「熱中症」緊急搬送の約40%が“住居”…もしテレワーク中に“発症”したら「労災」は認められる?

全国で連日35度を超える猛暑日が記録されている(Flatpit/PIXTA より)

とにかく“暑い”今年の夏。大阪・枚方市では7月27日午後1時50分、全国での今夏最高気温となる39.8度を計測。 消防庁の速報によれば、7月中(~30日まで)の熱中症による救急搬送人員は、全国で3万4084人に上った。

めまいやほてり、吐き気、筋肉のけいれんなどが起こる熱中症は、涼しい場所で適切に休めば回復することも多い。しかし熱中症にともなう脱水症により、脳神経に障害が生じることがあり、後遺症に悩まされる例や死亡例もある。

屋内にいれば熱中症の危険がないかというと、そうではない。熱中症による緊急搬送のうち、約40%は「住居」で発症していることが消防庁の発表からわかっている。

新型コロナ感染症以降、空調が整備されているオフィスではなく、自宅で業務を行う「テレワーク」で仕事をしている人も増えているのではないだろうか。自分の体調に合わせエアコンの温度などを好きに設定できる一方、当然光熱費は自分持ちだ。

今年5月に実施されたパナソニックによる調査によれば、昨今の光熱費の高騰から「節電のために冷房の利用をガマンしようと思う」人が4割を超えたという。

オフィスでの業務中や外回りなどの営業中、通勤中に熱中症になってしまった場合、労災認定されるケースは多い。しかし、もし自宅でのテレワーク中に熱中症になってしまった場合、労災は認定されるのだろうか。

テレワーク中の「熱中症」労災認定へのポイント

労働問題に注力する勝又賢吾弁護士によれば、「労災認定される可能性はある」という。

しかし、テレワーク中の熱中症は、すべてのケースで労災認定されるわけではない。労災認定には、事業者の管理下にあるという「業務遂行性」と、そのためにケガなどを負ったという「業務起因性」がポイントになる。

「熱中症の症状が出てしまったのが、会社の指示に基づいてテレワークをしている間で、テレワークのせいで熱中症になったと言えるのかを検討することになろうかと思います」(勝又弁護士)

具体的に、どのようなケースが労災として認定されやすいのか。勝又弁護士は、個別の状況によるため一概には言えないと前置きしつつ、より認定されやすいケースを以下に挙げる。

①作業内容がパソコンでの軽作業の場合よりも、重たい部品を組み合わせて製品を完成させるというような肉体労働の方が認められやすい。

②作業時間が短く、1日の中でいつ作業をしても良いという仕事よりも、始業と終業時刻が決められていて、ZOOM等でチェックされているなど拘束時間が長い仕事の方が認められやすい。

③自宅光熱費等の手当が出されているような場合よりも、会社に指定された簡易なプレハブ等で、クーラー等の設備も十分整えられていない場所が勤務場所として指定されている場合の方が認められやすい。

「熱中症というのは、後遺症をもたらしてしまうような重大なものは別として、骨折するなどケガをした場合と違い、『熱中症になっていた』ということを確認するのが難しいです。医師による熱中症という診断を受けているかどうかが、労災認定への大きなポイントになりえると思います」(勝又弁護士)

いざという時に、労災申請は可能だが、必ずしも認定されるとは限らない。やはり最初から熱中症にならないことが一番だろう。

自宅でのテレワーク「節電×暑さ」対策

テレワーク中の熱中症予防について、「熱中症ゼロへ」プロジェクトを手掛ける一般財団法人 日本気象協会(JWA)の担当者は〈室温のこまめな確認〉と〈水分補給〉を呼び掛ける。

「パソコンなどの電子機器を使う場合は、機器から発熱する場合もあるので、室温を確認し、適切に冷房機器を使用してください。また、のどがかわいていなくても、決まった時間に水分補給するようにするなど、意識して仕事の中に休憩や水分補給を組み込むと良いでしょう」(JWA担当者)

少し涼しい日などは、エアコンの使用を控え“節電”を行いたい人もいるだろう。熱中症対策には体を冷やすことも大切で 「太い血管が流れている首筋・わきなどを冷やす」と効果的だといい、「保冷剤や水にぬらして冷やすことのできるネッククーラーと扇風機の合わせ技で、手軽に体を涼しく保つことができますよ」(同)と話す。また、エアコンとサーキュレーターのダブル使いも節電に有効だそうだ。

熱中症対策「暑熱順化」とは?

さらに、熱中症対策として「暑さに負けない体作り」が一番大切だとして、JWAの担当者はこう続ける。

「体を暑さに慣れさせる『暑熱順化(しょねつじゅんか)』ができていると、熱中症になりにくくなります。暑熱順化には無理のない範囲で汗をかくことが大切です。日常生活の中で運動や入浴をして、汗をかき、体を暑さに慣れさせましょう。

また、食事と睡眠も大切です。暑いからと食べやすいものだけを食べるのではなく、バランスの良い食事を心がけ、睡眠環境を整えて、質の良い睡眠をとるようにしましょう。寝ている間にも水分は失われるため、就寝前後には水分を補給するようにしてください」

厳しい暑さ10月まで…!?

気象庁は、地球温暖化や南米・ペルー沖の赤道付近の海面水温が平年より高くなる「エルニーニョ現象」の影響で、今年は10月頃まで暑い日が続くと予想している。気温も光熱費も“高い”二重苦はまだまだ続きそうだ。

「熱中症は『いつでも』『どこでも』『だれでも』条件次第で発症する危険性がありますが、正しい予防方法を知り、普段から気をつけることで防ぐことができます。室内でも熱中症になる可能性や、予防・対策のポイントについての理解を個人や企業単位で深めることが大切です」(JWA担当者)

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