「ぼろい大学」でも愛着 金沢美大、今週末講義終了 美追求の校舎に感謝

作品を制作する金沢美大の学生=金沢市小立野5丁目

 金沢美大は10月に金沢市小立野2丁目の金大工学部跡地に移転するのに伴い、今週末で小立野5丁目の現キャンパスでの講義を終える。1972(昭和47)年から半世紀にわたり、学生が自由な感性で美を追求し、制作に没頭する場として活用されてきた。思い出を刻んだ学生や卒業生からは「ぼろい大学だったが、きれいじゃないからこそ使いやすいところもあった」と感謝の声が上がった。

 金沢美大では2日、環境デザイン専攻の2年生約60人が「照明論」の講義に臨み、設計の仕方や器具の配置方法などを学んだ。

 講義を受けた武原明歩さんは「最初は古くて薄暗い印象だったが、過ごしているうちに、いい校舎だと思った。思い出もたくさんある」と寂しがった。大門千隼さんは「1年半で短く一瞬だった気がする。使いにくい部分も含めて愛着がある」と話した。

  ●多くの著名人輩出

 金沢美大の現キャンパスは、延べ床面積が約2万7900平方メートル。明治の五大監獄に数えられた「金沢監獄」の跡地で1972年に完成した。以降、学生が美術作品やデザインの制作に励み、アニメ映画監督の細田守さん(富山県上市町出身)や米林宏昌さん(野々市市出身)、漫画家の東村アキコさんら多くの著名人を輩出した。

 金沢美大の北村賢哉教授(52)は大学と大学院で6年間、教員として12年間、現キャンパスで過ごした。「学生時代からぼろかったが、逆にそれが良く床に座って制作したりしていた」と懐かしむ。

 家で過ごすより、美大にいる時間が長く朝から晩まで制作し、没頭して気付いたら徹夜をしていたこともあった。北村教授は「守衛さんに『早く帰れ』と脅されながら、校舎にいた。それを許容してくれた場所だった。キャリアの原点であり、本当にありがたかった」と話した。

 新キャンパスは延べ床面積約3万7400平方メートルで、現在地に比べ約1.3倍の広さとなる。整備費は約150億円。地上3階、地下1階の校舎や図書館・美術館棟、多目的ホールを備えた体育館を配置する。20日に竣工式が行われる予定で、引っ越し作業が本格化する。

金沢美大の外観

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