【池上解説】広島・平和記念式典「平和宣言」を分析

【池上解説】広島・平和記念式典「平和宣言」を分析

平和記念式典での挨拶で岸田首相は、ロシアを名指しして、核による威嚇を批判しました。また、G7広島サミットで発表した『広島ビジョン』についても触れ、核軍縮の進展に向けた国際社会の機運を高めることができたと成果も語っていましたね。

■池上彰さん

今こそ核軍縮への進展向けた後、国際社会の機運を高めることが大切だと前段で言っておいて、そしてこのサミットで、それを高めることができたという形で、実績を誇ったということですね。

一方で、広島市の松井市長は平和宣言で、核抑止論からの脱却を訴えましたね。

■池上彰さん

核抑止論というのは改めて言いますと、核兵器を持つことで、相手からの攻撃を受けないようにするという考え方ですね。平和宣言では、こういう言葉がありました。『核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、世界中の指導者は核抑止論を破綻しているということを直視し』てほしいということですね。

かなり直接的な表現ですね。

■池上彰さん

そうですね。いや、核抑止論と言ってるけど、でも核による威嚇を行うものがいるって事は、破綻しているんだという、こういう論理になるわけですよね。核兵器を互いが持つことで使えない状態が続くはずが、今ロシアが使うのではないかと言って恐怖が広がってる。だから、抑止論は成り立たないというわけですね。実は、サミットの広島ビジョンでは、この核抑止論を肯定する内容が含まれていました。何でそれを入れなければいけなかったのかと、被爆者などから批判の声も出ていたというわけですね。ですので、この平和宣言で、ぜひその核抑止論を否定してほしいという要望が出されていた。その上での、この平和宣言ということですね。

要望に応えた形になりましたね。また、インドのガンジーの言葉が紹介されたのも印象的でした。

■池上彰さん

インド独立の父と知られるガンジーが、突然出てきたのかなと思うかもしれませんけれど、これもサミットが関係していますよね。サミットには、招待国としてインドのモディ首相が出席しています。それに合わせて、平和公園のそばに、インドの寄贈により、ガンジーの像が設置されたんですね。セレモニーにはモディ首相も出席しました。ガンジーは非暴力を提唱した人です。平和宣言では、今の戦争を終わらせるために、平和の文化を広める必要があると訴えました。インドも核保有国だということを意識してでの発言だろうと思いますね。

そして、日本政府に対しては、核兵器禁止条約の締約国になること。さらに今年11月に2回目となる締約国会議があるわけなんですけれども、そこにオブザーバーとして参加をすることを求めましたね。

■池上彰さん

「岸田首相の挨拶では、核兵器のない世界の実現は、核軍縮をめぐる国際社会の分断、あるいはロシアによる核の威嚇などによって、道のりが厳しくなっているという言葉がありました。だったら禁止条約にも参加してほしいという、そういう思いだということですね。オブザーバーとして参加してほしいという主張の言葉がありました。被爆国としての日本の姿勢が問われることになると思います。」

同じG7のドイツは、第1回締約国会議にオブザーバー参加しましたよね。

■池上彰さん

日本にしてみれば、核の傘に入っているから、なかなか参加しづらいという思いがあるかもしれないですけど、よその国は核の傘に入ってても、オブザーバーとして出てるじゃないか、というそういう声もありますよね。

やはり、唯一の被爆国だからこそ日本が参加する。これがまた、その核兵器廃絶への機運を高めることにつながるという期待があるわけですよね。

■池上彰さん

そうですね。

【つなぐヒロシマ 2023年8月6日放送】

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