アニメ『モノノ怪』の不親切さに夢中だった。令和の時代によみがえる意義とは

2007年にノイタミナ(フジテレビ系)にて放送された和風怪奇譚アニメーション作品『モノノ怪』。

オリジナルアニメ『怪~ayakashi~』の一エピソード『化猫』を前身作とする本アニメは、謎多き男・通称「薬売り」が様々な怪異と対峙するオムニバス形式の作品となっています。スタイリッシュかつ前衛的なアニメ表現、かつ和風ホラーテイストに絶妙にマッチした妖しくも華やかな映像美で、放映当時から大きな反響を呼んだ本作。他のアニメとは一線を画したその存在感で、放送終了後も長年に渡り多くのファンに支持され続けてきたことでも知られていますね。

『モノノ怪』15周年ビジュアル

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今年2022年、そんな『モノノ怪』は15周年のアニバーサリーイヤーを迎えました。それを祝して始動した周年企画では、2023年の映画化と舞台制作決定という2大ニュースも明らかに。長年新作を待ちわびていたファンは、この一報に大いに歓喜したことでしょう。 放送開始から15周年を迎えた今なお、非常に熱狂的な支持を得る『モノノ怪』。なによりその新たな物語が、今この令和の時代に紡がれること自体が、大きな意義のあることのようにも感じます。

劇場版『モノノ怪』ティザービジュアル

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なぜならばこの『モノノ怪』という作品は、間違いなくいい意味で「現代では制作されないアニメ」だから。

時代が違えば生まれてくることすらなかった、今の令和の時代では本来絶対に見ることのできないアニメのようにも思えるからなのです。

現代のエンタメは「わかりやすい」ものが好まれる

近年アニメに限らず、大勢を楽しませる映画、マンガ、ドラマなどのエンタメ作品には共通して「ある傾向」が見られる、ということが度々話題となっています。その傾向とは「わかりやすさ」が求められる点。

具体的に言えば短時間の視聴や鑑賞でも内容が端的に理解できるよう、「セリフですべてを説明する作品」が増えていると言われています。(※)※参考:映画やドラマを観て「わかんなかった」という感想が増えた理由(現代ビジネス 2021年6月3日掲載)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83647

『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』(光文社)

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なかでも特に例としてよく挙がるのが『鬼滅の刃』。本作は主人公・炭治郎のセリフやモノローグで、非常に丁寧な状況説明が行われる点が度々特徴として指摘されるマンガです。

それがある種ここまでの社会的ヒットの一因でもあるので、決してその点が作品の短所というわけではありません。 ですが普段から様々な映画やアニメ、マンガ等のエンタメ作品に触れる人の中には「すべてを言葉で説明するのはあまりにも情緒がない」という意見の人もいる様子。

作品の言語化されない部分に解釈や見解の余地を残し、その部分を様々な考察で補う。それがエンタメ作品の、ひとつの楽しみ方であることは間違いないからです。

様々な謎が残ったまま…説明の少ない『モノノ怪』は不親切な作品

そういった視点で見た際この『モノノ怪』というアニメは、明確に「様々な説明が大いに足りていない」作品とも言えるでしょう。
本作の主人公たる薬売りの男。彼の素性については作品の冒頭から終了に至るまで、様々な詳細が一切明らかにされていません。

DVD『モノノ怪 壱之巻「座敷童子」』

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本名のみならず、なぜ彼はモノノ怪退治兼薬売りを生業としているのか。退治の際に顕現する、もう一人の人物は誰なのか。そして男はどこから来て、どこへ向かおうとしているのか。

すべてを一切明かさず飄々と現れ、その場に居合わせたモノノ怪を退治し、またどこかへふらりと去っていく。本作のアニメは端的に言えば、薬売りの男が淡々とそれを繰り返す話にすぎないのです。 また彼が対峙するモノノ怪という存在についても、詳細な説明は作中で一切行われません。

唯一明確になっているのは、モノノ怪の形(かたち)・真(まこと)・理(ことわり)のすべてが揃った時、初めて薬売りの男がこれを退魔の剣で斬ることが出来る、ということのみ。

『モノノ怪 海坊主 上』(コアミックス)

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それらも含めて、この『モノノ怪』という物語は、放送開始から今に至るまで非常に多くの謎が未解決のまま。説明不足な点も多々残された、ある意味では視聴者にとても「不親切な作品」なのです。

むしろ謎であってほしい。圧倒的な独創性がすべてを覆す

そんな本作ですが、結果としてその謎の多さが逆説的に、大勢の心を捕え続けるフックとなっているのかもしれません。

モノノ怪の世界、そして何より薬売りの男の謎。それらがいつか紐解かれる事を期待する一方で、とは言えいっそのこと新作が出ても、やはりすべてが謎のままで終わって欲しい。そんな複雑な心理を持ち続ける人が、本作のファンには多数いるようにも見受けられます。

