野田秀樹演出、NODA・MAP「兎、波を走る」が大阪で開幕

野田秀樹作・演出で、高橋一生、松たか子、多部未華子ら豪華キャストが出演する、NODA・MAPの新作『兎、波を走る』。2年ぶりの書き下ろし新作となる同舞台が、1カ月半の東京公演を経て、8月3日に「新歌舞伎座」(大阪市天王寺区)で開幕した。

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

■ 観る者を飽きさせない「ワクワク」の連続

物語のベースとなるのは、童話『不思議の国のアリス』と、アントン・チェーホフの名作『桜の園』の世界。家でアリス(多部)の帰りを待つ母(松)&アリスのいる国から逃げてきた兎(高橋)の話と、「遊びの園」という名の遊園地を手放そうとする女優(秋山菜津子)&そこで上演する台本を書く作家たち(大倉孝二、野田)の話が交錯する。

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

前半は、女優と作家たちによる漫才のような会話や、兎とアリス、およびアリスの母とのトボけたやり取りに、しばしば大きな笑いが起こる。合わせ鏡が不思議な効果を生み出す美術セットや、プロジェクションマッピングを使ったマジックのような演出、そして「なるほどね!」と膝を打つような言葉遊びの連続に、ずっとワクワクさせられる。

■ 俳優陣の「隙のない演技」に拍手喝采

しかし物語は次第に、ニュースなどで聞き覚えのあるキーワードが提示されるように。そしてフィクションと思われた世界は、ある瞬間から私たちが忘れかけていた「現実」へと、一気に突入するのだ。この手法は、最近の野田の常套テクニックではあるが、一気にドーン! と落とすのではなく、ジワジワと追いこんでいくような雰囲気はこの作品ならではだ。

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

観客の感情を、全方位から揺さぶるような世界を成立させるのは、やはり今回の俳優陣の並外れた演技力。太陽のように母の慈愛を表現する松、無邪気な愛くるしい少女を演じた多部、そして軽薄さと重厚さを使い分けながら、訳ありの兎という難役をものにした高橋。これらの中心人物だけでなく、アンサンブルに至るまで、隙のない演技で観客を魅了した。

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

野田作品をよく知る人は「あー、これこれ!」と納得すること間違いなしだし、これが初見という人は、よくわからないうちに脳天を殴られたうえに、謎の感動が残るというような、あまり他所では味わえない観劇体験ができるだろう。

大阪公演は8月13日まで。前売り券は完売しているが、全公演にて当日券が発売される(S席1万2000円ほか、開演60分前より劇場入口にて先着順)。

取材・文/吉永美和子

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』

期間:2023年8月3日(木)〜8月13日(日)
会場:新歌舞伎座(大阪市天王寺区上本町6-5-13 YUFURA6F)
料金:(現在は当日券のみ)S席1万2000円、補助席9000円、2階立見券4500円

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