<金口木舌>私欲の政治家と無欲の政治家

 「悪魔の辞典」という本がある。米国の作家ビアスが約100年前に書いた、風刺と皮肉たっぷりのパロディー辞書だ。例えば「猫」は「家庭内で事がうまく行かなかった場合に蹴飛ばすための(略)柔らかくて壊れることのない自動人形」と毒舌だ▼「政治」については「私の利益のために国事を運営すること」。「市会議員」は「頭のいい犯罪人。おのれが密(ひそ)かに行う盗みを蔽(おお)い隠す」と手厳しい。「東京都知事」の項目があったら、今どう書かれるか

▼舛添要一都知事の公私混同ぶりが際立っている。知事就任前、家族旅行の宿泊費37万円を政治資金から出していた。釈明会見では「会議をしたから政治活動だ」と居直った。会社員が家族旅行中に少し仕事をしたからといって、経費を支払う会社はあるまい

▼他にも、私的な飲食費や趣味の美術品購入を政治資金から流用していた。公用車での別荘通いや高額海外出張でも不信が募っている。世間の金銭感覚からずれている

▼「世界一質素な大統領」と呼ばれたウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領は、私利私欲に走らなかった。豪華な公邸には住まず、報酬の9割を慈善団体に寄付していた

▼ムヒカ氏はこう語る。「金持ちは政治の世界から追放されるべきだ。商売のために身をささげるから。政治とは全ての人の幸福を求める闘いなのだ」。舛添さん、耳が痛くないですか。

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