吹き付けアスベストの対策怠った大阪第一交通を書類送検 建物管理の不備でも法的措置あり得る!

タクシー会社の大阪第一交通(大阪府泉北郡忠岡町)と同社運営責任者の男性(50代)が営業所の車庫に使用された吹き付けアスベスト(石綿)の除去などの措置をおこたった労働安全衛生法(安衛法)違反の疑いで大阪地検に書類送検された。施工時に石綿の事前調査をしていなかったり、対策をおこたったとして送検される事例は頻発しているが、工事ではなく建物管理の不備による事例はきわめて珍しい。(井部正之)

大阪・泉大津労働基準監督署の発表資料の一部。建物の石綿管理の不備により大阪第一交通が書類送検された

◆建物管理の不備で送検

2022年5月30日時点で同社運営責任者は、同社忠岡営業所にある車庫で鉄骨のはりや天井に吹き付けられた石綿が損傷、劣化などにより、石綿粉じんを飛散させ、労働者が吸うおそれがあったにもかかわらず、除去などの措置を講じていなかった。石綿障害予防規則(石綿則)第10条第1項違反の疑い(安衛法第22条第1項違反に該当)で大阪・泉大津労働基準監督署(中村直樹署長)が3月24日に送検した。

発覚の経緯について同監督署は「監督指導をおこなった際にそういう状況があった。端緒は色々あるが、立ち入り調査でということ以外お答えできない」という。また石綿則違反の根拠や飛散状況は「検査なりで飛散の確認はさせていただいているが、細かくはお答えできない」(同監督署)。法違反の認否も「お伝えできない」(同)。

大阪第一交通は2020年2月に監督署から今回の書類送検と同じ内容で「指導票により是正勧告を受けておりました」と3月27日付けの発表で認める。指導後、空気中の石綿濃度測定のうえで工事見積もりや施工業者の選定もして同監督署に経過報告したが、2年後の2022年5月30日時点において吹き付け石綿の除去などの措置が済んでいなかったことから書類送検されたと説明する。

「本来であれば同監督署からの指摘時に、建物の建て替え、撤去工事などを選択し即時実施すべきであったところ対応が遅れてしまいました」と同社は発表で釈明。現場が車庫のため客の出入りはなく、従業員らの滞在時間も「ごく短い」とも主張しつつ、「事実を厳粛に受け止め、関係者の皆さまに心よりお詫び申し上げます」(同社)と謝罪した。

また建物の石綿について一斉点検しており、今後「適宜速やかに」必要な対応を図るとしている。問題の車庫については2022年9月に吹き付け石綿の除去工事を開始。同11月には完了したとしている。

◆会社側の見解は?

4月中旬に問い合わせたところ、2020年の立ち入り検査と指導の経緯について同社の担当者は「監督署に聞いたが教えてくれなかった」と明かした。車庫の吹き付け石綿が劣化してたれ下がったりしていたのかと聞くと「場所によってはですね」と一部認めたが、「素人なのでよくわからない」と言い直した。

同社は発表で空気中の石綿飛散について調べていることを認めている。その内容を尋ねると担当者は「何カ所かに測定器を付けて(調べた)。(測定結果は)規定値に満たない」と話した。

実際には建物内部における石綿飛散の規定値はないが、大気汚染防止法(大防法)の石綿製品の製造施設における敷地境界の石綿濃度基準(空気1リットルあたり10本)を「基準値」などと説明する測定業者がおり、おそらくそれには満たないとの意味合いだろう。事実確認しようとしたが、回答が得られなかった。同社の説明からも石綿がまったく検出されない状況ではなかったことが推測される。

2020年2月の指導後、同社は監督署に経過報告をしており、監督署からは毎回早く対処するよう求められたという。なぜ除去などの対策が遅れたのかも聞いたが同社から明確な答えはなかった。

石綿則第10条第1項違反は、吹き付け石綿や保温材などが(1)損傷・劣化などして、(2)石綿粉じんを発散させ、(3)労働者がばく露するおそれがある──との3つの要件をすべて満たす必要がある。事前調査や施工時の対策を定めた義務に比べ、構成要件が多く、それだけ送検のハードルは高い。

しかも現状では、建物の通常使用時における石綿調査や空気中の石綿濃度測定の義務がないうえ、吹き付け石綿などの損傷・劣化を判断する統一的な基準も法令上位置づけがない。(屋内含め)空気中の石綿濃度基準も存在しない。

そもそも吹き付け材があっても石綿含有の有無が確認されない。また石綿含有だったとしても飛散の有無を調べる空気中の石綿濃度測定を定期的におこなう義務もないことから飛散やばく露のリスクが把握もされずに放置されていることが珍しくないというのが実態だ。

◆建物管理のあり方問う送検

今回の送検はそうした状況に改めて一石を投じるものといえよう。

この件においてどの程度の吹き付け材の劣化や石綿の飛散から「送検の必要あり」と判断したのか現段階でははっきりしない。むしろ一度指導したにもかかわらず2年後においても対応されていなかった事実がより重視されたという可能性が高い。

すでに述べたように監督署は取材に対し詳細を明らかにしておらず、本当のところはわからない。だが監督署の立ち入りしだいでは、相当数の建物が同様の理由で書類送検され得るということだろう。建物に使われた吹き付け石綿や保温材などの管理がずさんであれば、それだけで立件されかねないということだ。

そもそも事業者が石綿則の建物管理義務を遵守することは当然である。なにしろ18年前の2005年から存在する規定なのだ(保温材などは2014年6月から)。法令ではないものの厚労省が法に基づいて定める技術指針(同3月31日)には「吹き付けられた石綿等又は張り付けられた石綿含有保温材等の損傷、劣化等の状況について、定期的に目視又は空気中の総繊維数濃度を測定することにより点検すること」と明記されている。

建物の改修・解体時における石綿調査は義務づけから20年近くたってようやく浸透してきた感がある。一方で見過ごされがちなのが改修でも解体でもない、建物を使用している際の石綿管理の義務だ。

仕事で石綿を扱った経験がなく、石綿を扱う人の近くで作業するといった間接ばく露もない、吹き付け石綿が使用された部屋で働いていただけでも中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで非常に予後が悪い)などを発症し、労災認定を受けた人は100人を超えることが同省の公表資料で明らかになっている。そうした現実からも、今回の送検事例を機に事業者は建物の通常使用時においても石綿の調査・管理を徹底させていくことが求められる。一方で制度の不備が存在することは間違いなく、国は建物の通常使用時における石綿調査の義務化や基準の明確化を図り、建物管理を徹底させるべきだ。

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