もっと早く上場廃止を決断していれば…東芝TOBの「自業自得」

東芝の再建は社内でもっとも抵抗が強かった上場廃止で決着する(Photo By Reuters)

東芝<6502>は7日、日本産業パートナーズ(JIP)など国内連合による同社のTOB(株式公開買い付け)が、8日から始まると発表した。募集価格は発表前営業日の終値4577円に0.94%のプレミアムをつけた4620円で、買付総額は約2兆円の見通し。TOB成立後に上場を廃止する。

投資ファンドを太らせただけの東芝再建

アクティビスト(物言う株主)からの影響力を排除し、経営再建に取り組むのが狙い。TOB資金はローム<6963>が3000億円、オリックス<8591>が2000億円、日本特殊陶業<5334>が500億円など20社を超える国内企業が拠出し、残りは銀行団が融資する。

東芝は2015年に粉飾決算や子会社米ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニーの巨額減損処理が明らかになり、経営危機に陥った。2017年8月には東証1部・名証1部から東証2部・名証2部へ「降格」され、東芝は6000億円超の債務超過を抱えて上場廃止も懸念されるようになる。

そこで東芝は同12月に海外投資ファンドを対象にした第三者割当増資を実施し、約6000億円を調達。ウエスチングハウス関連の税務上損失を確定、税軽減効果もあって債務超過の解消に成功して上場廃止を免れた。増資に伴う株価の上昇を受けて、1年以内に増資した株式の45%が売却された。新株発行から4日目に引き受けた株式をすべて売却して大きな利益をあげたファンドもある。


回り回って、最も嫌悪していた「上場廃止」に

これが最初の「誤り」だった。第三者割当増資を引き受けたアクティビストは株式の保有を続け、その後の東芝にとっての深刻な悩みのタネになる。2021年1月に東証1部・名証1部への復帰が実現したが、東芝の経営はアクティビストからの干渉に苦しむ。

2021年4月にアクティビストからの影響力を排除すべく、前年に就任した車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が古巣の英CVC キャピタル・パートナーズに買収してもらうことで打開を図ろうとした。しかし、買収に伴う上場廃止を嫌った社内からの反発で車谷社長は辞任に追い込まれる。

これが第2の「誤り」だった。車谷社長を追い出した東芝経営陣は、アクティビストとの融和策に舵(かじ)を切る。しかし、アクティビストはバラバラの要求を突きつけ、収拾がつかなくなった。追い込まれた東芝経営陣が、国内外の投資家から企業戦略を公募するという前代未聞の事態にまで発展する。

その結果、今回のTOBによる上場廃止に。元を正せば上場廃止に対する社内の強い抵抗が、アクティビストを呼び込み、経営の混乱を招いた。過去に2回あった上場廃止の機会を逃さなければ、再上場もずっと早かっただろう。株式上場にこだわりすぎたことが、東芝再建を遠回りさせることになったのだ。「自業自得」とはいえ、なんとも皮肉な幕切れとなった。

文:M&A Online

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