首相会見

 「デジタルはいせん」と聞いて、ああ、そういえば、そんな言葉もあった、と「敗戦」の変換を思いつくのに少し時間がかかった。健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化を巡る国民の“不安払拭”を期して、岸田文雄首相が記者会見に臨んだ▲支援策が行き渡るのに手間がかかり、行政事務が混乱を極めたコロナ禍の“敗戦”の苦い記憶を含め、冒頭の発言は約20分間に及んだ。だが「私からは以上です」と首相の言葉が一段落した瞬間、率直に感じた。え、それだけ?▲事務手続きのミスの「総点検」はまだ途上だ。医療などで「デジタル化のメリットを実感してもらえる実効的な仕組み」は言葉だけが先走りしていて、今は実態がない▲人口減少や医療、介護、子育て支援など、さまざまな課題をデジタルで解決するのだ、と首相は決意を語った。でも、デジタルは道具や方法でしかない。期待があまりにも過大に思える▲首をかしげながらメモを読み返している。誰かの不安が解消されたり、何かの信頼が回復されるための材料があっただろうか。疑問が消えない。何のための会見だったのか▲一つ思いついた仮説は〈6日の広島と9日の長崎がこの話題に終始しないため〉だ。しかし、だからといって、中身の薄さが正当化できるとは思えない。(智)

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