企業や個人の支援金を気候変動による自然災害などの有事に活用――生産者と消費者の交流加速へ ポケットマルシェが新プロジェクト

今年7月上旬の豪雨の影響を受けた山口県下関市の農家が通常、出品している野菜のセット(ポケマルサイトより)

世界各地で気候変動による異常気象が牙を向いている。日本でも連年の猛暑に加え、今年の梅雨も全国各地で豪雨災害が大きな爪痕を残した。そうした自然災害の影響を強く受ける1次産業の生産現場を支援しようと、国内最大級の産直アプリ、ポケットマルシェを運営する雨風太陽(岩手県花巻市)はこのほど、企業や個人からの支援金を有事の際の生産者支援に活用する「ポケマル生産者支援プロジェクト」を立ち上げた。自然災害などが原因で生産活動に支障をきたしている生産者の声をWebサイト上に直接掲載し、これら生産者と、日々の食卓を守るためにも商品を買って生産者を支援したい消費者とをつなぐ活動の強化に乗り出している。(廣末智子)

2023年7月豪雨で被災した生産者支援も素早く企画

今年7月の東北・近畿・九州地方を中心とした豪雨で被害を受けた生産農家を応援する特集ページ

本年2023年7月上旬(7月2日~7日頃)に、梅雨前線の活動活発化による大雨の影響で、農地そばの河川氾濫などにより、畑やハウス内などの各種農産物に被害が発生しました。
各畑の野菜は、水につかったため、根が腐って枯れた野菜や、土砂と共に流された野菜もありました。
例えば大雨の中、きゅうりは収穫ができず、育ちすぎて商品とならずに廃棄になり、予約注文含めて生育待ちとなり、数量が不足してお送りできる物が足りない状態にもなっています。
業務用冷蔵庫で保存していた、たまねぎ・人参・馬鈴薯は幸いにも、浸水被害にあわず無事でした。
無事に生き残った野菜類を、お買い求めいただけましたら幸いです。

2023年7月豪雨の被害を受けた人参(福岡県糸島市)
同じく7月豪雨の被害を受けたきゅうり(下関市)

今年7月に東北・近畿・九州地方を中心に甚大な被害をもたらした豪雨を受け、ポケットマルシェのサイト上に「応援型商品」のページが素早く開設された。同豪雨で被災した生産者に的を絞ったページで、生産物の被害の状況がよく分かる写真や、無事だった野菜などの写真とともに、上記のような出品者が正直に胸の内を綴ったメッセージが並ぶ。

豪雨による被害で生産物が全滅し、発送できる野菜などがないことを伝えた上で、実質寄付金となる「応援型商品」の購入による支援を呼びかける農家も

さらに、同じページには、「本商品の注文をいただいても、生産物の発送はございません」という但し書きとともに、「生産物の代わりに、季節に応じた食材が載った雨風太陽オリジナルのPCの壁紙とお礼のメッセージをお送りします」として、550円〜1万1000円までの金額のみを購入手続き項目に記した出品者も見られる。なぜなら「本年7月の豪雨により、ビニールハウスや露地野菜が水没し、約4割の品目の野菜が全滅した」ためで、画面は「支援金は種苗資材代の一部に使わせていただきますので、ご支援いただけたら幸いです」とする言葉で結ばれている。つまりこの場合、支援者は、購入ボタンをクリックすることで、生産者が資材代に充てる資金を寄付することになる仕組みだ。

気候変動などの影響を受ける生産者を資金面でサポート

そもそも「ポケットマルシェ」は、東日本大震災をきっかけに、1次産業の生産者を経済的、そして精神的に支援していくため、生産者が価格決定権を持った上でなぜその価格なのかを消費者に説明し、価値を理解してくれる消費者に買ってもらう仕組みの構築を目的として開設された。全国の農家や漁師と直接やりとりをしながら旬の食べ物を買うことのできるプラットフォームとして2016年9月にサービスを開始し、現在、北海道から沖縄まで約7700の農家・漁師が生産者として登録。約1万5000品の食材が出品され、約69万人の消費者がユーザーとして利用している。

2020年7月からは自然災害等が発生するたびに「#豪雨被害で困っています」「#新型コロナで困っています」といったタグを設定することで、被災した生産者と、商品を買って応援したいと考える消費者とのマッチングを促進。さらに2022年7月には、気候変動などによる環境の変化が原因で生産活動に影響を受けた生産者を資金面でサポートすることを目的とした「生産者支援金」を設立し、今年3月11日には岩手・宮城・福島の3県での商品購入1点ごとに311円を、6月に行った「ポケマル収穫祭」の期間中には商品購入1点ごとに5円を、それぞれ同支援金にプールするなどの活動を行ってきた。

「生産者支援金」を活用し、今年2月に行われた牛乳消費キャンペーンのイメージ画像

このほか、同支援金には、ポケットマルシェが提携するクレジットカードでの買い物の利用金額の1%がプールされる仕組みで、その時々のプール金は公表していないものの、これまでにこの支援金を活用し、資材や飼料高騰の影響を受けた牛乳・乳製品の消費拡大のための商品の送料無料化などの取り組みを全国で実施。実績としては、今年2月と4月にポケットマルシェに出品している国産の生乳を使用した牛乳・乳製品の生産者の商品を送料無料で販売したところ、延べ21人の生産者が合わせて約1537万円の売り上げを達成したという。

「生産者支援プロジェクト」始動、企業に小口・大口支援金募る

ポケマル生産者支援プロジェクトの支援の仕組み(「ポケマル生産者支援プロジェクト」より)

今回、この支援金をさらに活用しやすくするために始動したのが「ポケマル生産者支援プロジェクト」だ。具体的には、これまで個人からのプール金が主だった「生産者支援金」に対する賛同企業を広く募集し、小口、大口を問わず支援金を募る。すでに協賛企業として、次世代農業に挑戦する「なかほら牧場」(岩手・岩泉町)が決まっているほか、農業法人を含む複数の事業者から問い合わせがあり、参画企業には、社内で実際にマルシェを開いてもらうといったプロモーションや福利厚生に使える特典も用意している。このほか、個人の支援者に対しても、売り上げの一部を支援金にプールするキャンペーンをこれまで以上に頻繁且つ定期的に実施するほか、提携するクレジットカードの利用を広げる方針だ。

冒頭の、2023年7月の豪雨被害の影響を受けた生産者を支援するサイトでも紹介したように、ポケットマルシェでは、災害によって生産物が全滅し、商品の発送はできないという生産者もサイト上では“出品者”として登場してもらい、ありのままを語ってもらう形式を取っている。その場合の“売り上げ“は全額が生産者に支払われる(資材などに宛ててもらう)仕組みで、出品者は、メッセージのやり取りなどを通じて、被災した生産者を心から応援したいという消費者の気持ちをより強く実感し、力づけられる効果がある。

このようなポケットマルシェならではの消費者と生産者の心の交流を、「生産者支援プロジェクト」を通じてさらに強固なものにすることができるかどうか――。雨風太陽で広報を担当する仲野脩氏は「当社は『生産者と消費者』『つくるとたべる』『都市と地方』の分断をつなぎ、かきまぜ、その境目をなくすことを目指している。消費者には、いま、農業や漁業の現場でどんなことが起き、生産者がどんな立場に置かれているかを率直に伝えたい。そして消費者の方々には少しでも、自分たちに何ができるかを考えていただければ。生産者と消費者がお互いを理解し、思い合うことで、都市と地方の境目をこれまで以上になくしていきたい」とプロジェクトにかける思いを話している。

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