米国のデフォルト回避、背景に民主・共和の根源的な立場の違い 深刻な債務抱える日本こそ国民的議論が必要【ワシントン報告⑥デフォルト回避】

米連邦議会にある初代大統領ジョージ・ワシントンの像=5月、ワシントン(AP=共同)

 米政府が借り入れられる金額の法定上限(債務上限)に近づいた6月初め、民主党のバイデン大統領率いるホワイトハウスと議会共和党は債務上限の適用を先送りすることで合意し、懸念されたデフォルト(債務不履行)を回避した。債務上限は「大きな政府」か、それとも「小さな政府」を支持するのかという両党の根源的な立場の違いに関わる。政争の具の側面があるのは事実だが、財政の在り方を見直す機会ともなってきた。はるかに深刻な債務残高を抱える日本こそ議論すべき課題である。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕)
 ▽GDP比で最も深刻
 世界経済を大混乱に陥れるデフォルトの回避直後、バイデン氏はホワイトハウスから「米国の信用が保たれた」と国民に語りかけ、安堵をにじませた。「合意に至らないことほど無責任なことも、壊滅的なこともなかった」と述べ、分断化が言われる米国において、党派を超えて合意に達した意義を強調した。5月に開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に予定していたオーストラリア訪問を取りやめ、協議のため帰国を早めた姿勢からも、債務問題の重要性が分かる。

米史上初の債務不履行を回避し、ホワイトハウスから国民に語りかけるバイデン大統領=6月2日(AP=共同)

 債務上限はもともと、政府が議会の承認をいちいち得なくても柔軟に国債を発行できるよう設定されてきた。債務上限に近づいたタイミングを捉え、デフォルトもやむなしと脅かしながら財政支出削減のきっかけに利用してきたのが、「小さな政府」を志向する共和党だ。民主党のオバマ政権期の2011年にも債務上限に近づき、共和党との難交渉を経て上限の引き上げで対応したことがある。
 米国の債務残高は30兆ドル(約4200兆円)を上回り、国内総生産(GDP)の1・25倍程度に当たる。G7各国では、ドイツや英国はずっと抑えた水準にある。日本の債務残高は米国より少ない1千兆円超だが、GDP比で見ると2倍を大きく超えており、最も深刻といえる。「失われた30年」とも言われる中、日本の残高は積み上がる一方だ。

2011年8月2日、ホワイトハウスで声明を発表し、演壇を後にする当時のオバマ米大統領(ロイター=共同)

 ▽「財政を広く議論」
 財政赤字が一概に悪いわけではない。不景気の時には積極的な財政支出が必要になる。問題なのは、今の日本のように削減できる見通しがないまま債務が増え続ける状態だ。
 米国の場合、一見「小さな政府」を推進する共和党に任せれば、財政再建が図れるように思えるが、富裕層に対する減税政策が結果的に債務の増加につながることもある。「ブッシュ(子)、トランプ両政権の減税政策が、債務を57%増加させた」(財政専門家のボビー・コーガン氏)との分析もある。
 今回債務上限が近づいたことで、米メディアは減税の在り方に加え、社会保障費や国防費をどうするべきか論陣を張った。社会保障費が大きな負担となっている点は日本とも共通する。政策決定に影響力を持つシンクタンクでは勉強会や討論会が開かれた。主張の是非はともかく、議会襲撃事件などの捜査を批判する共和党のトランプ前大統領による「司法省や連邦捜査局(FBI)が正気を取り戻すまで、議会共和党は予算を止めるべきだ」といった発言も、そうした議論の一環である。予算は税金で成り立っており、国民の主体的な議論の積み上げが欠かせない。
 日本の財務省関係者は「財務省が取り回す日本と違って米国は議会が予算を編成する事情もあり、財政が広く議論されているように映る」と語った。

税制改革法案に署名したトランプ米大統領(当時)=2017年12月22日、ワシントン(ロイター=共同)

 ▽安倍元首相回顧録の批判
 米議会超党派の対日友好議員連盟「ジャパン・コーカス」共同議長のエイドリアン・スミス下院議員(共和党)は歳入委員会のメンバーだ。日本を念頭に予算と税制の関わりを問うと、「結局、成長に結びつく形での税制が望ましい」と答えた。確かにその通りだが、やり方が難しい。
 日本財務省は財政健全化に向けた道筋を付けるべく試みてきたが、有権者の意向をくむ政治家の抵抗もあって失敗している。財務省を敵視した安倍晋三元首相の回顧録は、2017年に予定していた消費税の引き上げ延期を巡り「予定通り消費税を引き上げていたら、経済は大変なことになっていましたよ」と批判した。
 それは事実だとしても、先送りに伴う債務は後の世代につけとして回る。取り返しが付かなくなってからでは遅い。

東京・霞が関にある日本の財務省

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