<書評>『琉球列島における 芭蕉布文化の起源を探る』 芭蕉布の研究成果を結集

 著者は琉球の芭蕉布の起源について研究しているが、本書は現時点での研究成果がまとめられている。本書は研究へのアプローチとしては「文化人類学」に近い民俗学といったらよいだろうか。幾つかの研究領域をまたがったような印象を受ける書であるが、それは芭蕉布という「もの」研究の難しさを示しているからであろう。

 各章についてそれぞれ要点をまとめると、「第1章 序論」はいわば助走の章で、糸芭蕉とは何かについて、学名・植物的特徴・琉球の糸芭蕉のルーツ・糸芭蕉生産の過程という視点から論じている。「第2章 文献史料に見る琉球列島の芭蕉布」では、苧麻(ちょま)との比較や製織の歴史をさかのぼり、糸芭蕉について記した近世琉球や中国の文献史料をまとめ、また庶民にとっての芭蕉布について言及している。ちなみに琉球糸芭蕉は学名では「ムサ・バルビシアーナ・ヴァル・リューキューエンシス」というらしい。次のステップの「第3章 バショウ類の繊維を使った他地域の織物文化」では、フィリピンや南洋群島・台湾などの芭蕉織物、また「第4章 中国史料に見る蕉布文化」では中国の芭蕉織物についてそれぞれ報告し、第1~4章の論考を総集して「第5章 歴史から見る芭蕉布文化の起源」で琉球の芭蕉布について総括している。

 以上が各章の要点であるが、要点を列挙しただけでも琉球の芭蕉布の起源を探求する研究が一筋縄ではいかないことを理解いただけるだろう。これは著者の参考として用いた文献を概観することでも推測できる。本書は外書・中国の古文献・日本の古文書など、「糸芭蕉」をキーワードに世界各地のさまざまな史資料を取り上げ、おのおののテーマと格闘しながら完成させた書である。また、さまざまな難問に取り組み、ついに一冊の書として完結させたことには、頭が下がる。その芭蕉布に対する熱量(あるいは愛と言うべきか)は疑念を挟む余地はない。その熱量をもって、研究のさらなる探求を期待する。

 (久貝典子・沖縄県立芸術大芸術文化研究所共同研究員)
 カトリーヌ・ヘンドリックス 1964年ベルギー生まれ、琉球大外国人客員研究員。2016年芭蕉布WEB資料館開設。
 

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