クルーズ観光の進化とは 「飛行機で沖縄訪問し船で周遊」の新たな形 長期滞在や経済効果に期待も<沖縄DEEP探る>

 新型コロナウイルス禍を抜け、クルーズ船寄港の動きが活発化している。これまで着実に寄港数を伸ばしてきたが、県はより進化したクルーズ観光の拠点とすることを目指している。キーワードは「フライ&クルーズ」。沖縄をより魅力的なクルーズ拠点とするため、寄港した観光客がさまざまな手続きをとるためのターミナルの整備などを進めている。県が推進する方策をまとめた。 (與那覇智早)

 県は新・沖縄21世紀ビジョン基本計画の中で「質の高いクルーズ観光」の実現を掲げる。その中で記された「フライ&クルーズ」とは、飛行機で沖縄を訪れ、その後、沖縄の港を発着地として船で周遊するクルーズの形だ。前後泊が生まれ、観光客は県内により長く滞在することから、従来の寄港型よりも高い経済効果が見込まれる。県民も体験できるため、クルーズをより身近に感じてもらえる。

 沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)の下地芳郎会長は「単に寄港し、何時間か滞在するだけでなく、フライ&クルーズや、1日以上船が停泊するオーバーナイトが地域にとって効果が大きい。沖縄発着だと、船内での食事も沖縄の新鮮な食材を積み込んで提供することもできる」と展望を語る。

 ランドマーク

 クルーズ観光の新たな展開に向け欠かせないとされているのが港に付帯する旅客ターミナルだ。

 整備されることで乗降や外国客が入域する際のCIQ(税関・入国管理・検疫)手続きがスムーズになる。観光案内所なども設けることで円滑な誘導が可能となる。横浜や神戸、台北(基隆)などの大きな港には市民も利用できるランドマーク的なターミナルがある。県はクルーズの発着地として機能するために整備が必要だとしている。

 現在、県内で大型船が受け入れ可能なのは那覇市若狭の泊8号、港町の第2クルーズバース(第2CB)、沖縄市の中城湾港、本部町の本部港、宮古島市の平良港、石垣市の石垣港の六つ。旅客ターミナルを備えているのは泊8号と平良港のみとなっている。

 国際クルーズターミナルの整備に向け、県が用いるのが新たに創設された官民連携の制度だ。クルーズを運航する国際船社に旅客ターミナルを整備してもらう仕組みで、携わった船社はバースの優先予約が可能となる。今年2月に供用開始した第2CBは、制度が適用される港湾に選定されており、今後、MSCクルーズ(スイス)とロイヤル・カリビアン・クルーズ(米国)の各船社が連携しターミナルビルを建設・運営予定。両社は第2CBで年間最大250日間の優先予約が可能となる。

 環境にも優しく

 沖縄の島しょ性を生かし、経済効果の高い小型ラグジュアリー船で離島を周遊する「エクスペディション・クルーズ」にも期待が高まる。小型ラグジュアリー船の探検型クルーズを企画運営するポナン(フランス)は来年の3~4月にかけて県内を周遊するクルーズを五つ予定している。

 エクスペディション・クルーズは、少人数で地域の観光をメインに巡るため、地元への負荷が少なく、環境に配慮したサステナブルなクルーズとなる。ポナンの伊知地亮日本・韓国支社長は「沖縄は日本の中で唯一、沖縄だけの周遊で成り立つ地域だ」と可能性を語る。

 県は今後、小規模離島を巡るクルーズの展開を推進する予定だ。宮城嗣吉文化観光スポーツ部長は「エクスペディションは、岸壁が整備されていない小規模な離島を訪問することができる。沖縄の新しい観光のスタイルとして定着させ、アジアだけでなく、欧米豪の需要も開拓していきたい」と話した。

滞在長期化、経済効果に期待
 
 県の統計として残る最も古い1976年の海路入域客は12万8808人。沖縄観光の発展とともに寄港回数も増え、19年には581回の寄港があり、人数も過去最高の130万9100人となった。このほとんどがクルーズによる入域客だ。

 新型コロナの影響を受け、21年の寄港はゼロに。22年6月、2年4カ月ぶりに日本クルーズ客船の「ぱしふぃっくびいなす」が宮古島市の平良港に入港するなど、22年は4回の寄港があった。3月には国際クルーズ船「ウエステルダム」が寄港し、約3年ぶりにクルーズ船で海外客が訪れた。

 クルーズの内訳として、コロナ前は中国からの団体客がほとんどだった。しかし、中国政府が新型コロナの流行で海外への団体旅行を20年1月から禁止していることなどから、現在は中国からの団体の訪日客はなく、クルーズ入域も国内客がほとんどとなっている。中国政府は今年2月にタイやロシアなど20カ国で制限を解除したが、日本や米国には制限を継続している。

 クルーズ客はホテルなどでの宿泊を伴わないことから、県内での消費単価は低いという印象があった。しかし、データを見ると異なる。19年度は、外国海路客の1人当たり観光消費額は1万9886円。約106万人の入域があったことを踏まえ、単純計算すると外国海路客だけでも約210億円の経済効果があることとなる。

 県の統計によると、19年の外国客1人1日当たりの消費額は、海路客の1万9886円に対し、空路客は1万9164円と、大差はない。16年の外国海路客の消費額が同3万3656円と突出していたことについて、県の担当者は「クルーズ船の形態により、消費単価が変動する」と説明した。滞在時間が延びるフライ&クルーズや、小型のラグジュアリー船で小規模離島を巡るエクスペディションなどの誘致を推進することで、クルーズによる経済効果にさらなる期待が高まる。

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