黒船のようなタイムマシン【サディスティック・ミカ・バンド】LP BOX に圧倒された!  日本のロックの金字塔!サディスティック・ミカ・バンド

サディスティック・ミカ・バンド3枚のオリジナルアルバムがリイシュー

1971年に結成したサディステック・ミカ・バンドは、翌年にシングル「サイクリング・ブギ」でレコードデビュー。高橋幸宏参加後『SADISTIC MIKA BAND』、『黒船』、『HOT! MENU』という3枚のスタジオアルバムを残す。日本のロックの黎明期において国内のみならず、海外にも注目された音楽性の高さはもはや世界基準であり、リリースから50年という時を経た今もその革新性はまったく色褪せていない。

この度、ユニバーサル ミュージックよりリイシューされたサディステック・ミカ・バンド『1973-1976 LP BOX 完全生産限定盤』には彼らが70年代にリリースした3枚のオリジナルアルバムとライブアルバム1枚、そしてデビュー曲の「サイクリング・ブギ」の7インチがインクルーズ。セカンドアルバム『黒船』のプロデュースを務めたクリス・トーマスの監修の元、ロンドンのアビイ・ロード・スタジオのマイルス・ショーウェルによるハーフ・スピード・カッティングで蘇る。

さらに豪華ブックレットには、デヴィッド・ボウイやマーク・ボランを撮影した世界的なフォトグラファー鋤田正義撮影の若き日のメンバーが収められている。『黒船』のレコーディングメンバーであった加藤ミカ(当時)、加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏、今井裕のポートレートはセピアカラーでありながら当時の最先端モードと、何か面白いことをやってやろう!という意気込みと自由な感性が入り混じり、深い味わいを残す。特にロックスター然とした高中正義のジャンプスーツ姿や当時のロックンロールリヴァイバルをそのまま体現した今井裕のTEDDY BOYスタイルは惚れ惚れするほどイカしている。

また、レコーディング時のオフショットやライブ写真からも臨場感もあり、まさにタイムマシンに乗り、今の音楽シーンの礎の一端を目撃したような感覚に陥る。レコードのラベルも当時のままで再現され、そのディテールと最新カッティングで蘇る音の素晴らしさに、なんて豪華なんだと思わずにいられない。

驚くのはその音のきめ細かさと立体感であり、当時のアルバムと聴き比べてみても、そのクオリティは格段に違っている。最新のカッティング技術に圧倒されたわけだが、これと同時に当時のサディステック・ミカ・バンドが未来を見据えたサウンドメイキングを施したからこそ、50年近く経った今の時代にも、懐かしさを微塵も感じることなく受け入れられるのだ。

ザ・フォーク・クルセダーズからサディステック・ミカ・バンドへ

サディステック・ミカ・バンドは、元ザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦を中心に結成された。ザ・フォーク・クルセダーズは、1967年にリリースした「帰って来たヨッパライ」でオリコン初のミリオンヒットを放ったフォークグループだ。

レコーディングされたテープの高速回転というユニークなアイディアで一躍お茶の間にも浸透した「帰って来たヨッパライ」。この楽曲のソングライティングにもクレジットされた加藤和彦がソロ活動を経て結成されたのがサディステック・ミカ・バンドだった。

そのネーミングの由来がプラスティック・オノ・バンドにあったように、サウンドの根底には計り知れないビートルズの影響があったが、同じように、ザ・フォーク・クルセダーズにもその影響は顕著に表れていた。ちなみに「帰ってきたヨッパライ」の最後のお経が流れる部分は「ハード・デイズ・ナイト」の歌詞になっている。

サディスティック・ミカバンドとイギリスのロックムーブメント

そんな加藤和彦を中心に結成されたサディステック・ミカ・バンドは、イギリスの大きなロックムーブメントと密接なつながりがあった。

1970年代初頭のイギリスではグラムロックの台頭と相まって、ロックンロール・リヴァイバルの波も押し寄せてきた。

グラムロックを象徴する T.Rex のマーク・ボランは12歳の時にちょうど渡英していたエディ・コクランのバックステージに潜り込み、ローディーを志願したという有名な逸話がある。わかりやすいメロディーでキャッチーなグラムロックにもそんな1950年代終わりのロックンロールがひとつの基盤になっている。だから、こういった波が起こるのも当然だと言えるだろう。そして1973年に公開された『アメリカン・グラフィティ』はヨーロッパにおいても大ヒットを記録し、ロックンロール・リヴァイバルは本格的なものとなる。

