[知りたい聞きたい伝えたい]#女性の新規就農 課題は?

「経営=男」価値観 壁に 新たな経営モデルが必要 女性の新規就農ってあまり聞かないな――。ふと思って新規参入で就農した女性を訪ねてみると、想像以上に狭き門だった。資金などの問題に加え、「経営主は男性」との価値観が女性の新規参入を遠ざけていると、専門家は指摘する。疲弊する農村を男女関係なく支えていくためには避けて通れない課題だ。

「雇用就農ではなく自分で経営がしたかった。どんな品目なら自分一人でできるか、大学在学中からずっと考えていた」。就農への熱意をこう振り返るのは、2021年に北海道石狩市でミニトマトで就農した廣井佳蓮さん(26)だ。

ミニトマトで念願の農業経営を始めた廣井さん(北海道石狩市で) パート2人を雇い、合計20アールのハウス6棟で経営。JAいしかりを通じて市場出荷する。3年で徐々に規模拡大し、売上高は21年度の500万円から、23年度見込みで約1000万円になった。30アールまで拡大するのが当面の目標だ。

「これから融資の返済も始まるけど、生活はしっかりやっていけそう。農家を50年続けるのが目標」と、ほほ笑む。

研修先探し奔走

ただ、就農までの道は簡単ではなかった。廣井さんは新潟県出身で、農業に憧れ、農業系の酪農学園大学(北海道江別市)に進学。在学中に各地の就農研修を打診したが「準備資金が足りないとか、研修は夫婦前提だとかで、話が一向に進まなかった」と明かす。

やっとたどり着いたのが、石狩市やJAいしかりなどでつくる石狩市農業総合支援センターの研修だった。資金が乏しいこと、独身であることなどは制限とならず、正式な研修にこぎ着けた。

大学卒業後、市内の農家や座学で2年間研修した後、収益性が高いミニトマトで就農。センターの助けで、国の就農支援金なども適切に活用している。センターの研修制度は15年に確立し、これまで7人が就農。うち女性は廣井さんを含め3人おり、皆担い手として活躍している。

センター長を務めるJAの輪島厚司担当課長は「大切なのはやる気。その代わり、相当な本気でないと駄目」と強調する。女性の新規就農者が増えたことで「加工や6次産業化の事業をする女性もいて、産地が新しい取り組みで盛り上がっている」としている。

経営主参入1割

福島大学の岩崎教授 福島大学行政政策学類の岩崎由美子教授は「農業経営は機械作業が多いことから男性中心になりがち。女性が経営する発想になりにくく、その無意識の思い込みが農村にはある」と指摘する。

一方で、「少子高齢化が止まらない中、女性が農村で働き、とどまってくれる新規就農には大きなメリットがある」と強調。無意識の思い込みの克服や女性が就農しやすい経営モデルの構築などを提案する。

農水省のまとめによると、直近21年に、土地を取得するなどして経営責任者として農業参入した人は3440人。このうち男性は2970人、女性は470人。経営主として新規参入する人のうち、女性の数は1割程度にとどまっている。49歳以下の若い世代の割合が多い。

近年、雇用就農など新たな就農形態が増えてきたが、自ら経営内容を決める経営主にこだわる人は多い。全国農業会議所が21年度にまとめた新規就農者の実態調査によると、就農の理由として「自ら経営の采配を振れるから」と答えた人は51・6%と最多。「やり方次第でもうかるから」も35・2%と根強かった。

取材後記

機械作業の存在が「農業経営=男性」の思い込みをつくり出した、との岩崎教授の指摘にはなるほどと思った。今でも家族の中で、機械作業を男性の仕事としている農家は多いだろう。

ただ近年は、トラクターの自動操舵(そうだ)や直進アシストといったスマート農機が普及し、苦手な人でも機械作業をしやすくなった。施設園芸では、側窓の自動開閉など、省力機器が普及。空いた時間を他の営農やプライベートなど、有効に使える環境が整ってきた。技術革新も農業の男女共同参画にぜひ役立ってほしいと思っている。 石川大輔

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