世界的ブランドが抱えるリスクと機会――英ブランド評価会社調査に見るサステナブルなイメージと現実のギャップ

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世間からサステナブルなイメージを持たれているブランドは、実際にサステナブルな事業運営をしているのか。世間の認識と現実の間に生じるギャップを定量化する調査が、世界的なブランド評価コンサルタント会社であるブランドファイナンス(本社:英国)によって行われた。こうしたギャップには何十億ドルもの経済的なリスクと機会が潜んでいるという。(翻訳・編集=茂木澄花)

ブランドファイナンスは、今年初めの世界経済フォーラム(ダボス会議)で、サステナブルなブランドイメージの価値を定量化した「サステナビリティ認識指標(Sustainability Perceptions Index)」をすでに発表していた。このレポートでは、世界トップレベルの事業価値を有する企業の多くはESGに関する取り組みと関連するコミュニケーションを強化することで、何十億ドルもの経済的価値を得られる可能性があるということが示された。

今回新たに発表された「サステナビリティギャップ指標(Sustainability Gap Index)」では、ESGデータ提供大手CSRHubによるデータを活用することで、ESGの実績を踏まえて各ブランドが再評価された。この新たに算出された数値と「サステナビリティ認識スコア(Sustainability Perceptions Score)」を合わせることで、各ブランドに対する世間のイメージ(認識)がブランドの実績と矛盾していないかどうか、また、その矛盾に関連して生じる経済的なリスクが明らかになった。

ブランドファイナンスのディレクターであるロバート・ヘイ氏は、レポートに次のように記している。

「ファイナンスとサステナビリティの関連性に注目することは、タイムリーかつ本質的なことだが、この論点は決して新しいものではない。しかし、ファイナンスの用語を用いて事業計画を説明し、計画の評価と投資収益性分析ができるようにしなければ、投資家に対して投資の正当性を示すことは難しい。この点がこれまでボトルネックとなってきたのだ」

「ブランドファイナンスはこの課題を解決しようと模索してきた。そして、何百社もの世界有数のブランドに対するサステナブルなイメージの経済的価値を定量化したのだ。当社の調査によって、個々の企業であっても、取り組みを強化してコミュニケーションを連動させることで何十億ドルもの経済的価値を得られる可能性があることが示された。逆に言えば、何十億ドルもの経済的価値を失う恐れもあるということだ。取り組みが十分でなければグリーンウォッシュだという非難を受けかねず、サステナビリティ関連のコミュニケーションへの投資が無駄になる。このレポートが、サステナブルな企業イメージの経済的な重要性を理解し、失われかねない経済的価値を自覚するきっかけになることを願っている」

人々が持つ認識とのギャップを埋める

レポートによれば、ブランドのサステナビリティに関する実績が人々の認識を上回っている場合は、実際の取り組みをより効果的に伝えることで、急速にブランドの価値を向上させられるチャンスだという。逆に認識が実績を上回っている場合、ブランドの価値は危機に瀕していると言える。なぜなら、そのようなブランドは人々の反感を買いやすい状態で、サステナブルなブランドイメージの価値が低く見直されかねないためだ。

例えば、全ブランドの中でサステナブルなブランドイメージの価値が最も高いとされているのは、アマゾンだ。199億米ドルの価値があるEコマースの雄にも課題はあるだろうが、消費者はアマゾンが悪影響を最小化するために十分な取り組みを行っていると信じて、同社のサービスを使い続けているらしい。しかし、アマゾンがそうしたイメージに見合うようサステナビリティのパフォーマンスを改善し、その進捗を正直に伝える予防的なアプローチをとれなければ、その莫大な価値は危ぶまれる。

潜在的付加価値トップ10社(出典:ブランドファイナンス「サステナビリティギャップ指標2023」)

アマゾンと似た状況にあるブランドがテスラだ。電気自動車、太陽光発電・蓄電技術の先駆者として知られるテスラのイメージは、世界中の消費者に明確に認識されている。テスラは、サステナブルなイメージに基づく価値の比率が全ブランドの中で最も高く(26.9%)、「サステナビリティ認識価値(Sustainability Perceptions Value)」は178億米ドルにのぼる。しかし、このブランドイメージの強みによって同社はリスクにもさらされている。なぜなら、テスラはサステナビリティの一要素である環境の面では高い成果を上げているが、ガバナンスや社会的なサステナビリティ施策に弱みがあるからだ。同社のCSRHubのスコアは比較的低いため、表内のブランドで最も高い41億米ドルもの価値が脅かされていることになる。

