理想的オタク道「ダメなほうのアンダーソン監督」と呼ばれても!『モンスターハンター』『バイオハザード』『モータル・コンバット』

『モンスターハンター』© Constantin Film Verleih GmbH

ご存じ「モンスターハンター」はプレイステーション2にはじまり、携帯ゲーム機PSPから現在のPS5までシリーズが続いている大人気のゲームである。その映画化に挑戦したのはゲーム映画ならこの人、なポール・W・S・アンダーソン。主演はもちろん彼の愛妻であり、映画化1作目『バイオハザード』(2002年)の主演もつとめているミラ・ジョヴォビッチである。これだけで大体どんな映画か推察してしまう人もいるだろう。

よく『ブギーナイツ』(1997年)や『リコリス・ピザ』(2021年)などのポール・トーマス・アンダーソン(PTA)と比べられ、「ダメなほうのポール・アンダーソン」などと揶揄されてしまうことの多いW・S・アンダーソン。

実際、名前を頻繁にPTAと間違われるのがイヤで、「W・S」とイニシャルを入れたが、しかし今度は『ライフ・アクアティック』(2005年)などで知られるウェス・アンダーソンと間違われるようになってしまった……。などのトホホな逸話を持つ。何となく軽視されがちな彼だが、実はそうバカにしたものでもないのだ、と言っておきたい。

「ゲームを作った人に話を聞く」真摯な姿勢で大ヒット『モータル・コンバット』

ゲーム映画監督として有名な彼だが、それだけでなく、ゲーム映画を成立させることができる、と最初に世間に証明して見せたのは、実はW・S・アンダーソンなのである。彼は初監督作品の時からずっと、ゲームの映画化に尽力してきた。

今でこそ最近の真田広之、浅野忠信の出演でも話題になったリメイク版が記憶に新しいが、1995年版『モータル・コンバット』でゲームの映画化にいち早く着手したのがアンダーソン監督だ。

しかしこの頃、『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』(1993年)、『ストリートファイター』(1994年)といった大作ゲームの映画化が軒並み大コケしたことによって、業界はゲームの映画化に懐疑的だった。

多くのゲーム映画作品が、他ジャンルで有名になった監督や職人監督たちの手により、ある意味「マンガ映画なんてよぅ……」というような、ある種なげやりな気持ちで作られていたのと異なり、アンダーソンは自主映画からキャリアを始め、モータルがメジャー長編デビュー作である。その辺は素直というか、変な癖がついていなかったということかもしれない。

また、周囲の役者たちの熱意にもアンダーソンは助けられたことだろう。元々ゲーム好きで、ギャラ分の撮影が終わっても追加撮影に自費でロケ地のタイまで来て、さらに打ち上げ代まで自腹で出すほど役に入れ込んでいたライデン役のクリストファー・ランバート、ラスボスのシャン・ツンを大熱演したケリー・ヒロユキ・タガワは、自前の衣装でオーディションに臨み、全編通して他の役者を食う演技を見せた。

「『スター・ウォーズ』と『燃えよドラゴン』を合わせたような映画だ!」

そういった周囲の人々の、ゲーム映画だからといって腐らずに奮起しているさまが、アンダーソンに影響を与えたのは間違いないだろう。また、『酔拳2』(1994年)などに出演していたリュウ・カン役のロビン・ショウにアクション映画の手ほどきを受けたという話もある。

ゲームのクリエイターたちを現場に招いて意見を聞いたり、ある意味今のゲーム映画の製作のように、「作った人に話を聞く」という当たり前の姿勢が生んだ作品、作り手たちの真摯な態度の産物とも言えるだろう。

「モータルコンバット」というゲームは、勝者が敗者の息の根を完全に止める、という出血量多めの残酷対戦格闘だ。当初はもっとゲームに忠実な内容だったが、子供に見てもらうために暴力表現をマイルドにし、R指定からPG-13に変更した。ゲームのおどろおどろしいサウンドも当時のエレクトロミュージックにし、より一般でヒットする映画にしようという努力もあった。

