九州電力がカルテル認定を「不服」として提訴へ…元公取委幹部が解説

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九州電力は7月31日、事業者向けの電力販売で関西電力とカルテルを結んだとして課徴金納付を命じた公正取引委員会に対し、処分取り消しを求める訴訟を東京地裁に起こすと発表した。公取委が認定した関電とのカルテルの合意は「なかった」と主張している。独禁法に詳しい元公取委幹部の専門家に、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で話を聞いた。

専門家も「意外だった」九電の提訴方針

RKB神戸金史解説委員長(以下、神戸):九州電力が電力カルテルの認定を不服として取り消しを求めて提訴した、というニュース。実は私、前職の毎日新聞社会部時代に東京で公正取引委員会の担当をしていたので、地元の九州電力が正面から争うというのはちょっとびっくりしました。けさ(8月1日)の西日本新聞には、九州電力としては自分たちの正当性にこだわって、「地域や社員に疑われる」のではないかと長期化やコストを顧みず決断をした、という大きな記事が出ています。独禁法に詳しい中里浩・東京経済大学教授に聞いてみます。

中里浩・東京経済大学現代法学部教授

中里浩・東京経済大学現代法学部教授

1995年、公正取引委員会事務局に入局。2018年に第四審査長となり、アスファルト合材カルテル事件(課徴金398億円)を指揮。第二特別審査長在職中には、医薬品卸売談合告発事件を手がけた。2022年から現職。研究テーマの一つは、談合カルテル問題。

神戸:九州電力が提訴に踏み切ったのは意外な感じがしたんですが、どう受け止めましたか?

中里浩・東京経済大学教授(以下、中里):様々な考慮要素があったのだろうと思っています。どちらかと言うと私は「提訴しないのではないか」という予想を立てていました。いくつかの要素がありますが、まず九州電力は公正取引委員会の立ち入り検査の後に、関西電力と同じような「課徴金減免」(リーニエンシー)を申請していたんです。つまり、違反行為をある程度認める報告を公正取引委員会にしていた、という事情が実はあるんです。

九州電力本店(福岡市)

「課徴金減免」(リーニエンシー)とは

神戸:課徴金は、独禁法違反の場合に企業などに対して「お金を支払いなさい」と公取委が命じるものです。「課徴金減免」制度というのは、カルテルなどが行われた場合に、企業が自主的に告白して実態を明らかにした場合、最初に言った企業には課徴金を全額免除し、2位以下にはだんだんパーセンテージは低くなっていきますけど、課徴金を減免する制度です。九州電力がその申請をしていた、ということですね。

中里:その通りです。最近制度が変わり、公正取引委員会の調査の最中にも、協力をするとさらに減額の率が上がっていく仕組みになっています。今回は、基礎の10%に加えて満額の20%、合わせて30%の減算率が認められています。このことからも、九州電力がかなり積極的に調査に協力していたんじゃないか、と私は見ていました。

神戸:なるほど、だから「意外だ」ということですね。

行政処分をめぐり法廷での争いに

九州電力の記者会見

神戸:九州電力は会見などで、社員や地域に「カルテルをしていたのではないかと疑われてしまうんじゃないか」という意見があって、取締役会全会一致で提訴を決定したということです。今後、どうなっていくのでしょう?

中里:6か月以内に、行政処分の「排除措置命令」と「課徴金納付命令」の取り消しを求める訴訟を、東京地裁に提起することになります。ここから先、かなり長い裁判になるのではないかと思っています。過去に判決まで、3年2か月かかったような事例もあります。今回の場合、九州電力は違反行為が公取の認定とはだいぶ違うものと考えているようですので、訴訟の長期化もあり得ると想像しています。

神戸:長期化してコストもかかるけれど、それを負担してでもやる、と決断をしたということになるわけですね。

九電の言い分が「どれだけ認められるか」

会見する九電池辺和弘社長

中里:もう一つの考慮要素は、判決でどのぐらい事業者側の言い分が認められるのか、ということです。取消訴訟はかなり提起されていますが、この8年間で企業の言い分が実質的に認められたのは課徴金に関するわずか1件のみという状況で、九州電力は中々思い切った判断をしたな、と思っています 。

神戸:なるほど。「10月2日までに提訴する」と九州電力は発表しています。まだこれから時間がかかるけれども裁判の場で争うという形になるわけですね。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、武田伊央、神戸金史

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