Vol.68 「スタンドアロン」ドローン開発の最前線となるウクライナ[小林啓倫のドローン最前線]

戦争と技術開発

戦争は多くの技術を進化させる。自分や自国の人々の命がかかっているという、厳しいプレッシャーの中で技術開発が進められることに加えて、アイデアをすぐに実戦で検証し、改善につなげられるからだ。たとえば第1次世界大戦では戦車が初めて実戦投入され、その性能も大きく向上することとなった。同じことが、第2次世界大戦における航空機(戦闘機や爆撃機)についても言われている。

そしていま、ロシアのウクライナ侵攻によって生じたウクライナの戦地では、ドローン技術の進化が続いている。中でも注目されているのが、スタンドアロンで目的を遂行するAIドローンだ。

過去の記事でも何度か取り上げたように、いまウクライナでは、小型のドローンがロシアに対抗する手段として大きく注目されている。当初は監視任務が主な用途だったが、爆弾を搭載し、ロシア側に攻撃を加えるケースも増えている。

https://www.drone.jp/column/2023042810014865867.html

しかしロシアも手をこまねいて見ているわけではない。ドローンに対して妨害電波を発し、制御を奪う技術を展開している。これは特に新しい技術というわけではなく、各国でもテロ対策や空港等での安全管理(民間のドローンが間違って離着陸しようとしている航空機に近づくのを防ぐ)を目的として開発・展開が進んでいるものだが、CNNの報道によれば、ロシアはウクライナが飛行させているドローンに対し、簡単に着陸を強いることができるようになっているそうである。

これはロシアではなくウクライナ側の類似技術を紹介している映像だが、ライフル銃を一回り大きくした程度の機器でも、敵側のドローンに着陸を指示することが可能になっている。

こうした妨害技術に対抗するためにウクライナが研究しているのが、外部からの制御を必要とせず、搭載されたAIだけで飛行が可能なドローンというわけだ。文字通りスタンドアロンのPCを飛ばしているようなもので、外部とのやり取りが発生しない以上、強制着陸の指示に従うこともない。

進化するスタンドアロンAIドローン

ワシントンポスト紙の記事によると、スタンドアロン型のAIドローンを開発しているのはウクライナに拠点を置くドローン企業で、彼らはあらかじめ設定されたターゲットにロックオンし続けるAIを実現することまで成功しているそうだ。つまりターゲットが移動したとしても、それを追尾して(物理的特徴などから対象物を認識するとのこと)攻撃などの目標を達成することができるわけである。

そうしたドローン開発に携わる企業の数は、実に200以上。ウクライナは決して、中国のようなドローン開発の先進地であったわけではないが、戦争によって事態が一変したわけだ。自国を守るため、ドローン開発に大勢の研究者と、多額の投資が集められている。そうした投資を行う人物の中には、Googleの元CEOとして知られるエリック・シュミットも含まれているそうである。

当然ながらこうした技術開発の推進については、ウクライナ政府もバックアップしており、たとえばウクライナ国防省はロシアのドローン妨害技術を企業と共有しているとされる。さらに政府はそうした妨害電波を、テストのために自由に発信することも許可している。

この点は非常に重要だ。対抗したい技術をいくら理論的に解析したとしても、実際に試してみることに増すテスト手段は存在しない。まさに「百聞は一見に如かず」というわけである。そして前述の通り、開発した技術を、実際に実戦で試してフィードバックを得ることができる。ロシアという軍事大国が実戦に投入している最新のドローン妨害技術に対して、研究成果を試してみることができるわけだ。ワシントンポスト紙の記事では、ドローン開発企業関係者の「だからこそ、この分野はウクライナが世界トップクラスのソリューションを開発する現実的な機会のひとつ」というコメントを紹介している。

また同紙の記事には、米ワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンクのコメントとして、「この戦争の両陣営で、何万人もの人々がドローンの訓練を受けており、この経験が広く拡散される可能性が非常に高い。その中には極悪非道な人物も含まれるだろう」という予測も紹介されている。そして「極悪非道な人物」の例として、ギャング集団や過激派組織を挙げている。

残念ながら戦争が技術を進化させることに加えて、そうして進化した技術が戦後に一般へと普及することも、過去の歴史が証明している。インターネットのルーツも、もともとは冷戦時代の軍事研究であり、他にも多くの技術も軍事から民間へと応用されてきた。ウクライナで進化したスタンドアロンAIドローンが、悪用されることなく、私たちの日常生活にとってプラスとなるよう祈るしかない。

© 株式会社プロニュース