インボイス登録の申請期限が過ぎたらどうなる?中止の可能性は?

2023年10月から始まるインボイス制度について、札幌の税理士法人フューチャークリエイトの財務/経営コンサルタント、居ケ内(おりかない)さんに教えていただく本シリーズ。

本記事では、インボイスへの登録をすると決めてから注意すべきことなどをわかりやすく解説します。

インボイス制度の基礎的な内容から、遵守すべきポイントや注意点、具体的に今すぐすべきことなどを、一緒に学びましょう!

(取材日:2022年10月/2023年6月追加取材・インタビュー:濱内勇一・文:原くみこ)

ロカロウ「ほんとにほんとに2023年10月から始まるの?!」
そんな突っ込んだ話にも親切に答えてもらったよー

税理士法人Future Create (フューチャークリエイト)

札幌市白石区を拠点とする税理士法人フューチャークリエイトは、「中小企業をパワフルに!」をミッションとする中小企業の支援に強い税理士法人です。経験豊富な税理士チームと財務/経営コンサルタントが連携し、高い専門性を活かしてクライアントの経営を支える総合的な税務サービスを提供しています。## いつまでに登録すればよいの?

原:いざ登録すると決めたら、申請のタイムリミットはいつですか?

居ケ内:当初は2023年3月末までに登録しないと10月1日から適用できないことになっていました。が、その時点での登録率が低かったこともあり、現在は2023年9月末まで申請期限が延長になりました

▼参考

日本経済新聞インボイス登録、9月末まで受け付け可能に 半年延長 – 日本経済新聞

消費税の税率や税額を請求書に正確に記載・保存するために10月に導入するインボイス制度を巡り、政府は事業者登録の受け付けを…

濱内:9月末までに、登録するかどうするかを決めて書類の提出までしなくてはならないと。

原:9月末が申請期限で10月1日から開始予定ですけど、開始の前日に申請してもいいんですか?!

居ケ内:良いことにはなっていますが、申請してから登録通知を受け取るまで、かなり時間がかかるので注意してください。

適格請求書発行事業者の登録通知時期の目安について(2023年6月時点) ・e-Tax提出の場合 約1か月半
・書面提出の場合 約3か月→ 最新情報はこちらをクリック(国税庁のページへ)

原:通知が来たら、登録完了ですか?

居ケ内:いえ、2023年9月30日までに提出した場合は、同日から登録を受けたものとみなされますよ

原:うーん?でも通知が来るまで、自分の番号ってわからないんですよね?

法人の場合は、法人番号にTをつけたものになるとは聞きましたけど…いま免税事業者の人はどうしたらいいんですか?

居ケ内:どうしようもないので、取引先に「いま登録中でまだ番号がわからないので、届き次第、インボイス対応の請求書を出します。」ってお伝えしないといけません

原:わぁ…。

居ケ内:そのように対応してくださいって、財務省のページに書いてあるんですよ(笑)

原:ギリギリでも申請はできるけど、取引先にご迷惑おかけしちゃうかも、ということですね。

居ケ内:あと、登録申請から通知が来るまでの期間ってその時によって変わってるので、9月に向けて駆け込み登録が増えてもっと時間がかかるようになる可能性もありますね。なんとも言えませんが。

申請期限を過ぎたらどうなる?

原:申請期限を過ぎてから、やっぱり登録しよう!というのはダメなんですか?

居ケ内:大丈夫です。10月以降も、随時登録申請できます。申請を提出する日から15日以降の日を登録希望日として申請すれば、良いことになっています。

原:じゃあ9月末までに絶対しないとダメ、という訳でもないんですね。罰則とかも特になし?

居ケ内:そもそもインボイス登録するかどうかはあくまでも任意なので、登録しないことによる罰則はないんです。「登録するかは自由だけど、とにかく10月1日から制度は始まりますよ(いまのところは)」ってことですね

申請方法は?

濱内:届け出を出す事自体はそんなに難しくないですよね?

