<書評>『沖縄戦幻想小説集 夢幻王国』 戦争のむごさを余韻深く

 芥川賞作家又吉栄喜が約1年ぶりに刊行した作品集で、「全滅の家」「兵の踊り」「平和バトンリレー」「夢幻王国」「経塚橋奇談」「二千人の救助者」の、短編、掌編、6編を収載している。

 いずれも沖縄戦がテーマで、生者と死者が往来し戦争を見つめ、生と死を見つめる。昨今の時世への危機感が創作を後押ししたという。4編が書き下ろしであることからも、作者の当書への思いの深さが推量される。

 戦争が人々に及ぼすむごさ、登場人物たちの心の痛みが作品の幻想的なストーリーと相まって深く余韻の残る作品群だ。本当の平和とはなにか、読者の多くも心が揺さぶられるであろう。

 表題作の「夢幻王国」。先祖は琉球王国の踊り奉行だったという「尚子」が主人公である。沖縄戦で母とともに、ガマからガマへ逃げ回るうち自決を覚悟し、気づくと左足のくるぶしから下を失っていた。ここから尚子は生者のようにも死者のようにも描かれる。母の消息を求めてたどり着いた浦和集落で、琉球王国を愛し復興の幻想を抱く人々に出会う。尚子はいつの間にか、琉球処分の頃の王家の人となり、薩摩の侵略を受けたころの人ともなる。時空を越えた物語の後半に、山上の墓へ向かう尚子の道々はまさに幻想的である。自分自身が死出の道を歩んでいるような、あるいは、死後にはこのようなことが起こるのだという不思議な感覚に陥る。

 「全滅の家」の主人公の「僧」は小柄なため、立派な軍人になるという同世代の仲間たちを尻目に、「本物の生」を見極めるための修業を始める。多くの苦難の末の昭和26年、白いワンピースの不思議な少女に出会い、少女から一家全滅した家の七回忌法要の依頼を受ける。原野の中の家で供養のための読経をする僧。やがて僧のひたむきな思いが不思議な光景を生み出す。

 「兵の踊り」。戦争に行く和夫と行かない僕。戦後、「僕」はエイサー隊でチョンダラーを踊るが、周りで踊る全員が白塗りで、戦死した和夫たちのようでもある。卓越した語り部又吉栄喜が渾身(こんしん)の力をふるって書き上げた一冊である。

 (長嶺幸子・詩人)
 またよし・えいき 1947年浦添市生まれ、作家。76年「カーニバル闘牛大会」で琉球新報短編小説賞、96年「豚の報い」で芥川賞受賞。著書に「巡査の首」「ジョージが射殺した猪」「亀岩奇談」など。

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