城福体制2年目の東京ヴェルディは、なぜ強いのか。躍進の秘密は「指揮官の情熱」にあり。

実に16年ぶりとなるJ1の舞台に、今季こそ手が届くかもしれない。

2023シーズンの明治安田生命J2リーグにおいて、堅守(リーグ1位タイの21失点)を武器に上位争いを展開しているのが、就任2年目の城福浩監督率いる東京ヴェルディだ。

喜怒哀楽にあふれた“熱血漢”が指揮を執る東京Vは、攻守にアグレッシブなスタイルを貫きつつ勝ち点を積み重ねているが、今シーズン途中には主力選手がライバルクラブに移籍する大きなピンチもあった。

異例とも呼べる事態にフロントはどのような対応を見せたのか。そもそも、城福監督のチームづくりはどのようなモノなのか。指揮官が求める“ゲームチェンジャー”の最適解についても考察した。

直近5試合の基本システム

まずは、直近のリーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は安定感抜群のマテウスで、4バックは右からクレバーなプレーが持ち味の宮原和也、ボランチでも起用される林尚輝、在籍8年目を迎えた平智広、攻撃の隠れたキーマンである深澤大輝の4人。センターバックは千田海人、山越康平や谷口栄斗(本稿執筆時点では負傷離脱中)も控えており、層が厚いセクションだ。

ダブルボランチは、不動の司令塔かつキャプテンの森田晃樹を稲見哲行または綱島悠斗がサポートする。稲見と綱島は試合展開によって、一列後ろのCBでも起用されている。

攻撃に幅と深みをもたらすサイドハーフは、右が今夏にセレッソ大阪から期限付き移籍で加入した中原輝で、左がプレースキッカーも務めるテクニシャンの北島祐二。とにかく仕掛けまくるドリブラーの甲田英將&新井悠太、マルチロールの齋藤功佑、オレクサンドル・ジンチェンコ(アーセナル)を好きな選手に挙げる加藤蓮らもポジションをうかがう。

2トップは再びヴェルディグリーンのユニフォームをまとう染野唯月と今季ここまでのリーグ戦で3ゴールを記録している山田剛綺のコンビ。元来中盤の選手である齋藤が染野とコンビを組む場合は、齋藤がトップ下、染野が1トップという縦関係になり、染野はよりフィニッシュに専念する形となる。

指揮官の情熱が反映されたスタイル

2008シーズン以来となるJ1の舞台を目指して戦う東京ヴェルディ。今季の戦いぶりを語るうえで欠かせないのが、就任2年目の城福浩監督である。

城福監督はこれまで、年代別の日本代表、FC東京(計2回)、ヴァンフォーレ甲府、サンフレッチェ広島で監督を務めてきた。勝利後は渾身のガッツポーズで喜びを表現し、納得がいかない判定には険しい表情で抗議。喜怒哀楽にあふれた“熱血漢”である。

その指揮官が標榜するのが、攻守にアグレッシブなスタイルだ。攻撃では、最終ラインから丁寧にパスをつなぎ、常にボールを動かして相手守備陣のギャップを狙う。守備では、前線からの能動的なプレスを基本的な約束事としつつ、コンパクトな陣形を保って相手アタッカーの侵入に制限をかける。

まるで指揮官の情熱がピッチ上に反映されたような戦い方である。

特に攻撃時のポゼッションは、スカッドとの相性が良い。現チームには、惚れ惚れするボールさばきでリズムをつくる司令塔の森田晃樹を筆頭に、綱島悠斗や深澤大輝、平智広、谷口栄斗らテクニックに定評があるアカデミーの出身者が多く、丁寧にパスをつなぐスタイルは打ってつけだ。

彼らアカデミー育ちの選手たちに加えて、齋藤功佑や北島祐二、宮原和也といった足元のスキルおよび戦術理解度が高いプレーヤーを外部から補強することで、基本コンセプトの浸透度をさらに高めている点も特徴的だろう。