『モノノ怪 座敷童子』(コアミックス)

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また様々な謎が残ったままでも、アニメ自体のストーリー構成は至ってシンプル。

エピソードごとの結末は様々で、すっきりと解決するものもあればわだかまりを残すものもあるかもしれません。ですが原則は“薬売りの男によりモノノ怪退治”というあらすじに終始するものに徹している。そんな単純さが根底にある点も、多くのわかりにくさがある中でも本作が支持される理由のひとつでしょう。 そんな「不親切な作品」であるにもかかわらず、『モノノ怪』が大勢に愛され続けるもうひとつのわけ。

それは何よりもアニメという既存の枠組みを大いに崩した、独創的な唯一無二の表現を多数盛り込んだ映像作品だからではないでしょうか。

作中全体を通して和モダンをベースとした映像表現は、極彩色あるいは濃淡のはっきりとした暗色など、とかく目を引く彩りや画角構図が多彩に盛り込まれています。

またエピソードごとに様々な芸術技法や、歴史的アート作品のオマージュ表現も多数登場。アニメというよりもはや美術作品にも近いその映像は、見るものすべてを強く惹き付ける力のある、強烈な印象を放つものです。

『「モノノ怪」 オリジナル・サウンドトラック』

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さらに映像美だけでなく、主人公・薬売りの男を演じる櫻井孝宏さんを始めとした声優さんの演技も独特。

台詞の言葉選びや言い回し、そして何よりも特徴的な間と空気感。これに関して櫻井さんご自身も15周年企画始動時に、「今でも収録時の光景を覚えている」「これまでのセオリーに当てはまらないオーダーだった」という旨のコメントを5月13日の公式Twitterにて発表しています。そこからも、本作がいかにアニメ的でない作品だったかということがうかがえますね。

一種の“アート作品”をみる感覚で楽しめる

映像や言葉、ストーリーといった様々な要素において、アニメとしての前提を大きく覆す技法や表現を多用した、強烈な力強さを孕む作品『モノノ怪』。

その独創性、そして斬新なテイストはアニメという枠組みではなく、一種のアート作品や美術作品を見る感覚で楽しんでいた人も、もしかしたら多いのではないでしょうか。

劇場版『モノノ怪』特報映像/15周年記念プロジェクト解禁PV

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「わかりやすさ」に重きを置く現代のエンタメ界では、もしかしたら日の目をみることがなかったかもしれない本作。

ですが今作が15年前に、当時としても非常に革新的かつ前衛的なアニメだったからこそ。こうして現代まで大勢に愛される息の長い作品として、今なお異彩を放ち続けているのでしょう。

(執筆:曽我美なつめ) ■『鬼滅の刃』魘夢は鬼に相応しい。悪の存在感が際立つ理由【鬼滅キャラの魅力】

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■『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎が嘴平伊之助を変えた。野生児が"少年"に成長するまで【鬼滅キャラの魅力解剖】

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■『鬼滅の刃』冨岡義勇が抱える深い闇…炭治郎との共通点とは【鬼滅キャラの魅力解剖】

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アニメ『モノノ怪』作品情報

■イントロダクション

2007年7月にTVシリーズとして放送され、 スタイリッシュなキャラクターデザインに、

和紙のテクスチャーなどCG処理を組み合わせて、 今までにない斬新な映像を生みだし話題となった『モノノ怪』。

2020年に行われたノイタミナ歴代70作品を対象とした投票企画「あなたが選ぶ思い出の3作品」(2005~09年度制作部門)にて、 堂々の第1位を獲得。

放送から15周年たった今もなお根強い人気を誇るアニメ『モノノ怪』、 十五周年記念企画始動───。■あらすじ

「人の世ある限りモノノ怪あり」。

古より人の情念や怨念にあやかしが取りついたとき、 モノノ怪となり人に災いをもたらす。

このモノノ怪を斬ることができるのはこの世で唯一退魔の剣。

それを使い諸国を巡りモノノ怪を斬る薬売りの男がいる。 人の心を救いながら薬売りは旅を続ける。■クレジット(劇場版『モノノ怪』)

〈STAFF〉監督:中村健治 制作:ツインエンジン

〈CAST〉薬売り:櫻井孝宏 ■関連リンク

十五周年記念サイト:

https://www.mononoke-15th.com/

劇場版ティザーサイト:

https://www.mononoke-movie.com/

公式Twitter:@anime_mononoke (

https://twitter.com/anime_mononoke

)

#モノノ怪 #mononoke15th

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