居ケ内:はい、電子申請の場合はe-Taxで作成できます

参考)国税庁 インボイス申請手続き

紙の申請の場合、クラウド会計ソフトが登録申請書類の作成サポートサイトを用意してくれているので、それを使うのも良いですね。

バックオフィスの業務効率化なら「マネーフォワード クラウド」適格請求書発行事業者への登録はマネーフォワードの「インボイス制度の登録申請」

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もちろん面倒だという方は、うちのような税理士事務所に依頼頂いても良いです!税理士事務所だと、登録したほうが良いかどうか?から、相談もできます。


納税だけじゃない、インボイスで増える負担

濱内:インボイス制度によって経理処理への影響も出てくるんですよね。

居ケ内:そうです、その時間とお金の負担も重いと思います。

領収書やレシートに書かれているインボイスの適格番号が正しいかどうかを、チェックしなければならないとお話しましたが、これを誰が調べるのかっていう話で。

自社でやっている場合はもちろん大変ですし、税理士や記帳代行の会社に依頼している場合でも、そちらの業務が3つや4つ増えることになりますから、委託費用が跳ね上がる可能性もあるんですよね。一枚一枚すべてを税理士事務所や記帳代行の会社が確認するとなると、人員を増やさなければならなくなってきますから。

原:やっぱりすべてをチェックしないとダメですか?

居ケ内:継続して取引のあるところなら偽造される可能性も低いでしょうし、最初だけで良いと思います。でも1回きりの買い物、Amazonとか楽天とか、そういうレシートなんかは全部チェックしないと

濱内:それは大変!大きな会社だと、番号を調べるだけの専門部署が必要になったりして?!

居ケ内:インボイスといえば消費税の問題、みたいになってますが、いざ始まってみるとあれもこれも変えなくちゃ、負担しなくちゃと、驚くようなことが待っている可能性もあります。

濱内:事業をしている人たちにとっては、2023年の10月から世界が変わっちゃうくらいのインパクトがあるかもしれないですね。


インボイス制度に猶予措置がある?負担軽減策とは

原:インボイス登録して免税事業者から課税事業者になったら、ざっくり手取りが10%減るって考えておいたほうが良いんでしょうか?

居ケ内:そこは、2023年10月からいきなり全部スタートではなく、そこから6年間かけて段階的に進めるよっていう風になってるんですね。

原:段階的にどうなるんですか?

発注側の負担軽減策

居ケ内:例えばさっきの大工さんの例で出てきた『インボイス登録をしない/免税事業者のままのCさん』の場合。

  • ハウスメーカーはCさんに消費税50万円払う。
  • インボイス制度が始まったらハウスメーカーはその50万円が相殺できないから、50万円分の消費税も納めることになる。

という話をしましたが、2023年10月からの3年間(〜2026年10月)は、免税事業者からの仕入税額相当額の80%を控除できます。

50万円×80%=40万円が控除可能なので、向こう3年間は

  • ハウスメーカーが納めるCさん分の消費税は10万円でOK

となります!

原:控除されるのは嬉しいですが、会社の経理の方がすごく大変じゃないですか?取引先毎に「この人は適格事業者だから100%控除可能、この人はインボイス番号ないから80%」ってことですよね。

居ケ内:です。そして、次の3年間(2026年10月〜2029年10月)は『仕入れ額の50%が控除可能』です。

50万円×50%=25万円、ハウスメーカーが納めるCさん分の消費税は25万円。という感じで、段階的に。

免税事業者から納税事業者になった人向けの負担軽減策

居ケ内:あとはBさん、『インボイス制度の登録を期に、免税事業者から新たに課税事業者になった事業者』には、いわゆる2割特例」というのがあります。

こちらも2023年10月からの3年間(〜2026年9月30日)は、「売上税額の8割相当の控除を認める」≒売上税額の2割を納付すれば良いと。

だからBさんもざっくりで言うと、売上550万(うち消費税50万)の場合、納める消費税は50万円じゃなくて10万円でいいんです。

濱内:それはよかった。でもこれも段階的?

居ケ内:いえ、これは今のところは3年限定です。

原:最初だけお得であとから高い正規料金になるサブスクみたいですね(泣)

居ケ内:ははは。


インボイス制度を期に法人化したほうが良い?

原:この機に法人成りした方が良いという考えもありますか?

居ケ内:あるでしょうね。実際うちのお客様の事例では、インボイス制度の話が出てきた一昨年くらいから、どっちみち消費税払うんだったらもう法人にしちゃおうっていう方は結構増えてますね。

でも、法人になると税理士報酬も上がるし、やることも複雑になります。仮に赤字でも最低限の税金はかかってきますし、社会保険の負担も大きくなります。それもふまえてどうしますか、という話になるんですよね。

法人化したあと、2年間の免税制度はどうなる?

原:法人化の話が出たのでこれも聞いておきたいのですが、通常、売上が1,000万円を超えて消費税の納税が必要でも、法人化から2年間は免税になるという制度がありますよね?この機に法人成りしてインボイス登録した場合、免税かつ適格事業者ってことになるんですか?