蓋を開ければこれが見事に当たり、「『スター・ウォーズ』(1977年)と『燃えよドラゴン』(1973年)を合わせたような映画だ!」と大ヒット。つまり「モータルコンバット」は“ゲーム映画は商売になる”ということを最初に世界に知らしめた映画であったのだ。これはアンダーソンの大きな功績と言っていいだろう。

ストーリ-はオリジナル、主人公は妻! ゲームを食った『バイオハザード』シリーズ

そしてゲーム映画史的にも、W・S・アンダーソンのキャリアにもプライベートにも大きく影響を与えたのが『バイオハザード』で、全6作の人気シリーズになった。『モータル~』以上の大ヒットを全世界で叩き出した『バイオ』は、当初はそれなりにゲーム内容に準拠した内容だったものの、シリーズを追うごとに映画オリジナルストーリーが展開していく。

主人公の視点で、閉鎖空間でのサスペンスを追い求める、そんなホラー的演出を追求していくゲーム版とは真反対の方向、世界を巻き込むゾンビ最終戦争と世界の破滅、その壮大な物語が映画版『バイオ』では展開される。

これには評価が分かれるかもしれないが、実は“「バイオ」と言えばゲーム”という認識自体も昨今は変わりつつある。若年層に対する筆者の個人的なリサーチによると、最近の若者的には「バイオ」と言えばまず思いつくのは映画の方であり、ゲームの方はYouTubeで芸人がワーキャーいいながらプレイしている動画で知っている……なのだそうだ。そう聞くとなかなか隔世の感があるが、ある意味これはアンダーソンの映画がそれだけ普及したということなのだろう。ゾンビ映画といえば『バイオ』、こう思わせたアンダーソンの功績は大きい。

「三銃士」映画もミラが主役!? 愛ゆえのやりたい放題

そして『バイオ』シリーズといえば、主演のミラとアンダーソンのなれそめとなった作品でもある。ミラはもともと世界的なファッションモデルであり、”Plasfic Has Memory”なるバンドで音楽活動もしていた。なので彼女自身はそこまで役者としての活動に重きを置いていなかった。『フィフス・エレメント』(1997年)などで注目されたが、ウクライナ出身の彼女は慣れない国での俳優業に嫌気がさしつつあったという。

しかし、彼女の弟が「バイオ」のゲームの大ファンであり、弟を喜ばせたくて出演を決めたそうである。……と、この辺りからは様々な歴史の「if」を感じずにはいられない。もし彼女が出ていなかったら、後の『モンハン』映画もなかったということになるのではなかろうか。

意気投合した2人は『バイオ』シリーズ製作中の2009年に結婚。アンダーソンは『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011年)をミラ主演で手がける。え、三銃士に女性主人公はいないよね? という素朴な疑問を持ったものだが、夫妻はそこに驚きの解決法を見せた。原作で様々な陰謀を巡らし銃士たちを翻弄する妖艶な悪女・ミレディを主役級にし、ミラに演じさせたのだ。

この解釈には驚いた。鬼太郎で言えばねずみ男、ドラえもんで言えばスネ夫が主役みたいなものである。これはかなりのコペルニクス的展開であった。もう後はやりたい放題、原作にはない飛行船内でのアクションまで登場する痛快娯楽作品になっていた。そしてなにより、2人の夫婦愛を強く感じさせる出来ではあった。

「ダメなほう」と揶揄されようと、理想を体現したオタク監督

『エイリアンVS.プレデター』(2004年)という、それぞれ個々に熱狂的ファンがいるキャラクターの夢の対決的映画も手がけているアンダーソンだが、なかなか辛辣な意見が見受けられる作品になってしまっている。それでも「(『エイリアン』1、2を撮ったリドリー・スコット、ジェームズ・キャメロンについて)彼らは僕にとって神のような存在で、そこに並べるなんて思わない。でも、今まで描かれていなかったエイリアンやプレデターを描いてみたいんだ」と実に謙虚なコメントをしている。

