“後追い世代”がハマる「必殺シリーズ」の温故知新、再放送ランダム視聴を駆使 春日太一氏ら証言

リアルタイムで体験できなかった世界に魅了された「後追い世代」はあらゆるジャンルに存在するが、その中で、主に1970年代(昭和40年代後半-50年代前半)のテレビ時代劇を追う昭和50年代生まれの40代研究家が台頭している。国民的ドラマとなった『必殺』シリーズ(朝日放送・松竹制作)について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏とライターの高鳥都氏によるトークイベントが都内で開催された。現地に足を運び、話を聞いた。(文中一部敬称略)

春日氏は1977年(昭和52年)生まれ、東京都出身。『天才 勝新太郎』(文春新書)、『時代劇は死なず! 完全版 京都太秦の「職人」たち』(河出文庫)、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文春文庫)など数多くの著書を世に出し、週刊文春での長期連載「木曜邦画劇場」(8月10日号で545回)などで一般読者層にも、その道の第一人者として知られている。

高鳥氏は1980年(昭和55年)生まれ、岡山県出身。実話誌や映画雑誌に独自の切り口の記事を執筆し、昨秋出版した『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』に続き、今春には『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』(ともに立東舎)を刊行。『必殺』シリーズに携わった人たちの証言を幅広く収集した労作として話題を呼んでいる。

その両者が〝激突〟したのは、『必殺大上映 仕掛けて仕損じNIGHTS』と題し、6月中旬から8月19日までの2か月間、都内の名画座「ラピュタ阿佐ヶ谷」と小劇場「ザムザ阿佐谷」で同シリーズをスクリーン上映している企画の一環だった。上映作をセレクトした高鳥氏がホスト、春日氏がゲストとして、7月にザムザ阿佐谷で行われたトークの内容は多岐にわたったが、その中から「現役世代ではない2人がどのようなルートをたどって『必殺』にのめり込んだか」という部分をピックアップする。

春日氏は「まもなく(9月で)46歳になりますが、必殺ファンとしては〝にわか〟です。初期シリーズはほとんど(オンタイムで)観られず、初めて意識的に見たのは『必殺スペシャル・秋 仕事人VSオール江戸警察』(90年)でした。『木枯し紋次郎』(72年)から『必殺仕掛人』(72-73年)、『必殺仕置人』(73年)と観てきた人からすると、僕たちはいびつなルートをたどりながら、気がついたら必殺のスタッフに話を聞く立場になっていた」と切り出した。

両氏の「必殺史」は、テレビの再放送に頼っていたため、必然的に時系列がランダムになる。

春日氏は「テレビ東京の『時代劇アワー』で『おしどり右京捕物車』(74年)の再放送を小学校高学年の時(80年代末期)に赤茶けたフィルムで観た後で、中村主水(藤田まこと)が出ていない必殺シリーズが放送され、(田村高廣主演の)『助け人走る』(73-74年)を観て、最終回での橋の上からのブレーンバスターにビックリしたり、その後の『必殺必中仕事屋稼業』(75年)で(主演の)緒形拳の大ファンになった」と振り返った。

高鳥氏は「BSの再放送が入口でした。小学生低学年で『暗闇仕留人』(74年)を観て、相手の心臓をにぎり潰すとレントゲンと心電図が出るシーンなどを断片的に覚えている。高学年で『必殺仕事人V 風雲竜虎編』(87年)の再放送を観て、南京玉すだれを使った殺し方に興味を持った。さらに中学に入ると『必殺仕事人V』(85年)を週1の再放送で朝5時半から眠い目をこすりながら観た。大学生の姉が住んでいた神戸で『必殺仕置人』の再放送があったので録画を頼んで岡山に送ってもらった。その第1話『いのちを売ってさらし首』に衝撃を受けて、ますますハマっていきました」と原点を語った。

ソフトは高画質で高価なレーザーディスク(LD)を無理して買った。「最初にワンボックス5万円くらいを3つ、計15万円で購入した『新・必殺仕置人』(77年)をはじめ、最後の最後に出て買い足した『必殺仕掛人』などのLDボックスが家の倉庫に山と積んであります。大学生の時に、なけなしの金で買ったから捨てきれなくて」という春日氏。「毎週、リアルタイムで観られた世代の人たちに、僕なんかはうらやましさがすごくある」と思いを吐露したが、そんな後追い世代の〝無念さ〟をエネルギーに変えて昭和の映画史・時代劇を追求している。

13年の夏、『あかんやつら~』刊行を前に、春日氏に単独インタビューした際、「座右の銘」を問うと「温故知新。仕事のスタンスはこの4文字に尽きます」と即答された。その春日氏は、今年11月に「超大作」となる脚本家・橋本忍の評伝を発売すべく動いていると自身のブログで公表した。10年後、再び対面した記者に向け、春日氏は「(新作に)勝負、かけてますから!」と力を込めた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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