<社説>健康保険証廃止 延期求める声 受け止めよ

 いったん立ち止まって考えるべきではないか。このままでは医療に深刻な影響を及ぼしかねない。政府は方針転換を先送りしてはならない。 来年秋に健康保険証を廃止しマイナンバーカードと一本化する政府方針について岸田文雄首相は、マイナ保険証を持たない人全員に資格確認書を発行し、その有効期限は5年を超えない期間とする考えを明らかにした。来年秋の保険証廃止方針は当面維持する。

 資格確認書が国民の理解を得られるか疑問だ。既にマイナ保険証利用者の間でトラブルは起きている。解決策にはならないのではないか。

 共同通信が全国の市区町村を対象に実施したアンケートで、現行の健康保険証を来年秋に廃止する政府方針に対し、4割超が延期を求めた。予定通りの廃止を求めたのは3割弱だった。県内では回答した26市町村のうち、保険証廃止の延期を求めたのは14市町村だった。

 この結果は、他人の個人情報とひも付けされるなどのカードのトラブルに対する住民不安を反映したものだ。「国民の理解を得てからにすべきだ」(山形県東根市)など不安払拭を優先すべきだという訴えが多い。高齢化が進む自治体では、保険証廃止は拙速だとの意見も根強い。

 岸田首相、加藤勝信厚生労働相、河野太郎デジタル相、は真摯(しんし)に受け止め、来年秋の保険証廃止を見送るべきだ。

 デジタルに対応できない住民が医療を受けられないような事態が起きかねない。そのことへの対処が不十分であることを市町村現場は実感しているのだ。生命に関わる問題を放置したまま健康保険証廃止を強行すれば重大な災禍を引き起こしてしまう。

 国会内でも保険証廃止の延期を政府に迫る声は強い。7月26日に開かれたマイナンバーに関する参院地方創生・デジタル特別委員会の閉会中審査では、与野党そろって廃止方針の見直しを含め柔軟な対応を政府に求めた。自民党の萩生田光一政調会長も廃止延期を主張している。

 河野デジタル相は「マイナンバーカードと保険証を統一した後も安心して医療を受けられる仕組みをつくり、懸念を払拭したい」と述べた。そう考えるならば、少なくとも来年秋の廃止方針はいったん撤回し、環境を整えるべきである。あるいは保険証廃止の是非を改めて議論し直すべきであろう。

 今年5月、マイナンバーカードと保険証を一体化したマイナ保険証に別人の情報がひも付けされる事態が続出して以来、マイナカードを巡るトラブルは全国で多発している。システム上の根本的な欠陥が疑われる事態だ。

 マイナンバーカード活用は岸田政権が掲げるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の柱とされる。しかし国民が強い不安や不信感を抱いている以上、現在の方針に固執すべきではない。

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