製作過程で強固に突っ張ったり我を通したりすることをあまりせず、撮るべきコンテンツを描く、映画素材のカジュアルさ、作家性の希薄さ。このあたりがアンダーソンをして、もしかしたら食い足りないと思われ、彼のことを「ダメなほうのアンダーソン」と悪し様に言う人々もいるのかもしれない。

しかし、そういう監督だから使いやすくて、企画の声がかかる。そこで何本も撮れる。そして気づいたら『バイオ』のラスト作のように好き放題やっている。それに妻を主演にした企画も通せる。これも十分にマニア的な監督のありようとも言えるだろうし、またもう1段押し進めれば、それこそがアンダーソンの作家性というものかもしれない。

折に触れて思うことだが、監督、役者等の「幸せ」とは何なのかということを考えてしまう。超一流の作品を撮っても、自分のビジョンを強固に押し通した結果、周囲に人がいなくなったり、スケジュールやパパラッチに追われ、ろくに自分の時間も過ごすこともできない……。

だが、仕事もプライベートも趣味も、どちらも楽しんでいる、ないしはキャリア的には超一流ではないにしても、本格的な趣味など別の顔を持っていることで有名なスターも多くいる。多趣味で知られたテリー・サヴァラスやドナルド・サザーランドなど、枚挙に暇がない。日本でも思い当たる人がいるだろう。

W・S・アンダーソン作品は肩肘張らない「いつもの馴染みの味」

本人が言うとおり、彼はキャメロンやリドスコほど偉大な監督ではないのかもしれない。しかし、それを認めているあたり、またミラとの関係等から判断するに、彼は絶対“いい奴”に違いないし、友人にしたいタイプだと思う。好きな映画に携われ、そこで出会った妻を愛し、またその妻を主役に映画を撮る……。ある意味オタク的には理想の生き方と言えるのではないだろうか。

我々はいつも上等な物だけを食べているわけではないし、町中華やポテチも食べたりする。いつもそこにある馴染みの味、ジャンクな味だって必要なものである。映画でも同じことだ。肩肘張ったフルコースではなく、肩の凝らない“いつもの”料理。アンダーソンはそんな存在に似てはいまいか。

考えるに、アンダーソンのビジョンはまだスクリーンにかかった作品では表現しきれていないのかもしれない。なぜかというと、彼はいつも「ディレクターズカット版もリリースしたい」というのが常である。おそらく製作過程での削除シーンが存在するということなのだろうが、編集でカットされてしまったシーンに、まだお宝があるのかもしれない、そう思わせるのだ。

カート・ラッセルが殺人兵器としての洗脳から脱した兵士を演じたSFアクション『ソルジャー』(1998年 ※アンダーソンのビジョンを実現するには少し時代が早すぎる映画だった)、宇宙船ホラーに『ヘル・レイザー』(1987年)などの魔界召喚ホラー要素を入れた埋もれた名作『イベント・ホライゾン』(1997年 ※こちらも元々より30分ほど短くなっている)など、実は意欲作も多く撮っているアンダーソン。『イベント~』に至っては、同じく宇宙船を舞台にしたSFホラーゲーム「デッドスペース」に多大な影響を与えているほどだ。個人的には、アンダーソンは「いつか何かやってくれそうな映画監督」だと思っている。

名作オマージュ満載の映画版『モンスターハンター』

さて、そのアンダーソンが再びカプコンのゲームの映画化に挑んだ、それが『モンスターハンター』である。ゲームのほうは、調査の為にモンスターを狩り、サンプルや素材を手に入れ装備を強化、仲間とともに戦っていくという内容だ。映画化にあたって主演を務めるのは、もちろん愛妻ミラである。

そしてミラの相方をつとめるのがトニー・ジャー。ご存じ『マッハ!』(2003年)などで活躍する、タイが生んだアクションスターである。本作で彼は、異世界の戦士として登場。最初は敵対する2人だが、ムエタイなどの達人であるトニーに対し、実はミラも総合格闘技やブラジリアン柔術のトレーニングもしているので、その対決も見物である。

