選挙運動の期間中に有料のインターネット広告で投票を呼びかけてはダメ!?江東区長選をめぐる「有料ネット広告利用による選挙運動の公選法違反の可能性」について専門家に聞いてみた!

インターネット等を利用する方法による候補者の氏名等を表示した有料広告等は、公職選挙法(以下「公選法」といいます。)第142条の6の規定で禁止されています。

2023年4月の東京都江東区長選で当選した木村やよい区長が、選挙運動の期間中に禁止されている有料のインターネット選挙運動広告をYouTubeに流していたとの報道があり、木村区長の説明に注目が集まっています。

公選法第142条の3から第142条の7までに規定するインターネット等を利用する選挙運動に関する規定への理解を深めることが大切です。

江東区長選挙、何が問題になっているの?

「複数の有権者らによると木村区長は、4月16日告示、23日投票の区長選の選挙運動期間中、YouTubeにアップされた有料広告に自ら登場して「木村やよいに投票してください」「江東区長選は木村やよい」などと、投票を呼びかけるような内容だった。」と報じられました。(2023年7月14日東京新聞)

公選法第142条の6では、インターネット等を利用し、候補者の氏名等を表示して行うなどの有料広告を禁じています。そのため、木村区長がYouTubeの有料広告に自ら登場して自身への投票をうったえているため公選法に抵触する疑いがあると指摘する記事です。

7月11日の区長の定例記者会見で、「公選法違反の認識」についての質問がでましたが、「後日回答」とし、7月31日時点においてもまだ説明はされていません。

そもそも公選法142条の6の規定とは?

江東区長選のケースで抵触する可能性が指摘されている公選法第142条の6の規定はどのようなものか、選挙ドットコム顧問で選挙管理アドバイザーの小島勇人氏に解説していただきました。

公選法第142条の6で規定する有料インターネット広告の禁止に係る規定として

a) 候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらの類推事項を表示した選挙運動用有料インターネット広告

b)aの禁止を免れる行為としてなされる、候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらの類推事項を表示した、選挙運動期間中の有料インターネット広告

c)候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称又はこれらの類推事項が表示されていない広告であって、選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした、選挙運動期間中の有料インターネット広告(有料バナー広告)

を掲載することを禁止しています。

ただし、政党や確認団体については、b・cにかかわらず、aに該当するものを除き、選挙運動期間中、当該政党その他の政治団体の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした有料政治活動用インターネット広告(有料バナー広告)の掲載が認められています。

この規定に違反して広告を掲載させた者は、2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処することとされています(公選法第243条第1項)。

ここで「選挙運動用有料広告」と「政治活動用有料広告」の違いについて理解しておく必要があります。

選挙運動用有料広告」とは、特定の選挙において特定の候補者の当選のために投票を得ることを目的として行われる有料広告です。

政治活動用有料広告」とは、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は特定の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを目的として行われる有料広告のうち、選挙運動用のものを除いたものをいいます。

今回問題となっているのは、選挙運動用有料インターネット広告の禁止ですが、これが無料の場合はどうなるのでしょうか。

通常有料となっている広告を無料で提供させることは、寄附に該当します。政治資金規正法で政党(本部・支部)以外に対する寄附については、その広告サービスを提供する者が企業・団体であるときは、企業・団体献金を禁じた同法第21条第1項に違反することになります。

一方で、通常無料となっている広告サービスを利用することについては、特段の問題はありません。

選挙運動用有料インターネット広告が禁止されている理由は、インターネット選挙運動の解禁で「カネのかからない選挙」が実現し、より公正で公平な選挙となることが期待されているためです。選挙運動用有料インターネット広告を認めてしまうと広告の利用が加熱していく結果「カネのかかる選挙」につながる可能性への懸念があることからこれを禁止しています。

分かりにくいインターネット選挙運動に関する公選法の規定

インターネット等を利用する方法による選挙運動は、2013年4月の公選法改正で解禁され、10年が経過しました。インターネット等を利用する方法による選挙運動には、「メール」「SNS」「ウェブサイト」の3種類があり、候補者・政党等・有権者で利用できる方法が異なります。

有権者が選挙運動に使えるのは「SNS」と「ウェブサイト」ですが、有権者は「メール」を選挙運動のために使用することはできません。

また、ウェブサイト等を利用する方法により文書図画を頒布する際には、一定の表示義務があることにも注意が必要です(公選法第142条の3第3項)。

「メールによる選挙運動」ができるのは、候補者と政党等です(公選法第142条の4)。

後援会の加入申込書などに記載されたものや名刺交換などで得たメールアドレスは利用できますが、送信しようとする相手から得たものではなく一方的に集めたメールアドレスは利用できません

また、メールを利用する方法により文書図画を頒布する際にも、一定の表示義務がありますので、これにも注意が必要です。

なお、受信したメールに添付された選挙運動チラシ・ポスターやホームページの選挙運動に関する添付資料を印刷して頒布する行為は、公選法第142条違反の法定外文書の頒布として禁止されていますので、注意が必要です。

公選法への理解を深めよう、木村区長は有権者に説明を

今年4月の江東区長選挙

小島氏は江東区長選挙の件やインターネット選挙運動全般について、こう話しています。

「公職選挙法は、複雑で確かにわかりにくい部分が多くありますが、選挙の公正、公平性を担保する大切なルールを定めたものです。

今回の件については、木村区長は区長選挙で大切な一票を投じてくれた有権者のためにも分かりやすく、きちんと自ら説明する必要があります。

そして、全ての選挙関係者は公選法への理解を更に深めて疑義の生じない活動をしてほしいものです。」

公選法の選挙運動等に関する多くの規定は、制定後の経過の中で議員立法で整備されてきた法律です。公職を目指す人はコンプライアンスが強く求められますので、公選法の取り分け選挙運動、政治活動に関する規定の内容は、誰でも理解しておかなければならないといえるでしょう。

(執筆協力:ハマエミ)

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