居ケ内:残念ながら、免税にはなりません。

インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」になるためには

  • 課税事業者であること
  • 申請し登録を受けること

この2つが要件なので、適格事業者=課税事業者になります

原:その免税制度もなくなっちゃうんですね。

居ケ内:ただ、法人化イコール適格事業者、というわけではないので。免税事業者の場合は法人化しても、結局インボイス登録をどうするかは、別の問題として決めないといけません。

濱内:インボイスの制度自体がまず難しいし、それを理解しても、やっぱり法人化と合わせてどうしたらいいのかっていう判断をするのは難しいですね。シミュレーションすると答えは出るかもしれないけど、なかなか自分で出すのは難しい気がします。

居ケ内:そうなると、消費税は払うことにするけど、法人化はまだちょっと考えようかなと、そのまま個人事業主でいることを選ぶ方もいらっしゃいます。本当にケースバイケースで、社長さんごとの考え方によるかと思います

原:そういったケースになった場合は、やっぱり税理士さんに相談した方が良いですよね。条件によって法人化すべきかどうかが異なるということなんですね。

居ケ内:あと、もし税理士との契約がない場合は、商工会議所などの無料相談でも話を聞いてもらえるはずです。すべてが無料の範囲内かどうかは確認しないといけませんが、無料で相談できるなら行ってみてもいいでしょう。そこでまずは税理士などの専門家に相談して、メリットとデメリットを確認するのがおすすめですね。


適格事業者ってやめることはできるの?

原:質問です!

・年間売上は1,000万円いっていないから今は免税事業者です。

・しかし、法人のお客様が多いため、インボイス登録し適格事業者になりました。

・ただ、その後、事業の方針転換で個人向けの商売メインにすることになりました。

という場合、「やっぱり適格事業者をやめます」ということはできるんでしょうか?

居ケ内:「届け出をやめます」という申請を出せば、可能です。

原:え?!できるんですね。

居ケ内:はい、ただそういう場合は事業年度でどうするかを考えた方が良いです。登録した年度(期間)は消費税がかかりますが、翌年からは取り下げて免税事業者になることもできます。

原:なるほど、年度ごとで考えるんですね。

居ケ内:実は、消費税の納税自体も同じような仕組みです。2年前の売り上げが1,000万円以上だと消費税の納税義務が発生しますが、2年前が売上が1,000万円を超えていても、翌年は超えていないということはよくあります。その場合は毎年申告を出して、「今年は消費税を払いますが、翌年は超えていないので免税です」という方法を取る方もいます。

「売り上げ額が年によって変動するから」その年ごとに納税するかどうかを判断し、申請を行う」という方もいるんですよ。

原:それは知りませんでした!

濱内:というか、売上に応じて税務署が自動で判定するんじゃないんですね(笑)

居ケ内:売上などは税務署側で把握されているため、納税対象者になった場合は、忘れていても税務署から連絡があると思うんですよね。でも売上が減って免税になった場合は連絡が来ないため、免除して欲しい場合は自分で届け出を出さなければなりません。年ごとに納税する必要があったり、なくなったりといったケースは結構ありますよ。

濱内:なるほど、売上1,000万円以下は消費税を納めちゃいけない、という訳じゃないから、下がっても連絡は来ないんですね。

居ケ内:ただし、そういった判断は全て自分で行わなければならないため、税理士に相談していないとかなり大変だと思います。


2023年10月から本当に始まるの?中止の可能性は?

原:2023年10月から制度開始予定ですが、10月から本当に始まるんですかね?

居ケ内:色々とニュースにもなってきていますが、今のところは始まることになっていますね。税理士業界としては、経過措置の80%控除とかを延長してよとか、なんだったらこの制度なくしませんかっていう話とかはいまもまだしてるみたいなんですけど。

原:まだなくなる可能性もあるんですか?!

居ケ内:うーん、これって皆さんよくコロナで税収が減ったから始めることにしたんでしょ?っておっしゃってるんですけど、コロナが起こる前から決まってたことなんですよ。

原:じゃあなくなることはないのかな…。

居ケ内:廃止を訴える声が話題に出てきているので、開始時期や猶予期間が伸びるとかはあるかもしれませんが、まだ決まっている話は出てきていないです。

濱内:もうこれって今回のインボイス制度で国がやりたいことっていうのは、もう全事業者に消費税払わせたいっていう?

居ケ内:まぁ、そういう感じですね。いま売上1,000万円以下となっている免税対象も、当初は売上3,000万以下だったのが、1,000万と少なくなり…という流れで…。

原:免税になる売上限度額が、昔はもっと高かったんですか?

