劇団四季「エルコスの祈り」上演中 『一番美しいのは、許す気持ち』

自由劇場で劇団四季「エルコスの祈り」が上演中だ。
1984年に日生名作劇場“こどものためのミュージカルプレイ”として初演されて以来、全国各地で愛されてきた『エルコスの祈り』(『エルリック・コスモスの239時間』)。なお、配信も予定されている。詳細は公式サイトで。

親や先生に見放され、夢や個性を奪われたユートピア学園の生徒たちのもとに、“心”を持つロボット、エルコスがやってくるところから物語が動き出す。
出だしはタイムマシーン、一人の男性が走って登場、「ユートピア学園は行きますか?」この男性はセールスマン、ユートピア学園にあるロボットを売り込みに行くところ。そのロボットは普通のロボットではない。教育型ロボット『CPΣ・081・1型ESPアンドロイドエスパーロボット/エルリック・コスモス(通称エルコス)』。“心”を持つロボットなのだ。
そして学園の様子が描かれる。ゼッケンをつけた子供達、表情に乏しい。ここの教育者であるダニエラ、パルタ、ダーリーは子供達を規律で縛り、夢や希望を持つことは無意味と教えている。3人は「大切なのは服従」と歌い、子供たちは「(自分たちは)オチコボレ」と歌う。

ここにきた子供たちの理由はさまざま。この作品、初演は1984年だが、この”理由”が現代に合わせてUP TO DATE、『ネット』という言葉も。ここの理事長はお金第一、経費はかけたくない、学園名『ユートピア』とはほど遠い。そこへくだんのセールスマンがやってきてエルコスをプッシュ。なんでもできるとアピール、アピール。カントリー調の曲がSFっぽくなくホッとするメロディ。万能な上に、240時間に一度、FZIという最新のバイオエネルギーを補給すればよいというところに惹かれ、理事長はエルコスを”導入”することに。ただし、汚染されたエネルギーを補給するとエルコスは気化してしまうという。このロボットの開発者・ストーン博士は子供たちのことを想い、エルコスを開発した。エルコスが来たことで子供たちに本来の個性や笑顔が戻ってきた。心を閉ざしてしまった生徒たち一人ひとりに優しく語りかけ、個性を見出そうとするエルコス。理事長も彼女にぞっこん。面白くないのはダニエラ、パルタ、ダーリーの3人の教師。リストラされる?!かもしれない…、エルコスさえいなければ、と考える。一方、生徒たちの中でジョンだけが馴染めないでいた。幼い時に母親が他界、ずっとロボットに育てられてきたせいでロボットを信じなくなり、心を閉ざし、エルコスにも酷い言葉を浴びせる。そんな状況を知った3人は…というのが大体の流れ。

子供たちが観劇しやすい上演時間(約2時間、15分の休憩含む)でテンポ良く見せる。キャッチーで多彩な楽曲、作曲家は鈴木邦彦、昭和のヒットソングを多数てがけ、日本人なら誰もが知ってる『NHKのど自慢』(1970年4月 – )の曲も手がけている。ダンスはジャズダンスをベースにした振り付けでフォーメーションで物語をより立体的に見せる。また、教師3人のメイク、彼らだけが白塗りでクラウン風、ヒール役だが、コメディ部分も担う。発言も面白かしいが、どこかシニカルで皮肉めいた感じで物語のアクセントとなっている。子供たちは最初は制服姿で背中にはゼッケン、無表情、コリオも無機質な動きを多用。それがエルコスの教育で好きな服装をし、笑顔で伸び伸びと。ジョンも個性的な衣装だが、表情は暗い。このジョンの服と表情の落差でジョンの心模様を表現。エルコスは白い衣装、無垢で純粋、何物にも染まらないピュアなエルコス。それに対して教師たちの衣装は黒を基調に、真逆な存在。子供たちだけでなく理事長まで表情が輝く。2幕で”事件”が起こり、落ち着くところに落ち着く。ちょっと”涙”なところもあるが、エルコスは自分の使命を果たし、子供たち、いや大人までもが前を向いて生きようと決意する。『人間の心にあるものの中で一番美しいのは、許す気持ち』とエルコスは皆に言う。
子供だけでなく大人にも十分に響く内容、劇団四季は半世紀以上にわたり「命の大切さ」、「愛と勇気の尊さ」、そして「友情と連帯の喜び」など、生きる上で大切なことをメッセージに織り込んだ作品を上演。

初日に観劇したが、子供から大人まで幅広い世代の観客が客席を埋め尽くし、カーテンコールも複数、最後は総立ちで大きな拍手。公演は9月2日まで。

あらすじ
学校や親からオチコボレ・問題児と決めつけられた子どもたちが集められたユートピア学園。

ここの教育とは、きびしい管理、命令・規律に従わせ、子どもたちの夢や個性を奪うものでした。暗く閉ざされた毎日を送っていた子どもたちのもとへ、一台のロボットがやってきます。 その名は「エルリック・コスモス」通称“エルコス”。

「どんな時代にも、どんなことに出会っても、決してほほえみを忘れずに、豊かな心を持って生きていける人間になってほしい」科学者ストーン博士が願いを込めて人間の女の子そっくりに作りだした、アンドロイド・エスパー(スーパーロボット)です。

子どもたちひとりひとりの持っている豊かな個性を引き出していくエルコスに、皆は次第に心を開くようになっていきます。

しかし、小さい頃から機械に囲まれて育ったジョンは機械を憎んでいて、エルコスを認めようとしません。そんな彼を、エルコスは理解し、勇気づけようとしますが、ジョンははねつけてしまいます。

一方、エルコスが学園にきてからさんざんな目にあっていた学園の教師たちは、エルコスをやっつけるためにジョンを利用することをたくらみます。

教師たちにおどされたジョンはエルコスを呼び出します。
果たしてエルコスの祈りは、みんなの心に届くのでしょうか……。

概要
日程・会場:2023年8月5日〜9月2日 自由劇場
全国公演あり。
原作:梶賀千鶴子(『エルリック・コスモスの239時間』より)
構成・演出:浅利慶太
予約方法:SHIKI ON-LINE TICKET http://489444.com(24時間受付)
問合せ:0570-008-110

公式サイト:https://www.shiki.jp/applause/elcos/

撮影:樋口隆宏

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