なかでも、サイドバックの深澤と宮原の動きは非常に興味深い。左SBの深澤は技巧派の北島とコンビを組む形が多いが、周りを上手く活用できる背番号20がパートナーの場合は、インナーラップまたは相手ペナルティーエリア内へ積極的に侵入する動きを繰り返し、相手守備陣の脅威となる。

第23節・ロアッソ熊本戦では、得意とする形から齋藤の先制点をアシストした。(動画15秒から)

一方、左サイドのパートナーが積極的なドリブルを武器とする甲田英將または新井悠太の場合、彼らが相手ディフェンダーと1対1を仕掛けられるように、絶妙な距離感を保ってサポートする。

この動きは右SBの宮原が得意としているが、右サイドはドリブルに加えて連係でも崩せる中原輝が今夏に加入。これまで以上にオーバーラップの回数を増やしている宮原の働きが、サイドアタックの破壊力アップにつながる。

状況に応じたサイドバックの振る舞いからも読み取れるように、城福監督は選手たちの特長、強みに主軸を置いたチームづくりを心掛けている。戦術コンセプトとスカッドが見事に嚙み合った結果、上位争いに絡むことができているのだ。

称賛されるべきフロントの仕事ぶり

さらに見逃せないのが、バスケス・バイロンの移籍(FC町田ゼルビアへ)で生じたダメージを最小限に抑えたフロントの仕事ぶりだ。

かねてより優秀な若手有望株を抱える東京ヴェルディは、これまでも数多くの選手がステップアップの移籍を決断してきた。近年を振り返ると、畠中槙之輔&渡辺皓太(現:横浜F・マリノス)、井上潮音(現:横浜FC)、藤本寛也(現:ジウ・ヴィセンテ)、山本理仁&藤田譲瑠チマ(現:シント=トロイデン)らが移籍。

昨季終了後には守備陣の柱だった馬場晴也(現:北海道コンサドーレ札幌)とエースの佐藤凌我(現:アビスパ福岡)が、前述の通り今季途中の7月上旬にはバスケスが町田へ旅立っている。

特にバスケスの移籍は、同じく東京に本拠地を構えるライバルクラブ(しかも町田は首位を快走中)への流出というショックはもちろん、戦力的なダメージも当然ながら大きいものだった。しかし、フロントは素早い対応で穴埋めを試みる。セレッソ大阪から中原輝を期限付き移籍で獲得することに成功したのだ。

切れ味鋭いドリブル突破を武器とするウィンガーの中原は、前所属のC大阪で今季リーグ戦16試合に出場。第21節終了時点で5位と好調なチームにおいて、決して出番に恵まれていない訳ではなかった。

ただ、今季リーグ戦ではすべて途中出場での起用だったこともあり、本人としては葛藤があったようだ。加入後の囲み取材では、以下のようにコメントしている。

「怪我なども少しありましたが、基本的にはメンバーに入って途中から出場することが多かったです。僕は途中から出場して残り時間で結果を出すスピードスターではないですし、僕のプレースタイル的にはスタートからプレーできた方が周りから良いイメージを持ってもらえると思っています。スタートから出場することにこだわっていますし、僕ももう27歳なのでこれからもう一段階上に行くためには(今季残り)半年間を途中出場で過ごすよりは、このチームに来て僕自身結果を出しながらヴェルディがJ1に昇格できるように取り組んでいきたいと思いました」

移籍への覚悟を示したのが、新天地でのデビュー戦となった第27節・ベガルタ仙台戦。さっそく右サイドハーフでスタメン起用されると、6分に先制点をゲットする。その後もハイパフォーマンスで攻撃をけん引し、チームの全4得点に絡む大活躍(1ゴール&2アシスト)を披露した。

シーズン途中での主力選手の流出というピンチがあったものの、的確な補強でチーム力を落とさないフロントの仕事ぶりは、称賛されるべきだろう。

そして、バスケスの移籍が発表される3週間前には、名古屋グランパスより甲田英將を育成型期限付き移籍で獲得。とにかく仕掛けまくるドリブラーで、中原とは異なる強みを発揮して存在感を放っている。

また、絶対的な得点源が不足していたフォワードには、昨季に引き続き染野唯月を鹿島アントラーズから迎え入れた。染野は国立開催となった第25節・町田戦で2ゴールをマークするなど躍動しており、新エースとして期待は大きい。

“ゲームチェンジャー”は誰だ?

