<社説>広島原爆投下78年 首相は核廃絶の道筋示せ

 広島はきょう、人類初の核兵器による無差別大量虐殺である原爆投下から78年を迎えた。ロシアとウクライナの戦争が長引き、核使用の危険性が高まる一方、米中の争いなど新冷戦と言われる世界の分断と対立が深刻化している中で迎えた原爆の日だ。 広島出身の岸田文雄首相は「核兵器のない世界」を掲げつつも米国の「核の傘」に依存し核抑止を肯定する矛盾した姿勢を示している。しかしこの日にこそ、岸田首相は、核兵器の開発や製造、使用、核使用の威嚇を禁じた核禁止条約に言及し、せめてオブザーバー参加から始め、核廃絶への具体的道筋を示す決意を平和記念式典で述べるべきだ。それが唯一の被爆国・日本の使命であり、被爆者の意に沿う姿勢だ。決断を求める。

 5月の広島G7サミットの共同文書「広島ビジョン」には「核廃絶」の文字はなく、被爆者や核兵器禁止条約にも言及がなかった。これに被爆者らが憤ったのは当然だ。

 日本世論調査会が先月まとめた世論調査によると、サミット後に核廃絶の機運が世界で高まるとは「思わない」が71%に上った。理由は「共同文書に具体的な核廃絶への道筋が書かれていないから」が最多の64%を占めた。政府が基本姿勢とする核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」の非核三原則を「堅持すべきだ」との回答が80%に上り、昨年から5ポイント上昇した。

 共同通信が全国の被爆者に実施したアンケートでは、広島ビジョンについて「どちらかといえば」を含む「評価しない」が51.7%を占めた。理由は「核禁条約に言及しなかった」が59.0%、「G7各国の核抑止政策を肯定した」が21.3%と続いた。日本政府への今後の要望は核禁条約への早期参加やオブザーバー参加が70.3%に上った。

 「核なき世界」を「究極の目標」にしながら「核の傘」の下で核抑止を肯定する、今の日本の決定的な矛盾は一刻も早く解消せねばならない。既に世界の核軍縮への動きに水を差しているからだ。

 核禁止条約の諮問機関「科学諮問グループ」の専門委員に推薦された長崎の被爆者が落選した。条約推進国の外交関係者は「日本は核廃絶を訴える被爆者がいる一方で、政府は核抑止力に頼る矛盾を抱えている。当てにできない」と語ったという。被爆国が持つ核の惨禍の知見を生かした貢献は限定的になりそうだ。

 被爆者にも時間がない。4日の原水爆禁止世界大会広島大会で被爆者は核抑止を肯定した広島ビジョンを批判し、平均年齢が85歳を超え「生命の期限が近づいている。核兵器廃絶の道筋を」と訴えた。

 沖縄にとっても人ごとではない。台湾問題を巡り米中が対立する中、核大国同士が衝突する恐れがある。そうなれば沖縄が核兵器の戦場になる可能性がある。広島、長崎と連帯し、核廃絶への機運醸成が喫緊かつ死活的課題だ。

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