上杉和也の声を務めた難波圭一が語る 声優特有の演技とは?

漫画家・あだち充原作で、1980年代に放送された人気アニメ『タッチ』で、主人公・上杉達也の弟・和也の声を演じた声優の難波圭一。現在でも現役で声優、ナレーションの仕事を行いながら、動画配信教材『ピュア・ヴォイス おとなの声優倶楽部』を監修するなどして、若手に対して指導も行っている。ジェイタメ編集部では難波に声優を目指す方たちへのアドバイスを聞いた。

──難波さんは劇団活動を経て声優になったということですが、現在は専門学校に通って声優となる方が多いです。このように今と昔で、他にも声優の違いは何かありますか?

大昔、まだ“声優”という言葉がない時代に吹き替えの仕事をしていた方たちの芝居は非常にナチュラルなものでした。それからクセのある個性的な声優が面白がられて使われる時代がありました。僕たちもそんな先輩を見習って意識しました。そして今の声優の演技の主流はフラットなものですね。ただフラットなんですが、映画やテレビドラマの俳優さんたちのお芝居とはちょっと違います。何が違うかと言えば、そこが“声優特有の演技”というところだと思います。

──具体的に声優に求められる演技とは?

今はテレビのバラエティ番組などで、声優さんを見掛ける機会は多いと思います。声優ファンの方は気づいていると思うのですが、みなさん、声が明るいですよね。明るい音を普段から使っているので声優は性格的にも明るい方が多いと思っている方もいるかもしれませんが、実はそういうことではなく、使う音が明るいんです。また声優は声も大きいと思います。これも声が大きいから声優は元気な方が多いと思われがちですが、声の大きさは現場で求められるものなんです。現場で身についたものが、そのまま普段のトークでも、活かされているのかなと思います。他にも声優の演技では、話をしている際の距離感を意識します。近くにいる人と、少しだけ遠くにいる人がいたとして、声の大きさや言い方は変えなくても2人に話すことができたとしても、距離感を感じてもらうために、声の掛けた方を変えます。感情の表現もテレビドラマだったら、涙を流せば泣いているのはわかりますが、声優がマイクの前で涙を流しても、見ることができないので、それだけでは伝わりません。つまり、悲しい声の音とはどんな音で、その音を聞いた方がどう感じてくれるかを意識しなければいけません。

**─難波さんが「この人は声優のセンスがありそうだな」って感じるのはどんな方ですか?**

やっぱり“明るい音”を持っている人ですね。もちろん、訓練すれば“明るい音”を出す事ってできますが、最初から持っている人の方が楽ですよね。あとは、音感、リズム感も大事です。音感があれば、自分がどんな表現をしているのかを自分の耳を通して感じることができると思います。今、声優のオーディションでは、「歌って下さい」ということが多いですし、実際に声優が仕事で歌うことを求められることもあります。ただ、歌がうまいってことは音感がいいはずなので、声優としてもセンスがあると言えると思います。実は声優に歌わせるって、理にかなっていることなんですよ。

──難波さんのデビューは1984年の映画『超人ロック』です。難波さんのように声優として長く活動をし続けるために必要なことは?

その時代に合ったものをずっと勉強をするしかないですね。「オレはこのやり方で売れてきたんだ!」って意地を張る時代ではないと思います。今の時代に即した表現を磨く必要があると思います。これは現役で仕事をするなら当たり前のことですよね。いくら過去に栄光があっても、それだけでは使ってもらえなくなります。長く使ってもらうためには、自分を磨くトレーニングを続けるしかないと思います。

──難波さんが若い声優から刺激を受ける機会もありますか?

もちろん、ありますよ。今の若い声優さんたちってすごいですよ。昔だったら、ちょっと売れてしまうと、偉そうにしたりする人もいましたが、今はそんなことはありません。本当に礼儀正しくて、腰も低いです。僕のような人間にもリスペクトを持って接してくれます。そんな中にも、一方で虎視眈々とさらに上のステージを狙っている姿勢も持っていて立派ですよ。彼らが良い演技をしているのを見てしまうと、私も「悔しいな!」って思って、気合いが入ります。

──最後に声優を目指す方にアドバイスをお願いします。

お芝居がうまいとか下手とか、そういう次元の前に、まずは今、売れっ子の声優の方の研究をしてみましょう。そこを真剣に研究すれば、声を明るくするとか、大きな声であいさつをするとか、そんな基本の基本に気づくことができると思います。現場に着いて、低い声でテンション低く挨拶をする声優は本当にゼロですし、声優になりたいのなら、そこは最低限です。また、今売れている人たちは今、売れているものを表現しています。でも、これからデビューを狙う方たちが実際にデビューをして演技をする将来は、もっと違う世界観になっているはずです。そのための準備を考えてみることも必要です。時代に求められたものを表現できるかどうかが、オーディションに合格するポイントになると思います。
ケッケコーポレーション付属養成所にもプロを目指す方がいますが、時代に求められる「新しい声優」になるために、自身の足りない物を見つけ、育てていくということを伝えています。
動画配信教材『ピュア・ヴォイス おとなの声優倶楽部』でも、声優に必要な基礎的なことを、はじめての方でも学びやすく伝えています。

<プロフィール>
難波 圭一(なんば けいいち)
山口県岩国市出身
有限会社ケッケコーポレーション代表

【出演】
タッチ(上杉和也)
きまぐれオレンジ☆ロード(1987年 ー 1988年、小松整司)
機動戦士Ζガンダム(カツ・コバヤシ)
ドラゴンクエスト ダイの大冒険(第1作)(1991年 – 1992年、ポップ、ミストバーン)
難波圭一監修「初めての方でも、声優を学べる配信講座 ピュアヴォイス」
https://www.purehearts.co.jp/pure_voice/lp01/
など多くの作品に出演

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