J-P.デ・オリベイラ、待望のハイパーカーデビュー。将来は「勝てるパッケージ」でのビッグレース参戦目指す

 7月7〜9日にイタリアで行われたWEC世界耐久選手権第5戦モンツァ6時間レース。中継映像にはあまり映らなかったが、このレースでジョアオ・パオロ・デ・オリベイラがフロイド・ヴァンウォール・レーシングチームの4号車ヴァンウォール・バンダーベル680でハイパーカークラスにデビューを果たした。

 1981年生まれ・ブラジル籍のオリベイラは2004年に来日、全日本F3選手権に参戦すると、翌年に王座を獲得。06年にはフォーミュラ・ニッポン(当時)にステップアップし、同時にスーパーGT・GT500クラスにも参戦を開始した。2010年にはフォーミュラ・ニッポン王者となり、2020年と2022年には再び参戦したGT300クラスでもタイトルを手にしている。

 そんな“日本育ち”のオリベイラのWEC最高峰クラスデビューは、どんなレースだったのか。そして、この先に目指すものとは? GT300クラスのランキングトップで迎えた第4戦富士スピードウェイの走行前日に話を聞いた。

■「日本でのキャリアについては、とてもハッピー」

「もともとチームオーナーのコリン(・コレス)とは長い付き合いなんだ。彼が最近になって(トム・)ディルマンとの契約を終了したので、『モンツァと富士で、空いたシートに乗らないか』と連絡をくれた」とハイパーカー・ドライブの経緯を説明するオリベイラ。

「もちろん、シーズンの途中で自分にとって新しいクルマに飛び乗ることは、とてもチャレンジングなことだ。だけど新たなチャレンジを楽しみたかったから、参戦することに決めたんだ」

 突然の“シンデレラ・ストーリー”のように感じられるかもしれないが、ちゃんと伏線はある。2022年末、オリベイラはヴァンウォールのウインターテストに参加していた。

「バルセロナで1回だけ、テストに参加した。ただ、現在とはクルマは随分違うものだったし、僕自身はあまりドライブできなかったんだ。たぶん、30周くらいだったと思う。だからそこで充分な経験ができたわけではないけど、クルマがどういうものかというのは少し理解できた」

 今回のモンツァでは、慣れないマシンに加え、コース自体も初走行だったが、旧知の仲も多いチームに温かく迎えられ、いろいろと助けられたという。しかし、プラクティスでも試練が襲いかかる。

「FP2のアウトラップでエンジンに問題が見つかって、そのままFP3に向けてエンジン交換をすることになってしまったんだ。だから、3人のドライバーのなかでも、僕は理想的な周回数を走れないまま、決勝を迎えてしまったんだ」

2023年WEC第5戦モンツァに参戦したジョアオ・パオロ・デ・オリベリラ。第6戦富士にもエントリーしている

 タフな状況で迎えた決勝レース、4号車は第4戦ル・マンからジャック・ビルヌーブに代わる形で参戦を開始したトリスタン・ボーティエがスタートを担当。そこからエステバン・グエリエリへとつなぎ、スタートから2時間50分が経過したところでオリベイラのスティントが回ってきた。

「プラクティスでは軽めの燃料量でしか走っていなかったから、このクルマを満タンで、しかも暑いコンディションで運転するのは決勝が初めてだった。タイヤウォーマーは禁止だから、アウトラップでミシュランタイヤを温めるのも少しトリッキーだったね。とくにモンツァは、ピットアウトしたらすぐに第1シケインでハードブレーキングをしなくてはいけないから、とてもチャレンジングだった」

 オリベイラは2スティント、およそ1時間15分をドライブし、自身の役目を終えた。今回はミスなく、楽しんで走ることが目的に置かれていたことから、オリベイラは初のハイパーカードライブに満足しているという。

「レースでミスやエラーなくドライブし、クルマを理解し、データを集めて、チームを助けること。それが僕の目標だったけど、達成することができたよ」

2023年からWECハイパーカークラスに参戦しているヴァンウォール・バンダーベル680

 すでにエントリーリストが発表されている9月の富士戦はもちろん、オリベイラにとっては“ホームレース”。地の利を活かして、チームに貢献したいところだろう。

「もちろん、僕らのクルマと、マニュファクチャラーのハイパーカーとの間には、富士でも2〜3秒のギャップがあると思うんだ」とオリベイラは現状のパフォーマンス差を冷静に分析する。

「だから、リザルトがもっと良くなるとは予想していない。ただ、コースをよく知っているから僕自身はもっと良くなると思うし、モンツァでタイヤについても学ぶことができた。だから、より心地よくドライブできると思うよ」

 これまで日本で活躍を重ね、今季はGT300では3度目のタイトルも射程に捉えているオリベイラ。42歳を迎えたいま、このWEC挑戦は彼にとってどんな未来につながるのだろう。

「僕は、日本でのキャリアについてとてもハッピーに感じている。ただ、僕はチャレンジが大好きなんだ。とくに長い距離の耐久レースを走ることがね。だからもし、ル・マン24時間やニュル24時間、スパ24時間、デイトナ24時間といったレースに出場して勝つことができるのであれば、それは僕のキャリアをより満たしてくれるものになる。そういったレースに“勝てるパッケージ”で出場できることを望んでいるよ」

「もちろん、日本ではたくさんの人が僕のことを知ってくれているけど、ヨーロッパではそうではない。だから、ステップ・バイ・ステップで、良いリザルトを積み重ねていかなければならない。どうなるか見てみよう。来年、ル・マン(WEC)はGTカーの規則が変わる(GT3になる)から、より多くのチャンスがあると思う」

 今年のモンツァと富士に関してはリザルトは気にせず「基本的には、楽しみたい。ノー・プレッシャーだからね」と語るオリベイラだが、多くを吸収してその名をWECの世界に知らしめ、将来へのステップにしたいところだろう。

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