【動画】「池上彰さんが聞く」埋もれた事実を明らかに アメリカの資料を入手した研究者
原爆資料館は、サミットで首脳たちが訪れるなど、被爆の実相を知る上で貴重な場となっていますが、今私たちが知っている原爆に関する情報は、戦後少しずつ明らかにされていったものです。長年アメリカに足を運び、原爆に関する当時の機密文書を調べている男性がいます。その男性に、池上さんが話を聞きました。
池上さんが訪ねたのは工藤洋三さん、73歳。長年、アメリカに渡り、原爆などに関する資料を入手してきました。
■工藤洋三さん
「これはちょっと印象的なファイルなんですけどね。8月4日付けになってますからね。原爆を落とす前から計画で8時15分に広島に投下すると決めて、そして、その通りに8時15分に落ちた。」
記されているのは『トップシークレット』の文字。かつては機密情報だった資料です。
■池上彰さん
「機密解除したものだからみせてもいいですよ、ということですよね。」
■工藤洋三さん
「機密のそういうものは全て(トップシークレットの文字を)消せという。」
工藤さんは、1994年からアメリカを訪れ、軍の施設や国立公文書館で資料を集めてきました。そこから見えてきたことのひとつが、原爆を落とす都市が選ばれていく過程です。
■工藤洋三さん
「これはそのリザーブドエリア要するに予約された地域。原爆のために予約したんだということを伝えるわけですよ。」
5月15日。陸軍航空軍の最高司令官が広島と京都、新潟への攻撃禁止を命じました。原爆を投下するため、軍が独自に都市の候補を選んでいたことを示しています。
■工藤洋三さん
「5月15日という日付は、まだ別の目標検討委員会というのがどこに落とすというのを、一生懸命議論している時期なんですよ。その時期に陸軍航空軍、要するにB29部隊がちゃんと決めるんですよ、候補を。」
そして、実際に目標選定委員会は、軍の意向を追認する形で5月28日時点では、この3つの都市を候補地としました。
原爆資料館にも工藤さんが手に入れた資料が展示されています。原爆の開発や広島に投下された経緯を説明するコーナーにある一枚の航空写真。アメリカが街のどこに原爆を落とそうとしたのかを示す貴重な資料です。まわりに付けられた目盛り。そして、原爆の投下を命じた文書には、ある数字が示されていました。
■工藤洋三さん
「ここにエイミングポイント(照準点)ってのがあって。063096をねらえって書いてあるんですね。それが相生橋のこと。」
照準点が示された航空写真は、工藤さんが30年ほど前に見つけました。縦の座標が63、横が96。2つの線が交わる点が投下目標となった「相生橋」です。
■原爆資料館 落葉裕信 学芸係長
「この写真があるから、実際に、まさに街の中心都市を目標として、原爆を投下したことを示す資料になります。」
工藤さんのもとを訪れた池上さんは、気になる資料を見つけました。
■池上彰さん
「膨大なファイルがありますね。これは何ですか?」
■工藤洋三さん
「これは『テニアンファイル』と俗に言われてるんですけど。」
太平洋に浮かぶテニアン島。原爆投下部隊の拠点が置かれ、広島・長崎に原爆を落とした爆撃機はこの島から飛び立ちました。
工藤さんが集めたのは、軍の司令部があるワシントンとテニアンの基地で交わされた電文の記録です。そこからは原爆を管理していた科学者たちの姿が浮かび上がってきました。
■工藤洋三さん
「ノーマン・ラムジーっていうんですけど、これはノーベル物理学賞をもらった人。これはアルバレスっていう人なんですけど、これもノーベル賞をもらった。ノーベル賞をもらった人が3人いるんですよ。」
■池上彰さん
「なるほど、そうか。テニアンに来てたんですね。」
■工藤洋三さん
「当時としては、第一級の科学者たちが現場(テニアン)に来て、いろいろ仕事をしてた。」
科学者たちによる徹底した管理のもと、テニアン島では原爆投下に向けた訓練や準備が進められていきました。
■池上彰さん
「徐々に広島への投下に向けて、いろんなやりとりをしながら進んでいくんだなというのがわかりますよね。」
そして、8月6日。広島に原爆が投下されました。その翌日の通信記録です。原爆が期待以上の威力を発揮したとして現地の司令官や科学者らが、次の目標を東京にするよう、軍の司令部に進言しました。
■工藤洋三さん
「ワシントンの司令部は、そんなに甘くなくて。そんなことはお前さんたちが考えることではないと。当面は方針を持続するんだと。跳ね返すとか
いろんなやりとりがある。」
■池上彰さん
「そのとき本当に、それで東京に落ちたら歴史が変わってましたよね。」
工藤さんは原爆の被害とともに、投下に至るまでの事実をもっと掘り下げることも重要と考えています。
■池上彰さん
「結果は私たちはわかっている。8月6日に何が起きたのか。そこに向かって、暗号でやりとりが進んでいく。少しずつ調べていって、いろんなことが分かってくるのは、どんな気持ちだった?」
■工藤洋三さん
「悲惨な結果と結びついているわけで、非常に複雑ですよね。歴史に埋もれていた部分を発掘して、そこに光を当てるというんですかね。自分の住んでいるまわりに起こったことを再認識する。そういう意味は大きいのではと思う。」
【つなぐヒロシマ 2023年8月6日放送】