墓石も墓標もなく、土に返る「循環葬」 国内初、神戸の企業が示す新たな終活の選択肢

「循環葬」サービスを始めたアットフォレストの小池友紀さん。写真左奥にある木々の根元付近に、埋葬場所がある=大阪府の妙見山

 その墓地には墓石も墓標もない。遺骨は森の中で、ただ土に返る。埋葬費用の支払いで、資金面でも森林保全に役立つことができる。国内初の「循環葬」と銘打ったサービスを、神戸のスタートアップ(新興企業)が始めた。日蓮宗の寺院「能勢妙見山」(大阪府能勢町)と提携し、山の斜面に埋葬用の森を整備。新たな「葬」の形を提案する。

 コピーライターの小池友紀さん(40)がat FOREST(アットフォレスト、神戸市中央区)を設立し、代表取締役となって、2年がかりで企画した。サービス「RETURN TO NATURE(リターントゥーネーチャー)」は自然に返る、という名前の通り、環境への負荷を最低限に抑えた埋葬をうたう。

■寺院と提携、山の斜面に埋葬用の森

 妙見山が所有する斜面に「会員制の森」を整備。数百人分の遺骨を埋葬できるスペースを設け、訪れる人がくつろげるウッドデッキなどを配置する。廃屋を撤去し、間伐も施した森は明るい雰囲気。生前に散策したり、遺族が墓参りしながらハイキングしたりできる。

 「循環」にこだわり、土壌学を研究する神戸大の鈴木武志助教の監修で、遺骨が分解されやすいよう工夫。アットフォレストのスタッフが機械を使って骨を2ミリ以下の粒状に粉砕する。骨の量に応じて埋める深さを決め、あらかじめ土と混ぜておく。

 既存の墓から遺骨を移すことも可能。親族以外のパートナーや友人、ペットとも眠れる。48万円から(ペットのみは7万7千円)で、料金の一部は森林保全団体に寄付する。

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 葬儀や埋葬を巡っては、家族の多様化で、旧来の慣習にとらわれない考え方が広がる。同社の小池代表は、この数年で母方の祖父母が相次いで死去。新型コロナウイルス禍で葬儀ができなかったが、「故人を思うのには、形式より気持ちが大切」と実感したという。さらに、墓の改葬を考える両親と一緒に樹木葬などの墓地を見学。「もっと自然で、森林を生かした墓をつくりたい」との思いが強まり起業した。

 提携先を探して、森への造詣が深い能勢妙見山の植田観肇副住職(44)にたどり着いた。相談を受けた植田さんは「当初は檀家さんも戸惑ったが、関西には遺体を埋葬する『埋め墓』と、供養のための『参り墓』を別に設ける風習があった。循環葬を埋め墓と捉えると、みんなスッと納得できた。故人を思う場所は必ずしもお墓でなくてもいい」と話す。埋葬地の管理主体は妙見山で、業務の一部をアットフォレストに委託する形で運営。寺の墓地となったことで、埋葬に関する法制度もクリアし、サービスの永続性も確保できた。

 既に生前予約が入っているという。アットフォレストTEL070.1808.2288 (広岡磨璃)

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