class「夏の日の1993」ドラマティックなハーモニーの秘密【90年代夏うた列伝】  爽やかな歌声とメロディーが暑い夏に一服の清涼感を与えてくれる「夏の日の1993」

爽やかな歌声とメロディーが暑い夏に一服の清涼感を与えてくれる「夏の日の1993」

♪1993 恋をした Oh 君に夢中

―― この歌詞で始まるサビを聴くと、歌詞のようなシチュエーションに全く無縁だった筆者でも、若かりし日の夏を思い出します。ちょうど30年前の正に1993年に大ヒットした「夏の日の1993」は、爽やかな歌声とメロディーが暑い夏に一服の清涼感を与えてくれる、夏の大定番曲になりました。

歌詞はとっても軽いのに、楽曲のクオリティーがその軽さを完全にかき消しています。音楽はまず旋律と歌声が大切なのだという当たり前の法則を、とても分かりやすく示してくれる1曲だと思います。

爽やかさとは違う何かを感じるハーモニー

この曲の大事な要素の1つが、ボーカルのハーモニーです。歌声やメロディーと同様に、ハーモニーからも爽やかさを感じますが、筆者はこの曲のハーモニーを聴くと、爽やかさとは違う何かを感じるのです。それが何なのかを、ハーモニーを詳しく見ることにより紐解いていきます。

ハーモニーの構成は比較的オーソドックスだと言えるでしょう。Aメロの途中から少しずつハモりが入り始め、サビでは全体にハモりが入ります。サビでずっとハモりが続くことで、恋に落ちた気持ちの高まりが感じられます。

ハーモニーのパターンもオーソドックスで、主旋律に少し高い音を重ねる “上ハモ” や、逆に低い音を重ねる “下ハモ” といった、典型的なハモりがほとんどです。なので「夏の日の1993」は全体を通して、心地よく歌声を聴くことができるのだと思います。

ハモりの構成やパターンが典型的であるにもかかわらず、ハモりの印象が強く残るのはなぜでしょうか。ハモりの旋律を筆者独自の譜面を用いて見ていきます。まずはAメロ〜Bメロのハモりを図示します。歌詞は1番のみ記載していますが、2番やリフレインでもハモりの旋律は同じです。

Aメロ(上図上段)は上ハモが入ります。上ハモは最も一般的と言ってよいハモりであり、耳なじみがあるので心地よく聴けます。これがBメロ(上図下段)に入ると下ハモに変わります。上ハモの後に下ハモが来ると、ハモりのパターンが変わることで、ある種の緊張感がもたらされます。

この “上ハモと下ハモの入れ替わり立ち替わり” が、サビにも出現するのです。その様子を次の図で確認してみましょう。

1番の歌詞を追っていくと、

【上ハモ】1993 恋をした 〜
《下ハモ》普通の女と 〜
【上ハモ】Love 人違い 〜
《下ハモ》いきなり恋して 〜

という具合に、上ハモと下ハモが交互に現れます。ハモりの上下が頻繁に入れ替わることで、揺れ動く心情やドキドキ感が感じられる気がします。

“ドラマティック” なハモりで彩られている「夏の日の1993」

そして、サビのラスト。歌詞「夏の日の君に」の箇所は、それまでとは異なるハーモニーになっています(上図の赤い点線枠の箇所)。「夏」はオクターブユニゾン、続く「の」では音程が下降する主旋律に対してハモりの音程が上昇し、不思議な感覚になります。

残りの歌詞「〜日の君に」では普通の下ハモに収まるので、特徴的なハモりは「夏の」の3音だけです。ただ、この3音のハモりは荘厳な雰囲気が出る旋律であり、これがサビのクライマックスに来ることで「今年の夏はすごいことになりそう」というワクワク感が表れているように感じます。

これら一連のハモりを紐解く中で見えてきたことは、「夏の日の1993」が、歌詞にも出てくる “ドラマティック” なハモりで彩られているということです。ハモりの旋律が典型的なので全体的には爽やかな印象を保ちつつ、上ハモと下ハモの入れ替わりや、サビ終わりに瞬間的な変異パターンを入れることで、さりげなくドラマティックな雰囲気を醸し出している… このボーカルハーモニーの妙が「夏の日の1993」を印象的にする要因になっていると筆者は考えています。

今度「夏の日の1993」を聴く際には、ぜひハモりに意識を向けて聴いてみてください。爽やかさの中にドラマティックな夏を感じていただけるのでは? と思います。

カタリベ: 倉重誠

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