もちろんゲーム準拠の設定も忘れてはおらず、随所に登場している。ミラの用いる両手剣や、漫画「ベルセルク」やゲーム「ファイナルファンタジーⅦ」などで見られる非現実感のある大剣などの装備も登場する。そして何と言ってもモンスター。火竜リオレウスなどの巨大なやつから小型のネルスキュラなどが立ちはだかり、冒険の手助けをするオトモ猫や、体力回復のための肉の調理シーンなど、ゲーム内のお馴染みのシーンも頻出するし、「モンハン」の印象的な楽曲「英雄の証」も流れるという大サービスである。

この手の映画には「ゲームやらないし異世界モノだし、世界観わからないなぁ」といった声が出てくるのが付き物だが、アンダーソンはその辺の客層にも対策を練っている。本作はいつもの彼の作品よりも、様々な映画の要素を方々にぶち込んだ作品に仕上がっている。

まず米軍の特殊部隊がタイムスリップして異世界に、というあたりは『戦国自衛隊』(1979年)、砂漠でのディアブロス亜種との戦いは『DUNE 砂の惑星』(1984年)のサンドワーム的だ。手錠につながれたミラとトニーの道中は『手錠のまゝの脱獄』(1958年)など、随所に他作品へのオマージュ的シーンが存在する。

今後のアンダーソン(&ミラ)作品はどうなる?

物語としては、スケールをさらに広げた続編も視野に入った出来であるのだが、残念ながら今のところ『モンハン2』の企画は立っていない。しかし、アンダーソンの次の企画はもう動いている。それは『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~)などでお馴染みの作家、 ジョージ・R・R・マーティンの創造したファンタジー世界を舞台とした物語だ。

タイトルは『In The Lost lands』。主演はもちろんミラ・ジョヴォビッチ。ここまで来るともう天晴れである。共演はWWEレスラー出身で「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ(2014年ほか)や『ノック 終末の訪問者』(2023年)などで演技派としても知られつつあるデイヴ・バウティスタ。

物語は女王の命を受け、魔物が跋扈する世界に使わされた女魔導師グレイ・アリス(バイオの主人公と同じ名前!)と、ガイド役として同行する放浪の戦士ボイスの道行きを描き、善悪を越えた世界の中、出会う人や魔物を出し抜き、旅をしていく……という内容のようだ。

この設定、実は同じR・R・マーティン原作の大ヒットゲーム「エルデンリング」の世界観を想起させる。2人の設定はエルデンに登場する世界の調和をとろうと暗躍し、主人公を導く魔女・ラニと、彼女に仕える巨大戦士、半狼の騎士・ブライブ、この印象的なキャラクターを想起させるのだ。エルデンの映画化に近いのではないか? と、どうしても期待してしまう。映画では2人が争うシーンもあるとのことで、とても楽しみだ。

ゲームの映画化を成功させ、そしてそれをシリーズ化させるほど定着させたポール・W・S・アンダーソン。これから彼の描く世界がどんなものになるのか興味は尽きないし、また、おしどり夫婦が手がける今後の作品、共同作業も気になるところだ。

そして個人的には、今後どれくらい彼の趣味、本来撮りたいものを入れ込んでくるのか、つまり、次の『イベント・ホライゾン』的な作品は、いつ撮られるのか? ……というあたりにも引き続き着目していきたい。いつか何かやってくれそうな気もするし、そうでなくても今まで通り、でも何かと楽しませてくれるのではなかろうか? そんなアンダーソン(およびミラとの夫妻コンビ)の動向、期待して待ちたいところである。

文:多田遠志

映画『モンスターハンター』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:夏休み!大作・人気作大集合」「特集:24時間 モンスターバトル!」で2023年8月放送

『モータルコンバット』(2021年)『モータル・コンバット』(1995年)はCS映画専門チャンネル ムービープラスでで2023年8月放送

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