雨のミシュラン炸裂でNiterra Zが今季初優勝。豪雨あり、SCあり、赤旗ありでチェッカー後も荒れる【GT500決勝レポート】

 前日までの酷暑から一転、不安定な空模様に翻弄された2023年スーパーGT第4戦、富士スピードウェイでのGT500クラス決勝450kmは、セーフティカー(SC)先導スタートや赤旗中断を経て、最終盤のレインバトルを制した3号車Niterra MOTUL Zの千代勝正/高星明誠組が、厳しいハンデ条件を跳ね返して今季初優勝。参戦最終年となるミシュランタイヤの雨中での強さを、ふたたび証明するレースとなった。

 世界的な異常気象による記録的猛暑の続くなか、第3戦鈴鹿から約2カ月ぶりのシリーズ再開となった8月最初の週末は、いつもどおり土曜からノックアウト方式の予選が実施され、24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zが今季初ポールポジションを獲得。前戦でも“予選最速”としていたKONDO RACINGにとっては、セッション後の車検結果により、まさかの最後尾スタートへ回されていた”悪夢の記憶”を払拭する快走となった。

 その背後、フロントロウと2列目3番手には16号車、8号車のARTA MUGEN NSX-GT陣営が続き、戦績に応じて課されるサクセスウエイト(SW)が比較的軽量な車両がトップ3を占めたが、驚くべきは58kgを搭載して燃料流量リストリクターの1ランクダウン領域に入っている3号車Niterra MOTUL Zが4番手につけたこと。パワーが絞られた状況ながらもグリッド上位につけたことで、義務付けられた2回の給油を軸としたピット戦略にも自由度が生まれることとなった。

 通常の450km戦でも、レースを通じたタイヤのライフ管理や交換戦略、各回の燃料給油の量など考慮すべき項目は多岐に渉るが、決勝日は午前のサポートレースからすでにトラック上で急な雨が観測されるなど、天候と雨量という波乱要素もプラスされる。いつ、どこで、どれだけの量が降るのか。各陣営の考え方と判断、作業の迅速さと確実性も求められる難しい勝負となる。

 正午を過ぎ12時15分より実施された20分間のウォームアップでは、雨こそ上がったものの、路面はウエットコンディションでの走行に。終盤はレコードラインを中心にドライへと変化したが、混乱なく終えて全15台がグリッドへ向かう。

 今季限りで引退を表明した立川祐路のセレモニーでは、富士の上空からも別れを惜しむ涙雨が降り始め、気温も27度、路面温度は33度のコンディションとなる。そして午後13時45分のパレード&フォーメーションラップ開始直前には、路面の状況変化を鑑みてセーフティカー(SC)スタートが宣言される。

 グリッド上で全車レインタイヤを装着した隊列がゆっくり動き出すと、2周目を終えたところでSCがピットロードへ。3周目の1コーナーへ向けグリップの判断が難しいブレーキング勝負になるも、良好な視界を活かした24号車リアライズの佐々木大樹がダッシュを決め、悠々のマージンを築いてクリアしていく。

 すると早速の“オーバーテイクショー”を披露したのが4番手発進の3号車Niterraの千代勝正で、ここから定評あるミシュラン製ウエットタイヤの性能も活かしてダンロップコーナーで8号車を、そのままセクター3で抜群のトラクションを発揮して16号車をも捉え、2番手でホームストレートに戻ってくる。さらに続くラップではヨコハマタイヤを装着した24号車にも急接近し、前周を再現するかのようにダンロップコーナーで前へ。早くも首位浮上に成功する。

 背後では対照的に8号車のペースが伸びず、陣営内の17号車Astemo NSX-GT、100号車STANLEY NSX-GTに先を譲る格好に。一方、モノコック交換のペナルティである5秒ストップを消化するため、23号車MOTUL AUTECH Zの松田次生が6周目でピットレーンへと向かう。

 10周目を前にコース上はドライ方向へと状況が改善するなか、4番手に浮上していた17号車Astemo松下信治に「スタート手順違反」のペナルティ裁定が降り、まさかのドライブスルー。一方で、同じ11周目にはポールシッターの24号車がいち早くスリックへの換装を決断。続く12周目以降には中段勢も続々とドライタイヤへの交換でピットへ戻ってくる。

 その間も逃げを打っていた首位の3号車は1分37秒台ペース。しかし15周目にスリックへの交換に飛び込んだ周回では、16号車が1分33秒台のファステストを記録するなど、やはりコンディション改善が著しく3号車の千代は復帰時点で実質4番手まで後退してしまう。

2023スーパーGT第4戦富士 Niterra MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)

 続くラップで23号車が2回目、タイヤ交換としては最初のピット作業を終え、これでGT500全車がスリックに。17周目からは14号車ENEOS X PRIME GR Supraの大嶋和也が1分31秒台連発、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraの関口雄飛も1分30秒台に入るなど、さらにファステストを更新していく。

 16号車ARTA MUGEN福住仁嶺を14号車ENEOS X PRIME大嶋と39号車DENSO KOBELCO関口が追う展開で20周目に突入すると、23周目の最終コーナーで一気にNSX-GTとの距離を詰めた大嶋が、そのままサイド・バイ・サイドで1.5kmのホームストレートを並走。続く24周目の1コーナーでインを奪い、ここでSW42kg搭載の14号車が首位に立つ。

