Jリーグ不在の福井県に存在感を見せる「福井丸岡RUCK」。女子フットサルで人を惹きつけるワケとは

屋内で行うフットボールの一種として普及している「フットサル」。フィールドで行うサッカーと比べてチームの人数が少ないことやより小さなピッチでプレーできるなど、手軽さが魅力である。

ただ、プレーするスポーツやレジャーとしてはサッカー以上に広がっている一方、「見るスポーツ」としては日本において発展途上である。男子のフットサルリーグ「Fリーグ」も興行としては観客動員にかなり苦戦している状況であるからして、女子のフットサルリーグではなおさらだ。

フットサルのリーグ戦はセントラル方式で開催されており、女子リーグではいわゆる「ホームゲーム」は年1回しかない。興行や露出という点では非常に難しいシステムだ。

ただ、そのような女子フットサルリーグで「男子チームを持たず、サッカー文化が強い地域や人口が多い大都市圏でもない」のに、大きい存在感を見せているチームがある。それが福井県坂井市をホームタウンとする「福井丸岡RUCK(ラック)」だ。

衝撃だった「2801人」

2016年に設立された日本女子フットサルリーグ初年度から参加し、2016-17シーズンに行われたプレ大会では優勝を果たす。さらに2017-18と2019-20シーズンにも3位と好成績をあげている。

また、コート内での結果だけではなく、その地元での盛り上がりという点でも特筆すべきものがある。2017年には当時の女子フットサルリーグ最多となる1104人を集め、さらに次年度には「3000人プロジェクト」と銘打ち2801人のサポーターを福井県営体育館に集めた。

もちろんそれはイベントもあっての爆発だったとはいえ、大都市圏にあるわけでもない女子フットサル単独のチームがコンスタントに数百人以上を有料で集客するのは簡単なことではない。

また、福井の地元メディアでも福井丸岡RUCKの名前を見る機会は多い。

はたしてどんなプロジェクトを持って運営されているのか。8月6日に行われた日本女子フットサルリーグ第7節の福井丸岡RUCK対バルドラール浦安ラス・ボニータスの試合に直撃してお話を伺ってみた。

目指すは「地域と応援しあえるチーム」

試合前にお話を伺うことができたのは、福井丸岡RUCKの創設者であり現在は監督を務めている田中悦博さんだ。

――今日はよろしくお願いします!まずは福井丸岡RUCKの成り立ちから教えてください。

元々私たちがFCラックという男子チームを作っていたんです。そして、丸岡中学校で女子サッカーチームが活動していたんですが、1991年にそのOGを受け入れる形で女子の部門を作ったというのが始まりですね。

北信越地域に女子サッカーがあまり普及していなかったので、福井でチームを立ち上げて、件の代表として北信越の大会に出るというのが最初の目標でした。

そして2002年に日本でワールドカップが開催されたんですが、私はそのころテクノポート福井(現在福井ユナイテッドFCの本拠地)というスタジアムのそばにある学校に務めていました。

そこで子どもたちを集めてキッズサッカーを始めたんです。そのあと、自分の娘と一緒に親子でサッカーができたらいいなと思って、キッズチームも立ち上げました。そうしたら、そのうちチームがフットサルと出会って…という成り立ちなんです。

――いつも色々な取り組みをされていると耳にしているのですが、運営や広報でどのようなことを大事にされていますか?

自分が教員をしているということもありますが、スポーツチームの役割というのは『みんなをつなげる』ことだと思っているんです。福井丸岡RUCKは、この福井県や日本の女子アスリートのハブになりたい。

女子サッカーというのは、まだまだマイノリティなんです。だから我々がみんなと繋がって、沢山の人とともに大きなものを作り出したいんです。

――女子フットサルで3000人近くを動員したときは驚きました。地元で試合が行われることが少ないシステムのなか、どう地域との関わりを進めてきましたか?

自分たちがその3000人近くの方々に来ていただいたとき、本当に皆さんに応援してもらったんです。おじいちゃんやおばあちゃんなど、様々な方々に。

それを機会に、むしろ自分たちが応援したくなった。我々がみんなを応援して、そして応援しあえる関係を作りたかったんです。

今日もバーモントカップ(U-12の全国フットサル大会)に出場する清水FCさんの壮行会を開催します。

また『さくらいと』さんという福井で頑張っているアイドルの方と一緒に応援歌を作ってCDを発売するんです。他にも今日は一筆啓上のよさこいチームにパフォーマンスをお願いしています。

福井で頑張っている人をみんな応援したいなと思っているんです。興行というよりも、それぞれが応援し合える場所。それがこのフットサルの場だと、そう意識しながらやっていますね。

メディアとの出会いは「かがやき基金」

――なかなかフットサルチームがメディア露出できない中、福井丸岡RUCKさんは地元の媒体でよく目にしますね。

自分たちは基本的に子どものチームなんですね。ある時、招待状がポルトガルから届いたんです。その時はアルコ神戸さん(※女子フットサルリーグ1部で神戸を本拠地としている強豪クラブ)も一緒に行ったんですけども。

その時、ちょうどU-15の大会や地域チャンピオンズカップで優勝していたので、福井に頑張っている子どものチームがあるということでFBC(福井放送)さんが『かがやき基金(顕著な成果を上げている個人や団体の活動を支援する基金)』に選んで下さったんです。

そこで100万円を頂いて、それを使ってポルトガル遠征に行ったんです。そして、その時からFBCさんはスポンサーになって下さって、今日も撮影に来てくれます。そうしていい関係が作れているという感じですね。

選手たちも本当に素直で素朴なので、メディア受けもするんじゃないかと思います(笑)。

――今年唯一のホームゲームとなる今日、具体的に改めてどんなイベントを?

