が遅刻を上司に咎められて激高して殴り、3カ月の労働鍛錬刑になった。

4月初旬、恵山市で若者のグループ同士が抗争になり、相手の家を襲撃して家の中を破壊。頭が割れ、腕が折れる重傷者が出る事件があった。片方のグループの4人が逮捕され、即決で3カ月の「労働鍛錬隊」行きになった。捕まった首謀者は30代の除隊軍人で労働党員だった。

※「労働鍛錬隊」とは、社会秩序を乱した、当局の統制に従わなかったと見なされた者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしで収容して1年以下の強制労働に就かせる「短期強制労働キャンプ」のことだ。全国の市・郡にあり保安署(警察)が管理する。

「暴れている若者たちの中には、義兄弟の契りを結んで組織的に活動するグループまで登場している。住民たちも若者の組織の狼藉を恐れている。安全局(警察)がリーダーの摘発に乗り出しており、深刻な場合は即決で教化(懲役)に送っている」

協力者の一人はこのように言う。

◆グループで日雇い労働するのも「非社会主義」だと処罰

取締りの対象は喧嘩などの暴力行為だけにとどまらない。現金収入を得るための経済活動についても、当局は取り締まりの度を強めている。協力者は次のように説明する。

「今は誰もがほんとうに暮らしがしんどい。職場に出ても給料はほぼゼロ。わずかな配給だけでは暮らしていけない。現金を稼ぐために、若者たちは荷物運びや建設現場の日雇い仕事を確保して仲間内で融通し合うグループを作っている」

国が主導して進めるアパート建設では、トンチュと呼ばれる新興富裕層が、1棟につき数部屋を受け取る約束で投資するという。それを完成後に売って利益を出すわけだ。建設には労働力が必要だが、やはり専門的な技術を持った人が欠かせない。若者たちの中には、軍隊時代に「特閣」建設に動員された経験があるなど、建設やタイル張り、内装工事の技術のある者が少なくない。

「彼らは勤める国営企業から建設動員された形式を装って日雇いの賃仕事を請け負う。最近の日当は15中国元か内貨1万2000ウォン(いずれも約290円)ほどだそうだ。グループを作って仕事の規模が大きくなっている」

ところが、これも社会主義の秩序からの逸脱行為とみなされ処罰された。北朝鮮では勤めを持つ者は、職場で「組織生活」をするのが鉄則だ。思想教育や、労働党の方針の伝達、「生活総話」と呼ばれる反省会への参加、労働動員など、政権による住民の管理統制は、職場を通じて行われる。

「若者たちがグループまで作っていたことが、『組織生活』から外れた非社会主義行為だと目をつけられたわけだ。若者の間では、暴力沙汰を起こしたわけでもなく、お金を稼ぐために集まっただけなのに、なぜ問題になるのかと不満が大きい」という。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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