【連載コラム】第23回:未来を捨てて今季に全力投球のエンゼルス トレード市場での積極補強は実を結ぶか

MLBは日本時間8月2日午前7時に今季のトレード・デッドライン(トレード期限)を迎えました。トレード期限最終日はジャスティン・バーランダーのアストロズ復帰が決まるなど、合計27件のトレードが成立。実は2021年と2022年のトレード期限最終日にも27件のトレードが成立しており、偶然にもトレード期限最終日には3年連続で27件のトレードが成立したことになります。

今夏のトレード市場で最も積極的に動いたチームの1つがエンゼルスです。一時は今季終了後にFAとなる大谷翔平を放出する可能性も取り沙汰されていましたが、日本時間7月27日の時点で「大谷を放出しないことを決めた」と報じられ、その日のうちにホワイトソックスからルーカス・ジオリトとレイナルド・ロペスを獲得する大型トレードを成立させました。さらに、顔面骨折で離脱したテイラー・ウォードの穴を埋めるために、日本時間7月31日にはロッキーズからランドール・グリチックとC・J・クロンの獲得に成功。そして、トレード期限最終日にはメッツから救援右腕ドミニク・リオンも獲得しました。6月のトレード補強でチームに加入したエデュアルド・エスコバーとマイク・ムスタカスを含めると、実績十分の選手が7人も加入したことに。この7人全員が今季終了後にFAとなる「レンタル選手」であり、エンゼルスは未来を捨てて今季に全力投球することを決めたと言っても過言ではないでしょう。

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大谷が「このチームで勝ちたい」と発言したように、今季のエンゼルスは2014年以来9年ぶり、大谷の入団後では初めてとなるプレーオフ進出を目指しています。アメリカのデータサイトが算出しているプレーオフ進出確率は20%にも満たず、分の悪い賭けであることは間違いないでしょう。実際、「エンゼルスは大谷放出を決断して来季以降に備えるべきだった」と主張する有識者もいます。しかし、30代に突入したマイク・トラウトに少しずつ衰えが見え始めている今、エンゼルスには数年後を見据える余裕などなかったのかもしれません。「大谷とトラウトがいる今季こそがプレーオフ進出の最大のチャンス」と考えた結果が今回のトレード市場での動きにつながったのでしょう。

大谷放出で若手有望株を手に入れるという選択をせず、トレード補強のために複数の若手有望株を放出してしまった以上、来季以降はマイナーからの若手有望株の供給が途絶え、さらに厳しいチーム状況に陥ることも考えられます。しかし、9年ぶりのプレーオフ進出を成し遂げることができれば、あるいは今季終了後にFAとなる大谷がチームに残留してくれれば、今回のトレード市場での動きは「成功」だったと言えるのではないでしょうか。逆に、今季プレーオフに進出できず、大谷の引き留めにも失敗した場合、低迷の長期化は避けられないと思われます。

ちなみに、エンゼルスは大谷の引き留めに失敗した場合、来年のドラフトの補償指名権を手に入れることになりますが、一連のトレード補強でぜいたく税ラインを超えたとみられるため、この補償指名権にも影響が出てきます。エンゼルスのような「収益分配を受けていないチーム」は通常、クオリファイング・オファーを提示した選手がそれを拒否して他球団と契約した場合、2巡目のあとに行われる戦力均衡ラウンドBのあとに補償指名権を得られます(今年のドラフトでは全体68~70位)。しかし、ぜいたく税ラインを超えたチームが得られる補償指名権は4巡目終了後になります(今年のドラフトでは全体132~137位)。一連のトレード補強により、大谷流出の際に得られる補償指名権も大きく順位を落とすことになったわけです。

要するに、エンゼルスはいろんなものを犠牲にして今季に賭けたということです。トレード市場での補強は実を結ぶのか。レギュラーシーズン残り2ヶ月の戦いを見守りたいと思います。

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