反対に、マイクロソフトはすべてのブランドの中で最も大きい正のギャップ、15億米ドルをマークしている。これは、マイクロソフトのサステナビリティの実績が世間の認識を大きく上回っているということを意味する。この原因は、グリーンウォッシングの反対の現象である「グリーンハッシング」、つまりブランドがグリーンウォッシングのそしりを受けることを恐れてサステナビリティの進捗や実績を過少報告する行為だ。ブランドファイナンスによれば、マイクロソフトはサステナビリティの取り組みやサービスについてもっと大々的かつ明確に発信することで、15億米ドルもの価値を生み出せる見込みがある。

サステナビリティ実績スコア対サステナビリティ認識スコア(2023年)(出典:ブランドファイナンス「サステナビリティギャップ指標2023」)縦軸はサステナビリティ実績スコア(10点満点)(データ元:CSRHub)、横軸はサステナビリティ認識スコア(10点満点)を表す。左上に行くほど「価値向上のチャンスがある」(緑色)、右下に行くほど「価値がリスクにさらされている」(ピンク色)。

一方、高級ファッションブランドのシャネルは、比較的高い「サステナビリティ認識スコア」(10点中4.88点)と高いCSRHubのスコアを両立している。シャネルは、幅広いステークホルダーのグループと関わりあうことで力強く本質的なコミュニケーションを行い、サステナビリティに関する実績とイメージを連動できているのだ。

「サステナビリティ指標は、マーケターや広告代理店が施策の舵取りを行い、グリーンウォッシングとグリーンハッシングの間でバランスをとるためにとても重要なツールです」

こう語るのは、マーケティング・ビジネス・サステナビリティを横断する世界的な専門家であるトーマス・コルスター氏だ。「この指標はつまるところ、やみくもに叫ぶだけではなく、実際に行動することの価値を示しているのです」

サステナビリティの重要度が高い業種

すべての業種において、特に高価格帯のブランドのイメージにサステナビリティが大きな影響を与えていることが、調査によって明らかになった。またサステナビリティがブランドの差別化要素になる傾向が、特定の業種で強いということも分かった。例えば、高級車の購買選択を促進する要素の中で、サステナビリティの影響の割合は平均22.9%にのぼる(これが、テスラのハロー効果が持続している一因だろう)。多くの燃料消費を伴う製品のブランドがサステナビリティの評判に頼っているというのは、直感的に理解しにくいかもしれない。しかし、高級車は個人の自由な意思によって購入されるものであり、一般向けの露出が多いため、サステナビリティを訴求すると効果が強く出やすい。

サステナビリティの影響力が強い業種には、他にも清涼飲料(13.7%)、スーパーマーケット(12.6%)、メディア(10.1%)、パーソナルケア製品(10%)がある。清涼飲料とスーパーマーケットの対象製品が持つ潜在的なインパクトは、他の多くの業種よりもはるかに消費者に認識されやすい。その背景には、プラスチック汚染、森林破壊、その他農業による影響、輸送距離などのインパクトに対する消費者の意識向上がある。また化粧品においては、多くのブランドが、クリーンでサステナブルな成分、動物実験の廃止、倫理的なサプライチェーンの取り組みなどの特色を伝えるマーケティングで成功を収めている。

今回のレポートによって、サステナビリティとブランドイメージという、定性的であいまいになりがちな要素が定量化され、世間のイメージと実績のギャップには大きな経済的リスクと機会が伴うことが示された。

レポートの中でIAAパブリック・ポリシー・カウンシルの議長ジェフリー・グリーンバウム氏は、企業・ブランドが正直に進んでいくためのスタート地点を的確に示している。「広告を打つすべての企業は、消費者をミスリードする恐れのあるあいまいな環境へのメリットを主張するのをやめ、正しい実態に裏打ちされた具体的な環境へのメリットを伝えるという視点でマーケティングを見直すべきだ」。これこそが今、多くのマーケターに問われている。

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