「悠然」には程遠い

 与謝野晶子に一首がある。〈腹立ちて炭まきちらす三つの子を なすにまかせてうぐひすを聞く〉。かんしゃくを起こして、3歳の子が部屋に炭をまき散らす。母はどうか。叱りもせず、なすがままにして、ウグイスの声に耳を澄ましている▲子だくさんの晶子はそれでも、数知れない歌と文章を残し、家計をやりくりした。常に〈なすにまかせて〉いたわけではあるまいが、この悠然とした構えを子育て術の要としたのだろう▲“晶子流”は決してたやすくないとしても、せめて一片の「悠然の構え」があれば-と、悲痛な虐待の報に接するたびに思う。全国で「非道」と呼ぶしかない事案が絶えない▲県立こども医療福祉センター(諫早市)の看護職員1人が、複数の児童に虐待をした疑いがあると県が明らかにした。「悠然」には程遠い、職員の煮え立つような感情がちらつく▲性的な虐待のほかに、口に食べ物を詰め込み、夜泣きをする児童に「うるさい」と言ったとする虐待も疑われている。昨年8~9月の県職員への実態調査で発覚したが、それを確認したのは今年5月だった▲悠然と構えていたのは県でしたか…と皮肉るつもりはないが、「虐待事案」には往々にして「関係機関の対応の遅れ」が付いて回る。絶やすべきは前者と後者、そのどちらでもある。(徹)

© 株式会社長崎新聞社