収容所でのユダヤ人同士のボクシング試合 敗者は頭を撃ち抜かれる 「アウシュヴィッツの生還者」本編映像

2023年8月11日より劇場公開される、「レインマン」のバリー・レヴィンソン監督最新作「アウシュヴィッツの生還者」から、本編映像の一部が公開された。

本編映像は、「始めろ」というナチス将校シュナイダーの掛け声から始まる。同胞のユダヤ人と戦うことをためらうハリーだったが、どちらか一方が倒れない限り“試合”が終わらないと考え、対戦相手に激しいパンチを繰り出す。片方が気絶したことを確認したシュナイダーはリングに上がり、倒れている彼の頭を銃で撃ち抜く。まさか敗者が殺されるとは思いもよらず恐れおののくハリーに対して、シュナイダーは「どっちがいい?銃弾か毒ガスか」と問いかける。

「アウシュヴィッツの生還者」は、アウシュヴィッツからの生還者の息子が、父の半生について書き上げた実話を映画化した作品。1949年、ナチスの収容所から生還したハリーは、アメリカでボクサーとして活躍する一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。レアに自分の生存を知らせようと、「自分が生き延びた理由は、ナチスが主催する賭けボクシングで、同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだ」と告白し、一躍時の人となる。だが、レアは見つからない。それから14年、引退したハリーは別の女性と新たな人生を歩んでいたが、抱えるさらなる秘密に心をかき乱されていた。そんな中、レアが生きているという報せが届く。

主人公のハリー・ハフトを演じるのは、「インフェルノ」の敵役が高く評価されたベン・フォスター。体重を28キロも落としたあと、戦後のシーンを撮影するためにまた元の体重に戻すという役作りを行った。ハリーに思いを寄せるミリアム役には「ファントム・スレッド」のヴィッキー・クリープス。他に、ピーター・サースガード、ジョン・レグイザモ、ダニー・デヴィートらが顔をそろえた。監督は「レインマン」のバリー・レヴィンソン。同じく「レインマン」でアカデミー賞を受賞したハンス・ジマーがスコアを担当している。

本作を一足先に鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■細谷佳正(声優)
歴史の中には、公には語られない実話が沢山存在していますが、
それを映画として人々に届けるという行為自体が、一つの問題提起だと思います。
視点も思想も真実も、人の数だけ存在しますが、この物語は、私に平和を考える時間を与えてくれました。

■澤田賢澄(俳優/元大相撲力士)
まるで別人が演じていると思ってしまうほどの役作り。
『ひとつの作品』で、ここまでの減量と増量をおこなった主演のベン・フォスターさんに脱帽です。
減量といっても、ただボクサーの体型まで痩せるだけでなく『やつれる』まで減量している事に本当に驚きました。
私は『増量の辛さ』の経験はありますが、『やつれるまでの減量の辛さ』は計り知れません。
彼のその努力があったからこそ、129分という上映時間があっという間に過ぎてしまうほど、のめり込んで観てしまったのだと思います。

■武正晴(映画監督)
僕はバリー・レビンソン監督の映画が大好きです。
49勝無敗のロッキー・マルシアノに挑んだ、ハリー・ハフトを映画の主人公に選ぶところが流石レビンソン監督だ。
ユダヤの野獣、同胞殺しと罵しられたボクサーの壮絶な生き様を眼を背けず観てほしい。
殴りたくもない相手を殴らなくてはいけないボクシングという非常なスポーツはアウシュビッツのリングの上ではもはやスポーツとは呼べない。
老将バリー・レビンソン監督渾身の一作に胸が熱くなった。

■大島育宙(芸人/映画・ドラマ考察者)
戦争映画とスポーツ映画の融合なんて生やさしいものじゃない。
ユダヤ人収容者同士のデスマッチボクシングという絶望的に邪悪な見世物の追体験を通じて我々の加害性を自覚させる鋭利な映画だ。
生還した彼につきまとう苦悩も、ナチス将校や家族との鬼気迫る議論でときほぐす。
暴力と言葉。映画に必要なのはこれだけだ。

■金原瑞人(翻訳家)
収容所という暴力的で非人間的な世界を、暴力的に非人間的に生きていくしかなかった男が、戦後も、愛のためにその生き方を引きずっていく。そんな物語を冷徹に、しかし愛をこめて撮った作品。

■鴻上尚史(作家・演出家)
衝撃。ただ、ただ衝撃。これが実話の映画化ということに深く衝撃を受けます。
『グッドモーニング、ベトナム』のバリー・レヴィンソン監督は、再び「戦争に翻弄される人間達」の傑作映画を撮りました。
ラストシーン、僕は泣きました。

■ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
戦争で一人が生き残るために別の誰かが犠牲を払っていることが多く、それにまつわる罪悪感は一生拭えない。
そのトラウマをベン・フォスターのリアルな演技が痛烈に伝えています。

■舛添要一(国際政治学者/『ヒトラーの正体』著者)
ナチスは、反ユダヤ主義に凝り固まって、600万人のユダヤ人を虐殺した。
強制収容所で多くの命が失われる中で、生き残った人たち。そこには想像を絶する苦難の物語がある。
それを二度と繰り返さないために、皆に本作品を観てほしい。

■安田菜津紀(メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)
極限状態を生き抜く道のりは、「きれいごと」や「美しい物語」ばかりでは語れない。
今を生きる私たちの誰が、ハリー・ハフトに後ろ指を指し、断罪できるだろう。
ただ、同じ歴史を繰り返さないための未来を考えることは、私たちにもできる。この映画から、きっと。

■柳原伸洋(ドイツ近現代史研究者/東京女子大学教授)
暴力が暴力を生む世界では、かならず誰かが犠牲者となり、誰かが加害者となる。
本作のように、犠牲者が「加害」の苦しみを背負うこともしばしばだ。
この暴力は染みわたり拡散していく。暴力の負のスパイラルを止める知恵が、2023年の今、まさに試されているのだ。

【作品情報】
アウシュヴィッツの生還者
2023年8月11日(金・祝)新宿武蔵野館ほか公開
配給:キノフィルムズ
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