居ケ内:そうなんです。で、今回業種によってはもうほぼ免税が認められなくなると言ってもいいでしょうね。

濱内:それは知りませんでした。徐々に免税の適用範囲が減っている流れだったんですね。そういわれるとしょうがないのかなぁ。

居ケ内:インボイス制度についてお話しした社長さんの中には「もう1,000万円超えてても超えてなくても消費税は払う、と思って腹を括っておけばいいんでしょう?」と言ってる方もいらっしゃいますね…

濱内:なんか、インボイス制度をポジティブに考えることってできませんか?(泣)

居ケ内:うーん、ポジティブに考えるとですね、そういったお金のところはもうプロに任せて、社長は稼ぎにいってくださいといった話にもなったりします。

インボイスも電子帳簿保存法の負担も、利益さえあがれば問題ないですから、インボイス制度をどう回避するか一生懸命考えるよりは、売上や利益をどう増やすかを考えたほうが良いですよーと。

濱内:払わなくても良いものを無理して払う必要はないけど、いかに逃げるかといった方向ではなく、ということですね。

自ら情報を取りに行こう!手軽な相談窓口も。

原:今回はインボイスの基礎から制度導入前後の注意点まで教えていただきましたが、とにかく、考えること・やるべきことが盛りだくさんですね。

濱内:電帳法への対応は、原則やらなければならないもの、ツールやプロセスを決めてえいやって感じですが、インボイスのほうは現在免税の方にとってはどう判断するべきか、重いですね。税理士さんとの契約がない個人の方が、すべてひとりでやるのはなかなか難易度が高いというか。

原:まず今すぐやったほうが良いことってありますか?

居ケ内:とにかくまずは情報収集じゃないでしょうか。

インボイスも電子帳簿保存法も、事業を行っているのであれば絶対に考えなければならないことですが、情報は待っていてもやってこないんですよね。自分で情報を収集しないと分からないこともあります。

濱内:気づいたら色々な期限が過ぎてるということにもなりかねないので、そこは注意して、自ら行動するようにしないとダメということですね。

居ケ内:先ほどの電子帳簿保存法に関する情報収集も同じなんですけど、YouTubeにさまざまな税理士さんによる動画がたくさん出ています。免税事業者の場合は、個人事業主はどうするべきかとか、ケース別の動画も色々とあります。そしてインボイスも、商工会議所でセミナーとかもやったりもしてるのでそういうところで情報集めるっていうのも手ですし、行政の無料相談に行くっていうのも手だと思いますね。

原:商工会議所や行政などの無料相談から、有料相談の窓口を紹介してもらえることは可能なのでしょうか?

居ケ内:そうですね、紹介もしてくれるでしょうし、無料相談に来ている税理士さんにそのまま詳しい相談をすることもできると思います。

原:無料相談の窓口には、ちゃんと税理士さんが来ているんですね。

居ケ内:あとはネットで「税理士 インボイス 無料相談 +(地域名)」で検索すると、対応している窓口や税理士事務所が出てきます。まずはそういったところで勉強がてら相談してみて、その後に有料の相談先を考えるのも良いと思います。

原:いま「税理士 インボイス 無料相談」で検索したら、国税庁の「インボイスコールセンター(インボイス制度電話相談センター)」という窓口もありました!

濱内:そういうのもありだよね。

先延ばしにしていた人も、そろそろ動き始める時期

今回は税理士法人フューチャークリエイトの居ケ内さんにお話を伺い、インボイス制度について教えていただきました。

ちなみにわたしはいまフリーランス(個人事業主)×免税事業者 という立場のため、まさに、インボイスに登録すべきかどうか最も悩まなくてはならない状況にあります。

個人的にはこれだけ世間の反対の声が大きい中で、本当に10月からインボイス制度が開始されるのかな?!と疑わしく思う気持ちもあり、結論を出すのを先延ばしにしていたところです。

しかし今回居ケ内さんがおっしゃっていたこちらの一言が胸に刺さり、

インボイス制度をどう回避するか一生懸命考えるよりは、売上や利益をどう増やすかを考えたほうが良い

いよいよどうするか決めなくてはならないなと、思いました!

とはいえマイナンバー制度のように、各種期日の延長や、負担軽減策の追加などはあるかもしれません。適格事業者として登録済みの方もまだの方も、継続的に情報収集をしながら、インボイス制度への対応準備を進めていきましょう。

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