「一筆啓上・古城おじゃれ」というよさこいチームの方々に来ていただいて、大きな丸岡城の旗を入場のときに掲げます。試合を放送する「SPOTV NOW」さんの映像にいれていただければと思っています(笑)。

また『さくらいと』さんのCD発売ですね、『勝ったもどうぜん』という応援歌を選手とともに作ってもらったんです。その生歌とともに入場するので、ぜひ聞いていただければと思います。

そして、清水FCさんとのエキシビションマッチですね。興行ではなくて、みんながここ福井で頑張っている姿を見せる。それが今回の試合の目的です。

目の前で無料のイベントがあるので(同日の同会場では福井ユナイテッドFC主催の『ハピネスフェスFUKUI』が行われていました)、そっちに行っちゃうかなというのもありますが(笑)。

我々ももちろんこのイベントに出てくださる方々に謝礼をお支払いしなければならないので、どうしても有料にはしなければいけない。

福井の方々はまだまだ無料のイベントに慣れていて、お金を出してまでスポーツを見てくれないところもあるのですが、我々がその文化を作っていかなければいけないなと思っています。

――ありがとうございました!

なお、試合は現在女子フットサルリーグ3連覇中の強豪バルドラール浦安ラス・ボニータスが3-0と実力を見せ、残念ながら福井丸岡RUCKは今年唯一のホームゲームで敗北。

ただ、目の前で福井ユナイテッドFCの無料イベントが行われるという状況のなかで会場となった福井県営体育館には500人以上のファンが詰めかけ、非常に盛り上がりを見せていた。

試合後の記者会見で、千葉県の浦安市を本拠地とするバルドラール浦安ラス・ボニータスの米川正夫監督は、福井丸岡RUCKの運営について以下のように話していた。

米川正夫監督

「相手のホームでお客さんも入っていたのでとてもいい雰囲気で試合ができたことは本当に良かったと思います。

うちの運営に関して言えば、男子チーム(バルドラール浦安:Fリーグ)があるのでクラブの規模感としては他よりもしっかりしていて、お客さんもついてきます。また先月のホームゲームに関しては選手が主導して集客を頑張ろうといろいろなイベントをやってくれました。

選手自身がどれだけ人を呼べるかという点では大事だと思います。周りの人も見に来てくれないのなら、当然知らない人が見に来てくれるはずがないのですから。

福井丸岡RUCKさんは都心部と比べれば興行で人を集めるのは大変だろうなと思いますが、そのなかで比較的集客できているというのはみんなの努力の成果ですね。選手の家族も運営に関わっていて、ファミリー的な雰囲気もいいですね」

そして、福井丸岡RUCKの池内天紀選手も試合後「お客さんが入ってくれると、見てもらっているからこそいつも以上のプレーを見せたいと思うことができますね」と話していた。

福井丸岡RUCKのキャプテンを務める10番の池内天紀選手

また、福井丸岡RUCKでは選手たちが「ガラクタチャンネル」というYoutubeチャンネルでも活動していることで知られる。

他に学業や仕事があり、さらにフットサルの練習もありながら、さらにYoutubeの活動も行うことは負担にもなりかねないものだが、どのような感覚で取り組んでいるのか。池内天紀選手は以下のように話していた。

池内天紀選手

「Youtubeは自分たちから始めたんです。選手の素顔を見せるようなものが多いんですけど、飾らずに中身を見てもらおうと。

いろんなところに訪問しても福井の方々は暖かくて、いつも応援してくださるので、感謝を伝えることができます。もちろんこれからの応援もお願いしたいというのもあって、撮影しています」

Jリーグのクラブが存在しない数少ない県の一つである福井。そこでスポーツを軸として「地域で相互に応援し合える」触媒になろうとしている福井丸岡RUCK。

もちろんまだまだ発展途上ではあるものの、女子フットサルというカテゴリーのみならず、様々なスポーツ、様々な地域の活動に影響を与えられる存在になっていきそうだ。

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なお、日本女子フットサルリーグの次節は8月25日から26日にかけて茨城県のニューライフアリーナ龍ケ崎で開催される予定となっている。

セントラル開催のため、リーグに参戦している11チームのうち10チームが同じ会場で試合を行う。また試合は「SPOTV NOW」で放送されるため、遠方からも観戦することが可能だ。

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