自衛隊は「セクハラ」「二次加害」なくせるか? 現役女性自衛官セクハラ訴訟の“意義”

立ち上がり「後輩に同じ経験をさせたくない」と裁判に込める思いを語る原告(※写真右奥 8月1日 都内/弁護士JP編集部)

航空自衛隊で働く現役の女性自衛官が、同僚であるベテランの男性隊員からセクハラ被害を受け、自衛隊や防衛省の機関などに申告するも適切な対応がとられなかったとして、国を相手に賠償を求めている裁判の非公開進行協議が、8月1日に東京地裁で開かれた。協議終了後に、原告と弁護団による報告集会が行われた。

原告は航空自衛隊那覇基地に着任した2010年から、男性隊員より身体的特徴や性行為に関する発言を繰り返しされるセクハラ被害に遭い、2013年に上司に報告、以来10年にわたり、自衛隊・防衛省の複数機関に被害を申し立てたが、一向に適切な対応が取られなかったという。

セクハラ被害を報告した後も、男性隊員と同じ職場で働くことを強いられたほか、基地内のセクハラ教育の場で、原告の実名を出し被害の内容を紹介されるなどの二次被害も発生。自衛隊の一連の対応によって精神的苦痛を受けたとして、国に約1100万円の賠償を求めている。

環境改善の“基準”を打ち立てる戦い

報告集会の中で弁護団の佐藤博文弁護士は、原告が2016年に加害者個人に対して起こした裁判において、裁判所が加害者によるセクハラを事実上認定したこと、国家賠償法1条(※)に基づき、公務員である加害者個人は責任を負わないと判断されたことを説明。

※国家賠償法第1条…国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、 その職務を行うについて、 故意又は 過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

その上で、「那覇地裁は、加害者ではなく国の責任を問いなさいと判決を出した。しかし、今回の裁判でもそうだが、国側は今度『セクハラは公務員としての職務行為ではないから、国は責任を負わない』と争ってくる。加害者の行為は、誰が責任をとるのか。

もう一つ、原告からの被害申告を国の機関である自衛隊はどう判断し、対応したのかも問題だ。安全配慮義務を履行していたのであれば、国はその立証ができるだろう。国側に説明を求め、原告への対応の合理性を問いたい。

自衛隊という組織がセクハラや二次加害をなくせるか、いかに職場の環境を改善できるか。そのためには何が必要なのか、ということの基準を打ち立てる戦いでもあると思っている」と今回の裁判における争点と意義を語った。

五ノ井さんの事件「防げたのではないか」

報告集会に参加した原告は、陸上自衛隊での性被害を実名で訴えた元自衛官・五ノ井里奈さんの名前を挙げ、次のように語った。

「私のセクハラ事案は、五ノ井さんの事件より前に起こったことです。私が被害を訴えたときにきちんと処置されていれば、全くなかったとは言いませんが、彼女の身に起こったことも少しは防げたのではないかと思っています。

五ノ井さんが出版された本を読みましたが、性的暴行に近いような行為以外については、ほぼ自分の職場で起こってる状況と同じことが書かれていて、びっくりしました。日常的にセクハラが職場で横行していたこと、周囲が黙認する状態であったこと、職場の上司にセクハラを訴えても取り合ってもらえなかったことなど、すべて自分の身に起こったこととうり二つでした」

また「本当は私も五ノ井さんのように、顔や実名を出して訴えたいのですが、現役の隊員のためいろいろな制限が出されています」とも語り、「多くの方に関心を持っていただくことで、組織の制限を受けずに、問題の解決が一層進むと考えています。裁判の傍聴にも、ぜひ多くの方に来てもらいたいと思います」と集まった報道陣、議員、支援者らに呼びかけた。

議場がざわついた“二次加害”

この問題を国会(令和5年6月8日)で取り上げた山添拓参議院議員も報告集会に参加。「自衛隊がハラスメント対策を進めようとしている一方で、このような大きな事件が解決されずに続いていることに驚きを感じ、国会で取り上げた。那覇基地内の全隊員を対象とするセクハラ教育の場で、この問題について被害者は実名、加害者は匿名で紹介されたことを答弁の中で話すと『こんな二次加害があったのか』と与党の議員も含め驚き、議場がざわっとした。現役の自衛官でありながら、不正をただしていこうとする原告に敬意を表するとともに、国会の側でも引き続き、防衛省の対応をただしていきたい」と述べた。

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