精神科医・和田秀樹さんが指南! 50代から「幸齢者」を目指す賢い老い方

「まだまだ体が動く70代は、“人生の黄金期”です。仕事や人間関係、子育てといったストレスから解放され、自分のための時間を好きなだけ使える時期だからです。ところが、高齢者になってからも、現役時代と同じように、人目を気にしながら自分のやりたいことを“我慢”して過ごす人たちが、じつは多くいるのです」

こう語るのは、『幸齢者』(プレジデント社)の著者である精神科医の和田秀樹さん。

和田さんは、これまで老年医療の専門家として6000人以上の高齢者と向き合ってきた。そのなかで、“あのときやっておけばよかった” “あのとき行っておけばよかった”と、後悔を口にする高齢者をたくさん見てきたという。

「年を取ってからは、いま楽しんでおかないと、後で楽しめなくなる。そう捉えて生きていくべきなのです。もっと言えば、いま楽しんでおかないと損だというぐらいの考え方でいいと思います。なぜなら、自分のやりたいことを好き放題やったほうが、健康で楽しく、幸せを感じながら生きる“幸齢者”になれるからです」(和田さん・以下同)

■できることを楽しむマインドリセット術

人は年齢を重ねれば重ねるほど、これまでできていたことが、どんどんできなくなっていく。

だが、悲観したり嘆く必要はまったくない。和田さんは、“できないことはできないこととして受け入れる”。そして“できることを維持しながら楽しもう!”という発想に「マインドリセット」すれば、人生を豊かにすることができるというのだ。

「たとえば、“オムツなんかしたくない” “補聴器をつけたくない” “車いすに乗りたくない”など、自分のプライドや、世間体ばかり気にしていると、行動範囲がどんどん狭くなります。それは老後の楽しい人生を自らが閉ざすことにつながります。そこで発想を変える。“年を取るってこういうことなんだ”と、老いを受け入れるのです。そして試してみる。その考えですべてを捉えると、意外と便利だと気づきます。うまく利用すれば、これまでどおり旅行に行ったり、おいしいお店に行くこともできる。外に出れば、新たな出会いや会話も生まれ、好奇心を失うことなく、充実した人生を続けることができるのです」

70代以降は、社会の体裁や固定観念にとらわれず、さまざまな価値観を「マインドリセット」することが大事だという。

では、具体的にどんなことを「マインドリセット」すべきなのか。和田さんに、3つの大きなポイントを挙げてもらった。

【1】お金のマインドリセット

「まず、“お金は貯めるものではなく、使ってこそ幸せになる”という考え方に変えましょう。動ける間に、自分の趣味や好きなものにお金を使っておかないと、いつ使えなくなるかわかりません。ある日突然転んで足を骨折し、歩行困難になる。あるいは、脳梗塞を起こし、その後認知症になることもありえます。“元気なときに海外旅行に行っておくべきだった” “大好きなファッションにもっとお金を使っておけばよかった”と、死ぬ間際に後悔しないためにも、自分のためのお金は使うべきなのです」

年金を利用しながら、生活に必要なお金は残しつつ、自分の心が満たされるお金の使い方をする。これが “幸齢者”として楽しく過ごすための基本ポイントだ。

【2】食事のマインドリセット

「血圧やコレステロール値が高いから、塩分や脂肪分が多いおいしい料理は食べないで我慢しているという高齢者はたくさんいます。でも、好きなものは食べていいのです。自分の欲を制限することは、かえって大きなストレスとなります。ストレスを抱えると免疫力が低下するので、むしろ病気になりやすくなる。できるだけストレスのない生活を実践し、免疫力を高めることのほうが大事だというのが私の考え方です」

和田さんによると、血圧やコレステロール値が極端に高い場合は問題だが、基準値よりも少しオーバーしている程度なら、気にする必要はないそうだ。

【3】病気のマインドリセット

「長年、老年医療に携わっていると、高齢者の方々は“医者に嫌われてはいけない”という発想をお持ちの方が非常に多く、それがストレスになっているケースも。たとえば、処方された薬が自分の体に合わないのに、嫌われたくないから我慢して言わない。あるいは、治療方針に疑問があるのに、そのまま聞き入れてしまう……。そういう意識は、『マインドリセット』すべきです」

医者には言いたいことをハッキリと伝える。信頼できる医者であれば、患者の話をしっかり聞いて対応するはず。そうでない医者の場合は、すぐにクリニックを変えるという発想に切り替えるのだ。

■50代から始めるといい「チャレンジ」する習慣

このように、70代以降もストレスをためず、充実した老後を送るために、50代から始めておくといいことがあるそうだ。それは新しいことにチャレンジする習慣を身につけておくこと。

「人間の脳の中にある前頭葉は、50代、60代になるにつれて衰えていきます。前頭葉が劣化すると意欲が低下し、物事への関心が薄れていく。そして思考の切り替えも悪くなるので、新しい発想や創造性がなくなっていきます。しかし、50代から日常的に前頭葉を刺激することで、70代、80代になっても老化を遅らせることができる。最も効果的なのが、ジャンルを問わず、いつもと違うことに挑戦すること。毎日が実験だと思ってトライする習慣を身につけておけば、前頭葉の機能を高めることができるのです」

たとえば、ランチは決まった店にばかり行くのではなく、ときどき初めての店にトライしてみる。おいしくないかもしれないが、未知の領域に足を踏み入れることで、前頭葉が刺激されるという。

「老化を遅らせることができれば、70代以降も継続して、自分でやりたいことを長く続けられます」

50代、60代のうちから、70代以降は“老いを受け入れ、我慢せずに好きなことをやる”。そして“年を取ると楽しいことが待っている”と楽しみにするーー。

今から“幸齢者”の意識を持っておくことも、賢い老後の生き方かもしれない。

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