タイアップの底力を発揮?! 女王蜂「メフィスト」

トップ10圏内で目立ったチャート・アクションをしている楽曲だけでなく、10位以下でも面白い動きが多々ある。女王蜂の「メフィスト」もそんな一曲といっていいだろう(【表1】)。最新の2023年8月2日公開のBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で16位を記録しており、この2か月ほどの間、20位前後をキープし付けているのだ。

「メフィスト」は、女王蜂の通算9枚目のシングルである。ボーカルのアヴちゃんを中心とした4人組のバンドは、2011年デビューなので、いわゆる中堅バンドといっていいだろう。ここ最近はコンスタントにドラマやアニメのタイアップを押さえているが、この「メフィスト」も4月から放映されたアニメ『【推しの子】』のエンディング・テーマである。『【推しの子】』といえば、オープニング・テーマのYOASOBI「アイドル」が世界をまたぐモンスター・ヒットになっている。そう考えると、「メフィスト」にスポットが当たることは自然な流れといってもいいだろう。

ただ、当初のチャート・アクションはそれほど目立ってはいない。4月20日に先行配信されたが、そのタイミングである4月26日発表のJAPAN Hot 100ではダウンロード数のポイントを伸ばしたとはいえ総合チャートでは圏外。翌週5月3日発表でも74位という結果だった。5月17日にフィジカルのCDがリリースされ、ようやく5月24日発表のJAPAN Hot 100で43位と50位以内にランクインするのだ。

しかし、ここからじわじわと伸び始めるのがこの曲の面白いところ。大きな要因は映像での展開だ。4月の時点ではアニメ映像を使ったショート・バージョンの映像は公開されているが、オフィシャルのミュージック・ビデオは5月17日公開。さらには6月29日にライブ映像を公開し、7月14日には人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に登場している。これらの動きと連動するようにTikTokの投稿も急増し、ストリーミングが右肩上がりでポイントを伸ばしている。『THE FIRST TAKE』の映像公開直後にはラジオのオンエア回数も急増。さらにはカラオケでの歌唱回数も一気に50位以内に入ってきた。

アニメ自体は6月末で終了しているが、そのタイアップでの認知を生かしつつ、粘り強いプロモーションが大きな効果を上げていると言っていいだろう。そして、先日8月4日には、音楽番組『ミュージックステーション』にも初登場。地道に展開してきたことが、地上波での露出によってさらに大きくチャートに影響することが予想される。今週発表のJAPAN Hot 100では、その底力が花開くことだろう。

Text:栗本斉

◎栗本斉:音楽と旅のライター、選曲家。レコード会社勤務時代より音楽ライターとして執筆活動を開始。退社後は2年間中南米を放浪し、帰国後はフリーランスで活動。開業直後のビルボードライブで約5年間ブッキングマネージャーを務めた。2022年2月に上梓した『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が話題を呼び、各種メディアにも出演している。

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