 決勝100周の3分の1となる33周を終えドライバー交代のウインドウが開くも、ウエットからの交換時に給油も済ませていることから、各陣営ともミニマムでの動きはなし。しかし直後の35周目にはGT300クラスの車両で火災が発生し、すぐさまSCが導入される。

 これで首位攻防は41周突入から仕切り直しとなるも、14号車の背後にはバックマーカーとして23号車が挟まる並びとなり、実質1コーナーでの勝負はおあずけ。2番手の16号車福住は背後の39号車関口のケアを強いられる。すると42周目のスリップ勝負で狙い澄ました関口がNSXを攻略。ここでGRスープラがワン・ツー体制を築く。

 すると先頭走者の14号車大嶋が折り返し手前となる47周目に真っ先に動き、フルサービスの静止時間40.7秒で山下健太へとスイッチ。これに反応した39号車も続くラップで中山雄一に交代し、ここでは49.1秒と少し長めの静止時間でピットを後にする。

 最終スティントの燃費を考慮しても、レース距離半分の50周を過ぎて以降、各陣営がどのタイミングでドライバー交代へ向かうかも注目されるなか、首位2台のルーティン作業で一時は3番手まで浮上した1号車MARELLI IMPUL Zがペースダウンし、8号車ARTA、37号車Deloitte TOM’S GR Supraに一気に先行される。

 空にふたたびの雲が広がり始めるなか、54周目の1号車を皮切りにここから本格的にルーティン作業が始まると、トップ5圏内を争う100号車STANLEYとタイミングを合わせた38号車は、富士ラストランを終えた立川から石浦宏明へスイッチした際、わずかに作業ミスでタイムロスを喫してしまう。

 60周を終えて全車のピットが一巡すると、先行した14号車山下、39号車中山がワン・ツーを堅持し、37号車Deloitte TOM’Sのジュリアーノ・アレジが3番手へ浮上。トヨタ陣営がポディウム圏内を占拠する展開に。

 以降、計算上50周を超えるラストスティントが可能なのか。首位2台の戦略が焦点になるなか、66周目の13コーナー手前でふたたびGT300クラス車両が炎上するアクシデントが発生。すぐさまこの日3回目のSC導入が宣言され、さらに消火活動が難航するほどの火災に発展し、午後15時40分を回ったところでレースは赤旗中断となる。

 当初は約30分後の再開予定だったものの、サスペンド中の雷雨により2度ディレイされ16時30分にSC先導で再開されると、待機中のグリッドでウエットタイヤへの交換が許可されたなか、ふたたびウォータースクリーンを巻き上げての走行に。

 ホームストレートでクラス別の隊列整理を経て、レース最大延長時間の17時30分に向け72周突入時点で再開されると、やはり雨量の多い状況はミシュラン有利か。4番手でリスタートした3号車Niterra高星明誠が無双状態に突入。

 素早く37号車を仕留めると、73周目の最終セクターから74周目の100Rまで並走して39号車DENSOをかわして2番手に上がると、そのままセクター3で首位14号車をロックオン。続く75周目のターン1で鮮やかなオーバーテイク。75周目にはそのギャップを約3秒まで広げる驚異的な速さで、みるみると逃げていく。

 一方、4番手を行く37号車の背後にはARTA艦隊が迫り、39号車を含めた4台での表彰台争いに発展。最終コーナーから速度を乗せきれなかった39号車中山に対し、80周目突入の1コーナーではアレジが先行。ウエットのグリップが苦しいか、ペースの上がらない中山に対しては、100Rで近づき過ぎた8号車の野尻が一旦下がったものの81周目には逆転に成功して前へ出る。

 しかし、16号車とともに表彰台圏内に進出した84周目。最終コーナー立ち上がりで僅かにワイドになったその8号車野尻もコントロールを失いスピン。ここで事実上、上位入賞の権利を失ってしまう。一方、同じ周回には2番手にいた14号車の山下がやはり燃料が持たないか、ピットへ向かうと同時にスリック装着のギャンブルに出る。

 これで首位の3号車に対して2番手は16号車の大津弘樹と変わり、88周目には37号車を攻略した17号車Astemo塚越広大が浮上してくる。さらに89周目には38号車ZENTの石浦宏明がアレジをパスし4番手とする。

 残り時間もわずかとなった93周目には、39号車も力尽き給油のためピットへ。ここではウエットタイヤを選択して戻ると、一方のコース上では100号車STANLEYの山本尚貴が路面状況とタイヤの条件をピタリと合わせたかのように奮起。64号車の太田格之進を、続く周回では38号車ZENTの石浦と、17号車塚越を立て続けにオーバーテイクし、いきなり表彰台圏内に顔を出してくる。

 同じ車種、同じ銘柄のウエットを履いても、ペースの上がる車両と上げられない車両が交錯するなか、悠々のクルージングなった3号車が最大延長時間と同時の100ラップを走破し、大逆転での今季初優勝を達成。シリーズランキングでもトップに浮上した。

 45秒差の2位には16号車の大津、さらには100号車の山本が3位でチェッカーを受けた。しかし、16号車と100号車の2台はその後の正式結果で『給油中のタイヤ交換』違反となり40秒加算ペナルティが科された。この結果、2位には伊沢拓也/太田格之進組の64号車Modulo NSX-GTが繰り上がり、16号車が3位というトップ3になっている。

2023スーパーGT第4戦富士 GT500クラスを制した千代勝正と高星明誠(Niterra MOTUL Z)

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