この1年前の1972年にリリースされたサディステック・ミカ・バンドのデビューシングル「サイクリング・ブギ」はそんなムーブメントをいち早く察知したかのように、50年代のロックンロールのキャッチーさを全面に打ち出し、コミカルな日本語の歌詞を乗せていた。この手法はのちにダウン・タウン・ブギウギ・バンドが踏襲し、「カッコマン・ブギ」や「スモーキン・ブギ」などのヒット曲を残した。また、サディステック・ミカ・バンドは同じく1972年にデビューしたキャロルといくつかの共演を果たしているのも興味深い。

クリス・トーマスプロデュースのセカンドアルバム「黒船」

しかし、加藤和彦を筆頭に高橋幸宏、高中正義、小原礼といった、のちにそれぞれのスタイルで日本の音楽シーンに燦然たる軌跡を残したメンツを擁したサディステック・ミカ・バンドにとって、ロックンロール・リヴァイバルというのはあくまでも音楽性の中のひとつの要素であり、重厚な演奏力と革新的な音楽センスでバンドとしての多様性を示し、日本人アーティストとしては規格外の作品を残していくことになる。

「サイクリング・ブギ」の翌年にリリースされたファーストアルバム『SADISTIC MIKA BAND』の完成度の高さに驚いた英プロデューサー、クリス・トーマスが、サウンド・プロデュースを申し入れ、セカンド・アルバム『黒船』が完成する。クリスはビートルズの『ホワイトアルバム』でのアシスタント・プロデューサーからキャリアをスタートさせ、ピンク・フロイド、ロキシー・ミュージック、セックス・ピストルズなどを手がける。70年代の英ロック史の本流は、まさにクリスの軌跡だと言っても過言ではないほどの名プロデューサーである。

日本最高峰のグラムロックナンバー「タイムマシンにおねがい」

『黒船』に収録されているサディステック・ミカ・バンドの代表曲である「タイムマシンにおねがい」は日本最高峰のグラムロックナンバーだ。荒井由実(松任谷由実)、近田春夫&ハルヲフォン、ROLLYなど数多くのアーティストにカバーされ、PUFFYのデビューシングルである「アジアの純真」でもその影響を垣間見ることができる。

サディステック・ミカ・バンドは、『SADISTIC MIKA BAND』、『黒船』、『HOT! MENU』という3枚のスタジオアルバムを残し1976年に解散する。この3枚のアルバムは、英ロックの本流を正しく継承しながら、どこかオリエンタルな雰囲気を醸し出すオリジナリティが日本のロックの金字塔として語り継がれる。

クリス・トーマスを圧倒させた『SADISTIC MIKA BAND』、そしてバンドの絶頂期とも言える『黒船』、実験的要素とユーモアセンスを兼ね備えながらもメンバー各々の日本人離れした感性と力量が1枚のアルバムの中で静かにせめぎ合う『HOT! MENU』とサディステック・ミカ・バンドが短い時期に残した音の軌跡は、圧倒的な音の完成度を感じると共に世界的なロックの流れを俯瞰した上でも極めて重要な位置に存在する。だからこそ、ダイレクトに音を体感できる今回のリイシューでその全貌を体感して欲しい。

Information
孤高の天才・加藤和彦の ドキュメンタリー映画の製作に向けクラウドファンディングでの協力者募集中

サディステック・ミカ・バンドの創始者であり、日本のポピュラー音楽の発展に計り知れない功績を残した天才、加藤和彦にスポットを当てたドキュメンタリー映画の製作がスタートします。日本のポピュラー音楽史編纂の第一歩ともなる歴史的映画の製作に向けてクラウドファンディングでの協力者を募集中です。

■ クラウドファンディング実施要項
『孤高の天才・加藤和彦のドキュメンタリー映画の製作に、ご参加を!』

期間:2023年7月26日(水)9:00 〜 2023年8月27日(水)23:00
プロジェクト実行責任者:松野玲(映画『トノバン』製作委員会クラウドファンディング事務局)

https://readyfor.jp/projects/KatoKazuhiko-movie

カタリベ: 本田隆

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