エム・シーシーの人気「100シリーズ」、今度は「100年目の自信」 記念のパッケージ、描かれた人に秘話あり

エム・シーシー食品の「100シリーズ」のパッケージ。新商品「100年目の自信」のシェフの顔には眼鏡もくちひげもない

 今年で創業100年を迎えたエム・シーシー食品(神戸市東灘区)が、新たなレトルトカレーを出した。その名もずばり「100年目の自信」。パッケージで「私たちが考える、今一番おいしいカレー」と宣言し、表には料理人が描かれる。モデルは節目を記念し、すご腕のシェフか、創業者か、社長か-。その正体は、定年退職を来夏に控える一社員という。(大盛周平)

 同社は2001年、レトルトカレーの「100年前のビーフカレー」「100時間かけたビーフカレー」を発売。以来「100シリーズ」として展開してきた。パッケージにはいつも、コック帽に眼鏡、口ひげをたくわえ、大鍋をかき混ぜるシェフのイラストがあった。

 その人は、神戸・旧居留地にあった旧オリエンタルホテルで総料理長を務めた男性。ホテルで受け継いできた味をベースに、先輩や文献にも当たって、明治期のホテルの味を再現した「100年前のカレー」を監修した。

 では、今回のモデルは誰なのか。聞けば100シリーズの生き証人。20年余り前の「100時間かけたビーフカレー」にも計画当初から携わり、商品のレシピづくりや生産工程開発を取り仕切る同社のチーフプロダクトシェフだった。

   ◆ ◇ ◆

 奥川剛史さん(59)。地元神戸市東灘区出身で1986年、レストラン勤務を経て、21歳でアルバイトとして入社した。当初は飲食店での仕事に戻る気だったが「メーカーでありながら料理人が個人の店でつくるような丁寧さで商品をつくっていて衝撃を受けた」。同社にとどまり、20代半ばから商品開発を中心に担ってきた。

 食材やスパイスの選別、炒め方などレシピを採算に合うように、かつ味の質を保つように計算。それらをじか火釜などで蒸気を飛ばしながらじっくり炒めるなど、量産方法にも気を配る。社内で開発を担当する「シェフ」らは、料理人が手鍋でつくる味を出すための工夫をさまざまに講じる。

 奥川さんは、数年前から「今の時代に新しい価値基準をつくるカレーをつくりたい」とレシピを温めていた。そこに会社で創業100年に向けた新商品開発の話が持ち上がり、奥川さんのレシピを具体化することが決まった。

   ◆ ◇ ◆

 そんな奥川さんを、パッケージのモデルに提案したのは、入社4年目の商品開発部員内山祐貴さん(26)だ。シリーズの統一感を保つために料理人を描くことにしたが、今回は関わっていない総料理長をモデルにするのは違う。「工場では自動化が進むけれど、手作業で試作を重ねるシェフこそ会社を支えていく存在だ」。その象徴である奥川さんの起用を推した。

 「恥ずかしい」。提案を聞いた奥川さんは固辞。それでも説得は続いた。奥川さんは、来年7月に迎える定年退職を前に「若い社員が考えたことを実現することで、会社が盛り上がるならば」と決断。役員も「シリーズの生みの親。いい案だ」とゴーサインを出した。

   ◆ ◇ ◆

 うまみを出すための牛のひきすじ肉やタマネギなど材料を厳選。焦げる直前まで炒めて香ばしさを出し、絶妙な量のワインビネガーや黒糖で味に深みを加えた。子牛の骨や肉などソースの素材にもこだわった。試作のパートナーには入社2年目、20代の女性シェフを抜てき。スパイスの配合など2人で鍋に向き合い続け、商品名に負けないカレーにたどり着いた。

 素材にこだわり、手間暇を惜しまず、社の伝統を引き継ぐ若手とともに仕上げた逸品。標準小売価格は756円と、100シリーズの従来品(464円)の1.5倍を超えるが、奥川さんは「今の集大成となるものができた。みんなの力で完成できた」と表情を緩ませた。「でも、どれだけ手にとってもらえるかが全てですけれどね」

 「100年目の自信」は、スーパーなどで販売している。

【エム・シーシー食品】1923(大正12)年、神戸市長田区で「水垣商店」として創業。イワシやいちごジャムなどの缶詰を手がけ始める。54(昭和29)年に現社名に改め、業務用の缶詰や冷凍食品を中心に製造。現在は、100シリーズなどのレトルトカレーや冷凍スープ、パスタソースなど家庭用も展開する。2022年8月期の売上高は131億円、従業員数304人(22年4月時点)。

© 株式会社神戸新聞社