第27節・ベガルタ仙台戦を中原輝の活躍で勝利し、2連勝を狙った第28節の水戸ホーリーホック戦。シュート数では9対5と上回った東京ヴェルディだったが、決定力を欠いてスコアレスドローに終わった。

チームを率いる城福浩監督は試合後、露呈した課題を以下のように述べている。

「チームにはケガ人、体調不良といったアクシデントはあったと思うが、あとから出てきた選手が、攻守においてゲームチェンジャーになるチームこそが夏場に勝点3を取れるチームだと思う。そこの課題に向き合いたい」

指揮官が求めたのは、“ゲームチェンジャー”の出現だ。交代選手が試合の流れを変え、自分たちのペースに持ち込んでゴールを奪い、最終的に勝ち点3をゲットする。そんな役割を担えるのは誰になるだろうか。

まず浮かぶのは、ドリブラーの甲田英將と新井悠太だ。臆することなく、とにかく仕掛け続ける両名の姿勢は、対面のディフェンダーからすれば相当イヤだろう。試合終盤の疲労が蓄積された時間帯なら尚更だ。

2025シーズンからの入団が内定している新井は、東洋大在学中の20歳。今年6月に特別指定選手として承認され、第24節のV・ファーレン長崎戦で68分からJリーグデビューを飾った。

この試合で左サイドハーフに入った背番号40は、ビハインドを背負ったチームを救うべく積極果敢なドリブルを披露。89分にカットインからの強烈シュートでプロ初得点を決めてみせた。

続く第25節・町田ゼルビア戦でも66分から起用され、左サイドでプレー。83分には、スピードに乗った突破からクロスを供給し、染野唯月の同点弾をお膳立てした。

本格的なプロ入りは翌々シーズンからとなるが、そのドリブルは現時点でもプロ相手に十分すぎるくらい通用している。大学との兼ね合いもあり、クラブで出場できる試合は限られるはずだが、今後の成長が楽しみで仕方ない逸材だ。

そして、“究極のゲームチェンジャー”となりうるのが、インドネシア代表のアルハンである。

7月12日に行われた天皇杯3回戦のFC東京戦に左サイドバックで先発出場したアルハンは、前半からストロングポイントのロングスローでチャンスメイク。下記動画の冒頭5秒からのシーンに代表されるように、伸びが凄まじいロングスローが相手ゴールを幾度も脅かした。

町田やブラウブリッツ秋田など、J2にはロングスローを有効活用するチームが複数存在するが、各クラブのロングスロワーと比較しても、アルハンは群を抜いているかもしれない。そう思わせるほどのインパクトがあり、延長戦に突入しても伸びは衰えなかった。

アルハンが主戦場とする左サイドバックは、攻撃のキーマンでもある深澤大輝が不動の存在として君臨。背番号38がポジションを奪うのは容易ではないが、例えば試合終盤のラスト15分で1列前の左サイドハーフとして起用し、ロングスローに特化させるのはどうだろうか。

今季の東京Vは、アウェイで10勝1分3敗(勝率71.4%)と好成績を残す反面、ホームでは4勝6分4敗(勝率28.6%)と苦しんでいる。

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つまり、ホームで勝つことができれば、おのずとJ1昇格に近づくはずだ。本拠地での勝率アップに向けて、アルハンのロングスローを取り入れるのも、一考に値するかもしれない。

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